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夜、ベッドの中。
俺は、泣いていた。
目を閉じても、陽翔さんの表情が焼き付いて離れなかった。
「……なんで、こんなに苦しいんだろ」
ひとりで泣くの、もうやめたい。
でも、誰の名前を呼べばいいのか、わからなかった。
そのとき――
ノックの音。
「……入るぞ」
静かな声。奏さんだった。
そっと入ってきた彼は、俺の横に腰を下ろした。
「泣いてたのか」
「……ごめん、全部俺のせいで」
「違う」
その一言に、思わず顔を上げる。
「陽翔が泣いたのは、俺が原因だ。
お前と、こっそり繋いだ手を、見られてた。
……隠すつもりはなかったけど、怖かった」
「怖い……?」
「お前が、陽翔を選んだらって思ったら。
ずっと……苦しかった」
不器用すぎる言葉。
でも、真っ直ぐな声だった。
「もう、嫌なんだよ」
奏さんが、ぎゅっと俺を抱きしめた。
少しだけ乱れた息が、俺の耳に触れた。
「逃げんなよ。選ばなくていいから、ちゃんと見てろよ。
……お前のこと、ふたりとも本気で好きなんだから」
そしてそのとき、もうひとつの声がした。
「俺も、同じこと言いに来たんだけどな~」
ドアの隙間から、陽翔さんが顔を出していた。
笑ってるけど、目が赤い。
「ごめん、怒ってごめん。
でも、俺も君のこと好きで、諦めたくなかった」
陽翔さんがゆっくり近づいてくる。
そして、片膝をついて、俺の手を握った。
「どっちか選べない? ……いいよ、じゃあ俺たちが選ぶ」
「君が笑っててくれるなら、それでいい」
「なあ、奏。お前もそうだろ」
奏さんは、小さく頷いた。
そして、もう片方の手が、俺の頬にそっと触れた。
「……俺たちのものになれよ」
その瞬間、心がふわっと軽くなった。
あたたかい。
優しい。
ずっと欲しかった“家族”とは、違うかたちの、愛の手だった。
俺は――
どちらの手も、強く握り返した