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(もし本当に裏切ってたら……タダじゃ済まさない……)
想像するだけで吐き気がするほどの嫉妬がせり上がる。
明日、目が覚めたら全てを吐き出させなくてはならない。
霄の全てを管理し、所有しているはずだったのに。
この胸にぽっかりと開いた、どす黒い穴はどうすれば埋まるのだろう。
モヤモヤとしたどす黒い感情を抱えたまま、一睡もできずに朝を迎えた。
翌朝
カーテンの隙間から差し込む朝日が、昨夜の泥々とした空気をあぶり出す。
霄が目を覚ましてリビングに現れたとき、彼は昨夜の失態など微塵も覚えていない様子で、呑気に欠伸をしていた。
「ん……れお? はよ……」
「…………おはよう」
俺の、地の底から這い出るような返答に、霄が怪訝そうに眉を寄せる。
「え、なにその顔……怖いんだけど。俺、なんかした?」
「昨日のこと、覚えてる?」
「え? あー……あんま覚えてない。飲みすぎたわ、マジで」
素知らぬ顔で頭を掻く霄。その無神経な態度を見て、俺の胸の中で何かがパチンとはじけ飛んだ。
忘れたで済まされると思っているのか。
「ふぅん……そうなんだ」
「……? なに、怒ってんの?」
「別に。なんでもないよ」
貼り付けたような笑顔を浮かべると、霄は不審そうな眼差しをこちらに向けてきたが、深追いはしてこなかった。
その日から、俺の執着は加速した。
ただの管理じゃない。
霄の一分一秒、すべての思考回路まで把握しなければ気が済まない。
まず着手したのは、徹底的なデジタル調査だ。
霄のYouTubeアカウントの視聴履歴を洗い出す。
すると、最近になって特定のチャンネルを異常な頻度で再生していることが判明した。
『逆廻ロウ』
その名前を見た瞬間、昨夜の記憶が鮮明に蘇り、奥歯を噛み締めた。
履歴の多くは短い「Shorts」動画。
大学の行き帰りや、俺が席を外したわずかな隙間に、貪るように見ていたのか。
俺は即座にインターネットで『逆廻ロウ』について検索をかけた。
出てきたのは、ゲーム実況を中心とした活動をしているVTuber。
主に女性向けの恋愛シミュレーションや、甘いセリフを売りにしたシチュエーション実況を得意としているらしい。
チャンネル登録者数は5万人。
中堅どころといったところか。
だが、コメント欄には「ロウくん好き」「声が良すぎて妊娠する」といった、気色の悪い信者たちの言葉が並んでいる。
試しに最新のアーカイブを再生してみた。
画面に映るLive2Dの男は、確かに一般受けしそうな中性的なビジュアルをしている。
そして、何より耳につくのは、わざとらしいほどに柔らかく作られた「甘い声」だ。
(……なんだ……? この声、どこかで……)
どこか聞き覚えのあるトーンに不快感が増す。
だが、今はそれどころではない。
霄が、俺の目の届かない場所でこの男に「沼って」いたという事実が、俺のプライドを執拗に逆撫でした。
◆◇◆◇
次の日───…
俺はリビングで寛ぐ霄の隣に座り、それとなく罠を仕掛けた。
「そういえばさ、最近『逆廻ロウ』って人流行ってるらしいね。知ってる?」
その名前を出した瞬間、霄の表情が劇的に変わった。瞳に光が宿り、顔がぱあっと明るくなる。
「えっ! ロウくんのこと!? 玲於も知ってんの?」
「……。まぁ、たまたま動画が流れてきてね」
「まじ!ロウくんめちゃくちゃ良くない? ビジュアルもだけど、声が、もう……超タイプなんだよ」
「……ふーん。タイプ、ねぇ」
俺の温度の低い相槌にも気づかず、霄は堰を切ったように語り始める。
「あの甘い声でさ、耳元で告白されたい……って思う女が多いのわかるわ。俺も結構ガチで沼ってるっていうか、癒されるんだよね……」
その瞬間、俺の胸の奥で煮えたぎる嫉妬が形を成した。
たとえ画面越しの存在だとしても、俺以外の男の声に癒され、魅了されていることが耐え難い。
その「癒やし」を与えるのは、俺の役目だろうが。
「……霄くんさ」
「ん?」
「俺と、その『推し』……どっちが大事なの?」
「えっ」
俺の、冗談とは思えない声音に、霄の言葉が止まる。
「俺より、その男の方がいいわけ?」
「え、は? ……ちょ、ロウくんは『推し』だし! 二次元っていうか、そういう対象じゃないし!」
慌てて手を振って否定する霄。
その狼狽える姿を見て、ようやく少しだけ溜飲が下がった。
だが、まだ足りない。
「そっか。……だよね。なら、俺の方が好きだよね?」
俺は逃がさないように彼の腰を引き寄せ、逃げ場を塞ぐように顔を近づけた。
「なに……っ、嫉妬? ……玲於に決まってんじゃん、バカ」
顔を真っ赤にして、照れ隠しに俺の胸を軽く叩く霄。
その反応に多少の安心感を得たものの、俺の胸の奥にある黒いモヤは晴れることはなかった。