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アンデッドの群れに追われるキッド達の状況は悲惨を極めた。

「ぎゃあああっ!!」

突如壁から飛び出したアンデッドに喰らい付かれる者。

「嫌だぁああっ!!嫌だぁぁああああっ!!」

追い付かれて無数のアンデッドに貪られる者。

「夢だ、これは夢なんだ……ははははっ!」

四肢を貪られながら気が狂い笑う者。あっという間にキッドは一人となってしまった。

無論彼も仲間を救おうと必死に応戦したが、銀の弾丸など持ち合わせておらずアンデッドに少しばかりのダメージを与えるに留まった。当然仲間を救うなど夢物語である。

「畜生!畜生ぉ!なんでこんなことに!楽な仕事の筈が!」

子飼いと呼べる仲間達を次々と喪い自分には何も出来ない無力さに苛まれ、その精神状態が彼を更に追い詰めていく。

新興勢力である『暁』を潰すため農園潜入のためにダンジョンへ入り、適当なところで切り上げて幹部のシスターカテリナを抹殺する計画だった。

だがフタを開けてみれば数々のトラップで仲間を半数以上喪い、止めとばかりに現れたアンデッドの群れに残った仲間を喰われる始末。

唯一の救いは足止めに残ったカテリナが恐らく死んでいるであろうことだけだった。

「何としてもダンジョンから脱出しなければ!」

極限状態が彼の精神を乱していた。冷静に考えれば自分だけ襲われていない事実に気付けるが、今の彼にそんな余裕はなかったのだ。

カテリナです。私はシャーリィと一緒にダンジョンを歩きつつキッド達を追跡しています。その道中何故シャーリィがここに居るのかも説明を受けました。

「転移魔法、ワイトキングともなればそんなことが可能なのですね」

「はい、とても便利な魔法です。魔石を応用することで私達でも使えないかマスターと検証していく予定ですよ」

「人は無理だとしても、物だけでも瞬時に運べるなら輸送に革命を起こすことになりますね」

「その通りです、シスター。現在の情報伝達速度や移動速度にはいつも不満を覚えていたので、革命を起こすことに拒否感はありません。むしろ一日も早く実用化したい。手紙のやり取りでさえ下手をすれば数ヵ月単位かかるんです。それが一瞬ないし数日単位になるだけでもどれだけ状況が改善されるか」

相変わらずシャーリィは遥か先を見つめていますね。全く新しい通信移動手段を考えているのですから。

移動と言えば馬車、伝達は手紙が当たり前。それが常識であり、それに囚われている私達には思い付けない発想です。

「似たような概念は、『帝国の未来』にも記されていました。どんなに離れていてもリアルタイムで話が出来る『電話』なる装置。或いは文章を送信する『電報』。果てには見たままを伝える『テレビ』。どれも今の技術力では実現は難しいと書かれていましたが、出来ないなら様々な技術を応用して擬似的に再現が出来る筈なんです」

「応用して再現ですか。シャーリィ、貴方は『ライデン社』の会長と話が出来るかもしれませんね」

「まだ接触は始まったばかりです。燃える水の件もありますし、ハッキリ言って抗争なんて早く終わらせて正式に『ライデン社』と関係を築きたいんですよ」

なるほど、『エルダス・ファミリー』との抗争より『ライデン社』との交流の方を重視するとは。

哀れですね、エルダス。貴方は『暁』にご執心ですが、シャーリィは全く感心がないのですから。

「キッドを討てば『エルダス・ファミリー』も本気になるでしょうね」

「シスター、『血塗られた戦旗』に伝はありませんか?敵対しているならば協調できると思うんですが」

「残念ながらありません。『血塗られた戦旗』も謎の多い組織ですからね。何れ貴女の前に立ち塞がるでしょう」

「敵ばかりで嫌になりますよ。『ターラン商会』の内紛にも関与しないと行けないのに」

「マーサが欲しいのでしょう?なら頑張るしかありませんよ」

「はーい。今から憂鬱です。おや?」

シャーリィの視線の先には、アンデッドに貪られる男の死体がありました。

「追い付いてきましたね、シスター」

「足場が悪いですからね、走るのも至難の技でしたよ」

「そのような地形にしていただきましたからね」

「全く悪趣味な、誰に似たのか」

「救済からお世話になってる優しいシスターさんじゃないですか?」

「さて、どうでしょうね」

脇を通ってもアンデッド達はこちらに見向きもしない。これ何気に凄いことをしているのでは?

「流石はマスター、全てのアンデッドを自在に操っていますね」

そんな味方を作った貴女に脱帽ですよ。

……ん、銃声が聞こえますね。

「シスター」

「この先みたいですね。始末はどうしますか?捕まえて地下室へ?」

「いえ、彼にはここで死んでいただいた方が何かと都合が良いです」

シャーリィと更に先へ進むと。

「来るな!くそぉ!」

ダァアンッ!と銃声を響かせながらキッドがアンデッド相手に奮闘していますが、意味がありません。銀の武器でなければアンデッドを完全に倒すのは不可能に近い。

カチンッっと音が響き、遂に弾切れとなったことを教えてくれます。ああ、これは絶望ですね。

青ざめた彼は私達に気付いたみたいです。

「シスター!?生きていたのか!?」

「ええ、無事ですよ。貴方はピンチみたいですね。ご機嫌如何ですか?」

「あんまり良くないな、出来れば助けてくれると嬉しいんだが」

ジョークを飛ばす余裕があるのか破れかぶれか。後者ですね。

「それは出来ません」

「なっ!?見殺しにするのか!?」

「助ける義理があるとでも?『エルダス・ファミリー』の幹部さん」

眼を見開いていますね。まさか気付いていないとでも?御目出度い人です。

「……知ってたのか」

「うちにはベルモンドが居るんですよ。顔は分からなくても、特徴を知ることはできます」

「なるほど、つまり最初から全てお見通しってことか」

「私達を舐めているからそうなるんです。ダンジョンの話を意図的に流したのも私達です」

「ダンジョンを使って罠を仕掛けるなんてな。考えたこともなかった」

「そんな罠を思い付いたのが、この娘ですよ」

シャーリィを前に出します。

「ごきげんよう、『暁』の代表シャーリィともうします」

まあまあ、笑顔を浮かべて。

「あんたがボスか。聞いていたより別嬪だな」

「ありがとうございます。早撃ちキッド、うちの組織に手を出した報いを受けていただきますよ」

「待て!せめて戦わせてくれ!こんな終わりはあんまりだろ!」

早撃ちの腕を振るうことも出来ずにアンデッドに喰われて死ぬ。気持ちは分かりますがね。相手はシャーリィですよ。

「何故わざわざ貴方の得意分野で挑まなければいけないんですか?そんな義理はありません。アンデッドに食べられて死んでください」

「待て待て待て!仁義はないのか!?」

「貴方は敵ですよ?なんでそんなことを私が気にしなければいけないんですか?」

「戦わせてくれないのか!?こんな最後は嫌だ!勝負しろぉ!」

「マスター、御願いします」

「やめろ!こんなのあんまりだ!戦わせてくれ!俺と戦え!誇りはないのか!?うぁあああっ!!」

アンデッドの群れが一斉に襲いかかりましたね。

「わざわざ相手の得意分野で戦う理由が分かりませんね。アンデッドに食べられるくらいがちょうど良いんです」

それを満面の笑みを浮かべて眺めるシャーリィ。この娘を敵に回したことを後悔しながら死になさい。祈りくらいはあげますよ。

カテリナとシャーリィは仲良く並びアンデッドにゆっくり貪られるキッドを見つめるのだった。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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