騒がしい教室の中で窓の外を眺めている一人の少女がいた。
彼女の周りには誰も寄せつけまいとした、凛と澄んだ、そして重く暗い空気が漂っている。
彼女は俺の幼馴染の優香だ。
優香は、何も知らない俺から見ても可哀想な子だった。
俺は優香の家と家族絡みの付き合いをしてきた。とは言っても優香の父親と会ったのは一度きりだが。
子供の俺にも分かってしまうほどに優香の家は、歪んでいた。
優香の母親は彼女が努力して積み上げたものを当然かのように言い、姉や妹は明らかに優香を嫌っていた。
一度だけ会った父親は到底自分の娘に対するものでは無い冷たい眼差しと理解できない程に、遠回しで、嫌な言葉を浴びせていた。
優香の言葉は誰にも伝わっていなかった。
優香の心がズタズタにされていくのを、言葉が見えない壁に押しつぶされていくのを、俺はただ見ていた。
俺は寒気がした。彼女の親に、そしてそれを傍観した俺自身に。
優香は最初は悲しそうな顔をし、怒り、影で泣いていた。
でも小学生、高学年くらいから、どれほど傷つけられても張り付けられた笑顔で笑うようになったと思う。
俺は優香に比べれば幸せなのだと思った。
俺の父さんは単身赴任中で俺や家族に無関心で、母さんはそんな父親が恋しく、寂しいのか末っ子の俺を完璧に仕立て、父さんの気を引こうとしていた。
でも優香の母親に比べれば褒めて貰えたし、付き合う友達は決められていったけど、そんな中でも仲の良い友人もできた。
俺は幸せなんだ。そう思わなければ母さんの所有物かのように、母さんの望みを叶える為だけに生きていると理解してしまいそうで、恐かった。俺は何も考えずにいたかった。
だから、俺は母さんの思い通りに動いて、求められる笑顔をバラ撒いて生きてきた。
小さい時から、母さんは俺のためではなくて、父親に捨てられた可哀想な自分のために俺に干渉してきた。
気づいていたはずなのに俺は今まで知らんふりしてきた。
でも、もう、疲れたんだ。俺が母さんの思い通りに動けなければ母さんは隠れて泣く。それがわかっているから、ただ従うことしか出来ないんだ。
母さんだって被害者だから。
俺と優香は、俺らは黒い気持ちを笑顔の裏に隠して生きている。お互い何も触れないが、お互いそれを理解しているだろう。
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