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「それで、これらは何に使用する物でありますか? 対人用の武器か何かでしょうか? ……閣下(かっか)?」
「っ!」
本気でヤバかった、既に記憶の創作が現在進行形で始まっているんじゃ無いか?
善悪は慌てて言った。
「それは、食べ物でござる! おかずね、おかず! ささ、パンっをやって食べるでござるよ、ささ」
こんな事も有ろうかと、今夜準備したメニューはどれもビタミンb1豊富なものばかりである、早期完治も期待出来るだろうと善悪は考えていた。
だが、しかし……
「閣下、これが武器である事は帝国中の子供でも分かる常識であります。 これらを食せとは、賢明の誉れ高い閣下のお言葉とは思えませんが?」
――――どうするんだこれ? 既にハンバーグイコール武器で決定しちゃってんじゃねーか! 拙者の事も頑(かたく)なに『閣下』扱いだし、どうやら『帝国』? の軍人か何かの気分みたいだし…… ん? んん? 軍人? そうか!
善悪はコユキの顔に向けて、正面から努めて無表情を維持したままゆっくりと語り出した。
「何か勘違いをしているのでは無いか? 私は貴官に質問をしたのでは無い、食べろと言ったのは命令だ! この意味が、分かるな……」
「…………」
「どうした? 帝国への忠誠とやらは口だけの出任せか? 貴官が自分で決めるが良い、誇りを胸に抱き死すら恐れぬ気高き帝国軍人か、それとも自分で言っていた通り、汚らわしい虫けらに過ぎないのかをな」
そこまで言うと、善悪は座ったままであったが、僅かに顎を上げ、ジトッとした下目で蔑(さげす)むようにコユキを見つめた。
その冷たい(感じに見える)視線に、一瞬体を強張らせたコユキだったが、次の瞬間には覚悟を決めた顔つきに変わり、
「失礼いたしました、閣下! ご命令に従い、喜んで食べさせて頂くのであります!」
びしっと敬礼を決めて見せたのだった。
「その意気や良し! 良く見よ、貴官一人を行かせる訳では無い! 我も共に食するのだ! 恐れるな、見事完食して、帝国の矜持(きょうじ)を世に示さん!」
「サーイエッサーっ!」
やり取りを交わして、今度は二人揃って、パンっからの頂きますを済ますと、最早一切の躊躇も見せずにハンバーグを口に運ぶコユキであった。
ハンバーグを一切れ口に含んだ途端に、コユキの顔は驚愕に塗り替えられた。
恐らく、溢れ出した肉汁の甘みと、官能的で又種類の違うナツメグの香り高い甘み、その両方を補完する玉ねぎの香ばしい甘みのハーモニーを、引き立てる塩味の利いたソースが包み込んでいるのだろう。
まぁ、簡単に言えば、とっても美味しそうにしている。
その証しに、一口飲み込むや否や、耐え切れ無いと言った表情で白米を掻き込み、続けて口をつけたポタージュにも眼球が飛び出しそうな程目を剥いて驚きを表し、再び白米を掻き込む。
その後も、ハンバーグ、白米、ポタージュ、白米、ハンバーグ、白米と繰り返しつつ、要所でつけ合わせの野菜で軽くリセットを入れながら繰り返していく。
気付けばハンバーグもポタージュも付け合わせの野菜も食べ切り、白米も五杯食べ切った時、コユキは心の底から残念だと思うのであった。
そこにスッと差し出されるハンバーグステーキ、間を置かずポタージュもそこに続いた。
驚いて見上げるとそこには優しそうな笑顔を浮かべた善悪の顔が……
「食べると良いでござる」
そう言いながら差し出された白米を受け取りながらコユキが言った。
「か、閣下! こ、これは閣下の分ではありませんか! 頂けません! 自分のような、小官の如き虫けらが頂く訳には……」
「違う!」
「えっ?」
コユキの主張を途中で、語気を強めて否定した善悪が言葉を続ける。
「今この時、私の前には虫けらと呼べる者等どこにも見当たらない! ここで目にする事が出来るのは一人の戦士のみ、それも帝国を心から愛する勇敢な戦士だけである!」
「は? ……」
一瞬訳が分からないと言った反応を見せたコユキだったが、真剣その物の善悪の目を見ている内に、言葉の意味を深く理解する事が出来、それと同時に胸の奥に熱い物を感じて黙り込んでしまうのだった。
胸の奥に生じたその熱は、体の中を徐々に昇って行き、双眸(そうぼう)まで至ると涙となって溢れ出した。
その事を咎(とが)めるでもなく、微笑を湛えたまま、自分の席へと戻った善悪は再びコユキを優しく|諭《さと》すのだった。
「さあ、食べなさい」
「い、イエッサ……」
そう言うと流れ落ち続ける涙もそのままに、再び食べ始めるコユキであった。
このお代わりは先程よりも、随分塩辛く感じられたが、コユキにはこちらの方が余程おいしく感じられたのであった。
食べながらコユキは思った。
自分はこの国の為に、いや、この寺の為に、いやいや、そうだ、この閣下、指揮官殿の為に…… 死のう! と、心の中で強く強く誓うのであった。