夜、部屋の電気が落ちた。
静かな時間。
でも俺の心臓は、静かじゃなかった。
左右に感じる温もり。
ベッドの両側から、そっと伸びてくる腕。
右は、陽翔さん。
あったかくて、包み込むみたいに肩を引き寄せられる。
「……今日も可愛かったね、うちの弟くん」
甘えるような声。首筋に落とされるキス。
左は、奏さん。
無言だけど、指先が俺の手を探して、ぎゅっと握ってくれる。
そのまま髪に顔をうずめて、静かに吐息を落とす。
「……お前の全部が、俺にとって大事だ」
ダメな関係かもしれない。
でも、こんなにあたたかいのを、間違いだなんて言わせたくなかった。
「俺……ふたりがいてくれて、幸せだよ」
そう言うと、両側から優しい声が重なった。
「俺もだよ」
「……俺も」
背徳なんて言葉は、もうどこにもなかった。
ただ、
“好き”って気持ちだけが、この夜を優しく満たしていった。
ふたりの胸の中で、俺は目を閉じる。
(こんな愛され方、ずるいよ……)
けど、それでも。
この腕の中が、いちばん落ち着く場所だった。