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善悪は、泣きながらも美味しそうに食べ続けるコユキの姿に、満足そうな笑顔を浮かべ、両肘をテーブルの上に立てて、顎の前で指を組みながら見つめるのだった。
一見すれば余裕の風情で、部下が美味しそうに食べているのを微笑ましいと思っている、慈愛に満ちた将校のそれに見える。
だが実際の所は、ここまでぐちゃぐちゃに混濁してしまったコユキの記憶をなんとかしなければならないと、心の内でポクポクポクポクポク…… と熟考中の善悪で有ったのだった。
そうこうしている内にコユキが大満足で食事を終え、チ~ンが訪れぬままに、食後のトークタイムを迎えた善悪は、苦し紛れに強引な説明に終始する事となった。
Q・何故武器であるハンバーグやポタージュがこれ程美味で有るかについて……
A・全ては敵の目を眩ませる為である、只の糧食を新兵器と流布させ混乱させる為である。
Q・下士官である自分が将官の閣下と二人きりで行動している理由について……
A・現在二人は友好国である日本に潜入任務中であり、自由度を優先して最少人数でこれに当たっている。
Q・以前から自分の事をコユキ殿と呼んでいる事について……
A・身分を偽り茶糖コユキと幸福善悪に成りすましての作戦中であり、二人は幼馴染の設定で行動中である。
Q・悪魔というキーワードが頭から離れないのだが、それは一体……
A・それこそが敵国の新兵器であり、それらを無効化するために選ばれたのが我々二人である。
Q・拠点としている家屋に何人かの意識不明の男女が眠っているのだが……
A・彼らが、友好国日本で唯一敵の狙いに気が付いている協力者であり、彼らの保護、解放が最優先事項である。
Q・何故自分はここまでの記憶が曖昧だったり、置換されているのか……
A・万が一敵に捕らえられた場合にこちらの情報を漏らさない為に、外科手術を受けた、因み(ちなみ)に志願である。
Q・我が帝国の名前は? また皇帝陛下の御名は?
A・帝国の名は『ベナルリア皇国』、陛下の御名は『マーガレッタ』女帝で在らせられる。
Q・自分と閣下の階級と本名は……
A・残念ながら答える事は出来ない、今は只の善悪とコユキとしか言う事は出来ない。
Q・……
A・これだけは伝えておこう、かつて私は『王国の剣(つるぎ)』そして『真紅の簒奪者(さんだつしゃ)』と呼ばれていた事を。
Q・ギクリっ! ……
A・(ニヤリ)今は『帝国の剣』だがな…… フっ……
質疑応答を何とか乗り切った(?)善悪の表情を、まるで憧れの英雄をその目にしたかの様に、キラキラと目を輝かせながら見つめるコユキ。
何でも素直に納得するコユキの態度に、途中から少し楽しくなってしまっていた善悪が調子に乗って、古代龍退治の話を始めようとした時だった。
廊下をコロコロと横向きに転がってきたソフビ、オルクス君が二人に向かって声を上げたのだった。
「タ、タイヘンダ――!」
「「っ!」」
「クルヨ…… モラクス、クル…… バカ、ニナッタ、モラクス、クルヨッ」
「んん? 馬鹿? モラクスって馬鹿が来るのでござるか? オルクス君?」
言いながら善悪はハテナの度合いを強めていた。
何故ならば、丁度今目の前に何でも信じる都合の良い馬鹿が居るのである、それをからかうのを止める程の馬鹿が他に居るとは思えなかったのだ。
それにしても、なんかオルクスがそのモラクスって馬鹿のこと良く知ってそうなムードも感じる、名前も似てるし……