「今なら思い切って」
怖いとか、離れたいなんて思わなかった。
ただ「近い」と―――もっと近くなりたいと、心の奥から熱いものが湧きあがって―――。
久世(くせ)さんの瞳が揺れ、私の両肩をつかむ手に力がこもった。
「引き寄せられる」と感じた時、久世さんはぐっとなにかをこらえるような顔で、私から目をはずした。
息もできないような空気がほどける。
自分の鼓動がはっきり聞こえて、止まったように感じていた時間が動きだした。
「……足、大丈夫? 立てる?」
「あっ、は……はい」
慌てて体を起こすと、久世さんが優しく笑いかけてくれた。
おだやかな顔は私のよく知るもので、一瞬見えた表情は、まるで幻で―――。
「びっくりしたね。ゆっくり行こう」
「は、はい」
久世さんはもう一度手を差しだし、私の手をとって階段をくだっていく。
さっき、抱きしめられる、と思った。
気のせいだったし、***********************
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