ドンッドンッ
銀次「俺が出る」
朝食を食べていると戸を叩く音が聞こえた。
どうやら迎えが来たようだ。
外に出ると銀次さんと男性が話していた。
こちらに背を向けている為顔が見えない。
栞「銀次さん、そちらが文のやり取りをしていた『知り合い』ですか?」
私の声を聞いてその男性が振り返る。
紛れも無いその顔は虎之助さんだった。
虎之助「栞じゃねぇか?!声聞いてびっくりしたぞ!」
栞「虎之助さん?!私も知り合いとしか聞かされて無かったのでまさか虎之助さんだったとは」
銀次「2人とも知り合いだったのか?!」
栞「桜町に帰る途中之助さんに会って、料理を作って貰ったんです」
虎之助「漁師として新鮮な魚を目にしちまったらどうしても捌きたくなっちまうだ」
総悟「遅れてすまない。準備に手間とった」
虎之助「総悟か?!俺だよ俺!虎之助だ!」
総悟さんも驚いていた。
なんせ銀次さんからは『知り合い』とだけしか言われていなかったからだ。
虎之助「それでお二人さんよ〜最近仲良くやってんのか?え?」
栞「仲良く??」
虎之助「?だって栞は総悟の許嫁なんだろ??そう言ってたじゃねぇか」
銀次「許嫁………え!?!?!」
虎之助さんに怪しまれな様、私達の偽の関係を話したのだった。
そんな大事な事をすっかりと忘れていた。
総悟「しまった……。銀次に話すの完全に忘れてた」
銀次「総悟と栞は恋人だったのか……すまん、俺全然知らなくて………」
虎之助さんから許嫁と聞いてから銀次さんはやけに動揺してた。
栞「ち、違います!!これは誤解です!その、なんて言うか成り行き?でこんな事に……」
(ダメだ。焦り過ぎてドラマに出てくる浮気した夫みたいな事言っちゃってる)
総悟「はぁー、落ち着け。実は・・・」
話を聞き2人とも納得したようだ。
(グッジョブ総悟さん!ありがとう!)
何はともあれ虎之助さんが連れて来た馬で蒋済家へ行くことになった。
総悟「本当に1人で乗れるのか??」
栞「大丈夫です!いつまでも頼ってばかりじゃ申し訳ないですし」
乗馬の経験は、総悟さんの後ろに乗るくらいしか無いがこれも挑戦と思い1人で乗ってみることに。
落ちないか心配している総悟さんを横目に虎之助さんの真似をして背中に乗った。
栞「どうですか?!乗れてますよ私ー!」
総悟「良かったな」
それから虎之助さんにレクチャーしてもらい、ようやく出発した。
桜町から蒋済家までそう遠くは無かった。
度々才川家の連中を見掛けては遠回りや上手く誤魔化して逃げていた。
虎之助「着いたぞ。ここが蒋済家だ」
佳代の言っていた通り城からはただならぬ雰囲気が放たれている。
(こりゃあ誰も近ずかない訳だ)
虎之助を先頭に門まで行き入口を守っている兵に話をつけた。
門が開き敷居をくぐると玄関に居た女中が主人のいる場所へと丁寧に案内してくれた。
女中「こちらで御座います。秀信様お客様がお見栄です」
女中が戸を中に入っていくそれに続き私達も中へと入って行った。
広い座敷に無表情の男性とその斜め後ろに若い男性が座っていた。
部屋に入るなり空気は一変し重くなる。
補佐「足元の悪い中来てくれた事感謝する。
このお方はこの家の主である蒋済秀信様である」
虎之助「私がこの城の者に今回の話を持ち掛けた虎之助と申します。こちらは今回の件に関する栞と総悟です」
栞・総悟「宜しく御願い致します」
補佐「話は一通り聞いておる。才川家を懲らしめる方法とやらを細かく教えてくれないか」
栞「はい・・・」
説明を聞き終えると補佐は無言のまま考えていた。
すると今まで黙っていた秀信様が口を開いた。
秀信「我らが協力して得られるものは何だ 」
栞「地位と名誉です」
秀信「そんなものに興味は無い。 我は珍しい物を見てみたい。 交渉しよう、我らが協力する代わりにお前は我にこの世で1番珍しい物を授けると」
かなり難題な交渉だが強い味方が出来るならと条件を呑んだ。
話し合いが終わり、補佐が玄関まで送ってくれた。
補佐「栞…だったか。 交渉中珍しく秀信様の表情が変わった 。
私は幼少期からお傍に仕えてきたが数回しか見た事が無かったもんで驚いたよ 」
栞「この作戦が成功したらもっと色んな表情を見せてくれるかもしれませんね」
(幼少期に何かあってずっと無表情なのだろう。あえて聞かないでおこう)
補佐「そうなりゃいいけどな
気を付けて帰れよ」
栞「お邪魔しました」
蒋済家を後にした。帰り道条件である珍しい物について悩んでいた。
栞「やっぱりこの世で1番珍しい物っていったら外国からの代物とかですかね?」
虎之助「外国の代物はお偉いさん方にとっちゃ仕入れることなんざ普通の事だ」
総悟「確かに才川家の蔵には外国からの特産物も置いてある」
栞「うーん。どうしたものか………」
考えているうちに帰り着いてしまった。銀次さんに今日の出来事を話すと「良くやった」と褒めてくれた。
作戦は明日、日が沈み暗くなった瞬間実行する。
(才川家に忍び込むんだ。気を引き締め無くては)