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ジェヴィン「……いました」
タナー「ウェンダだ………!」
ウェンダ「え〜、全然いないじゃない。生存者!」
ウェンダ「あの強〜い二人と戦うしかないってこと〜?」
腰に手を当てて考え込むウェンダ。すると、ジェヴィンとタナーの間にナイフが滑り込んできた。
ウェンダ「そんなところで見てないで。かかってきなさいよ。面白くないわね」
ジェヴィン「……そうですか」
タナー「…ジェヴィン」
ジェヴィン「…はい。わかっています」
ジェヴィンが一気に駆け抜け、ウェンダの背後を取り、斧を首の寸前で止めた。
タナーがウェンダの正面に立ち、ちょうど頭の位置に銃を構える。
ウェンダ「…すごいわね」
ウェンダ「……わかった。降参するわ」
ウェンダが両手を挙げた。
ウェンダ「流石に、こんな状況じゃ勝てっこない」
タナーが銃を下ろした。
ジェヴィン「……ですが、眠っておいてもらいます」
ウェンダ「あっそ」
にこにこと笑っているウェンダの首を手でトンと叩くと、ウェンダは気絶して倒れた。
ジェヴィン「…よっぽどのことがなければ、明日まで起きれないでしょう。」
ジェヴィン「一応、木に縛っておきましょうか」
タナー「それもそうだな」
ジェヴィンの手際がよく、ウェンダを捕えることに成功した。
ジェヴィン「タナーさん」
ジェヴィン「私達がやるべきことは後一つですね」
タナー「…そうだな」
タナー「ブラックを探し出して………」
タナー「殺す」
ジェヴィン「………はい」
二人は冷や汗を頬につたらせながら、そこらじゅうを走り回った。
何十分走っただろうか。
タナーの革靴に、一滴の黒い液体が飛び散った。
タナー「……なんだ、これ」
ジェヴィンが屈んで、それを指先につけてみた、ら
ジェヴィン「……粘液?」
ジェヴィン「一体どこから………」
???「やあ。お二人さん」
???「今日はいい天気だね」
低く、若干エッジの効いた声がどこからか聞こえた。
ジェヴィン「…後ろだ」
パン!
すかさず、タナーがそれに向かって銃を放った。
ブラック「…おっと」
ネクタイを締め直しながら、弾丸は軽々と避けられてしまった。
タナー「…なっ?!」
ジェヴィン「弾を避けた…」
ジェヴィン「物理攻撃はしっかり効くようですね」
ジェヴィン「…ブラック!!!」
タナー「…あれが、ブラック?」
黒いシルクハットにスーツ、白のネクタイ。
大量の蠢めく触手。
ジェヴィン「えぇ…間違いありません」
ジェヴィン「私が夢で見た…あいつです」
ブラック「…へぇ?知ってくれていたのか。私のことを」
タナー「よくもみんなを………!」
タナー「あんな惨たらしい姿にしてくれたな!!!」
ジェヴィン(まずい…!)
タナーがブラックの元へ一気に駆け抜ける。
タナー(弾はまだある…)
タナー「戦える…!」
タナー「勝って見せる!!!」
ブラック「…ふん」
ブラック「お前如きに私が屈するとでも?」
ブラックの人を蔑むような、嫌な視線がタナーの背中を貫く。
タナー(ここからなら………当てられる!)
ジェヴィン「タナーさん!やめ…」
ブラック「………一旦、退いておくれ」
次の瞬間、ブラックの黒い触手が、タナーの首を締め上げた。
タナー「……あ゛ぁっ、?!?!?!」
タナー(やば、苦し……)
タナー「がっ、ゔぅぅ……っ!」
口や目から涙を流して、わずかに体の力が抜ける。
タナー「もう……ダメだ」
ブラック「しばらくそこで倒れていろ」
全身にまとわりついていた触手は、タナーを乱雑に地面に放り投げた。
タナー「うわっ?!」
タナー「は、はぁぁぁ………」
激しく空気を吸い込み、呼吸を整えながら頭を抱えた。
ジェヴィン「………っタナーさん!!!」
ジェヴィン「無茶なんてするから…!」
すぐに、ジェヴィンがタナーの元へ駆け寄る。
タナー「……ごめん、ジェヴィン」
タナー「ついカッとなってしまって………」
ジェヴィン「………お怪我は?」
タナー「大丈夫…少し腕を掠ったくらいだ」
ジェヴィン「よかったです………」
ジェヴィン「でも、動けそうにないですね」
タナー「いや、俺は大丈………」
ジェヴィン「無理はするな。と、私は何回言ったと思っているんですか?」
ジェヴィンが立ち上がると、その澄んだ瞳で、ブラックを睨んだ。
ジェヴィン「…ブラック」
ジェヴィン「………必ず、貴様を地獄に落として見せる」
ブラック「………?」
目の前の、青いローブの男の瞳を見た瞬間、ブラックの視界が揺れ、心臓の鼓動が早まった。
_____________________________
神を信じる者だ。
私が唯一手に入れられなかったもの…
自分に屈し、祈りを捧げる信者が。
______________________________
ブラック「………欲しい」
ブラックは、今まで感じたこともない高揚感に見舞われた。
空気を吸って、吐いて、手はずっと張り裂けそうな胸を抑えている。
何をしても、何をされても満たされない。
そんなブラックの心には、彼がとてつもなく魅力的に見えた。
ジェヴィン「…何を言って……?」
ジェヴィン(いや、考えている暇はない)
ジェヴィン(まずはタナーさんを休ませて、援護をしてもらわなければ)
ジェヴィン(大丈夫…敵はブラックだけ……)
ジェヴィン「待っていてください、タナーさん…!」
斧を力一杯持ち上げて、ブラックに飛びかかった。
ジェヴィン(…力には自信がある)
ジェヴィン(もし捕まってもきっと大丈夫だ)
タナー「…ジェヴィン」
タナー「ごめんなさい……一人で戦わせちゃって…」
タナー「ごめんなさい…」
いくら謝ろうと、疲れ切った体は言うことを聞かない。
ジェヴィン「…そこだ!」
隙を見つけ、斧を打ちつけた。
そこを斧が切り裂く前に、黒い触手が斧の動きをピタリと止めてしまった。
ジェヴィン(…何、?)
ジェヴィン(私の力でも、こいつを傷つけることができない…)
ジェヴィン「やはりタナーさんがいなければ…」
ジェヴィン「隙が作れない…!」
ブラック「………諦めて、私のものにならないか?ジェヴィン」
ブラック「正義を掲げながらも誰一人と守れていない_保安官@愚か者_よりも」
目を細め、愛くるしい小動物でも見るような目つきでジェヴィンを見つめる。
ジェヴィン「今なんて……?」
ジェヴィン「タナーさんが誰一人守れなかった愚か者だって?」
タナー「ジェヴィン…」
ジェヴィン「ふざけるな!」
怒涛の勢いで距離を詰め、ブラックに切り掛かる。
ブラック「………!!!」
ブラックの肩に、初めて傷がついた。
ジェヴィン「タナーさんは、今まで何も感じられず、神を信仰することでしか自分を慰めることのできなかった私を救ってくれた!」
ジェヴィン「今でもそうだ!何か異変が起きても真っ先に駆けつけて、皆を守ろうとする!」
ジェヴィン「自分が穢されようが、何度も人を救っている!」
ジェヴィン「それなのに………」
ジェヴィン「それなのに貴様は!!!」
正気を失ったような目。
ブラックを見つめながら、先ほどとは比べ物にならない速さで、斧をブラックへ振り下ろした。
ジェヴィン「………!」
当たらなかった。
ブラック「二度も当たってやるわけないだろう?」
ブラック「私は君が欲しいだけだ」
ブラック「さあ、ジェヴィン………」
ジェヴィン「…あ、あぁ」
ジェヴィン「クソ………」
触手が、ジェヴィンの腰や脚、顔にまとわりつく。
ジェヴィン(力、強っ………?!)
ブラック「こんな物騒なものは捨てて」
ジェヴィンの手から斧を奪い取り、地面へ叩きつけた。
ジェヴィン(これじゃ戦えない…)
ジェヴィン(このままでは……まずい)
バァン!!!
真っ黒な草原に、乾いた銃声が響いた。
タナー「ジェヴィン…!」
タナー「俺はもう大丈夫だから…!」
タナー「だから……」
タナー「俺がどうなろうと、君だけは絶対に死なせないから………!」
弾は、ジェヴィンを縛り付けていた触手に命中し、黒い液体が飛び散った。
ジェヴィン「…タナーさん、!」
タナー「俺は前と同じように、遠くから援護に回る」
タナー「ジェヴィンには当てない。必ず」
ジェヴィン「………はい」
二人同時に走り出した。
ジェヴィンの瞳に、さっきの狂ったような光は一切ない。
ジェヴィン(大丈夫…!私の後ろにはタナーさんがいる…!)
タナー「…信じてくれ」
ジェヴィンがブラックに詰め寄ろうとする。
その邪魔をする触手たちを、タナーが撃ち抜き道を開ける。
ジェヴィン「…感謝します。タナーさん」
タナー「それはお互い様だぞ…!」
ブラック「………これは」
ジェヴィン「これでおしまいです。ブラック」
ザシュッ、と音が鳴った。
ジェヴィン「…倒した」
ジェヴィン「…倒しました!!!」
タナー「これで、世界は元通りに…!」
歓喜の声が漏れた。
だが、しばらく経っても、元通りになる気配が一切しない。
ジェヴィン「…まさか」
タナー「死んでなかった…?」
ブラックを切った瞬間飛び散った黒いもの。
それは血ではなく、粘液であった。
ジェヴィン「…やはり。死んでいない」
ブラック「………」
タナー「ふ、復活した…?」
残った下半身から流れ出る液体が、体を構築していっている。
ブラック「ここまで攻められたのは初めてだ」
ブラック「そろそろ終わりにしようか?」
ジェヴィン「………準備を、タナーさん」
タナー「…あぁ」
二人がそれぞれの武器を構えた。
ブラック「悪いが、保安官。お前は別だ」
タナー「え……?」
ブラック「お前にはあそこの小娘と遊んでもらう」
ジェヴィン「………ウェンダさん?!」
ジェヴィン「どうして意識が戻って………」
二人は絶望に満ちた表情で、ウェンダの顔を見つめる。
ウェンダ「だって私、強いもの」
ウェンダ「ね、ブラックさん」
ブラック「…あぁ、まあ、あの黄色いバカよりかは使えるな」
ブラックが膝をついて動けなくなっているタナーを職種で掴み、ウェンダの方へ放り投げた。
タナー「………あ」
ジェヴィン「…!!!!!」
ジェヴィン「タナーさん!!!!」
ウェンダ「タナーさん」
震えるタナーに、ニタニタと笑いかけながら言った。
ウェンダ「一人だけで、私に敵うかしら?」
冷や汗を流しながらも、タナーは希望に満ちた目でウェンダを見つめ、そのまま距離を取った。
タナー「きっと、生きてみせるよ」
タナー「俺は_保安官@正義_だから」
ウェンダ「………流石よ、タナーさん」
ジェヴィン「タナーさん…」
ジェヴィン(どうしよう……二人でやっとウェンダさんを拘束できるくらいなのに、タナーさん一人でウェンダさんを倒すなんて無理だ)
ジェヴィン(私がブラックを倒すのなんて尚更…)
タナー「(…信じてくれ)」
ジェヴィン「……!」
ジェヴィン「ああ………タナーさん」
ジェヴィン「どうか無事でありますように…」
ブラック「………頭の整理は済んだか?」
ジェヴィン「…ブラック」
ジェヴィン「絶対に許しません」
ブラック「……手に入れるのは、諦めるしかないのだろうか」
ブラック「ならば…」
ブラック「私も本気で君を殺すしかない」
その整った顔に不気味な笑みを浮かべると、全方向からジェヴィンを追い詰める。
ジェヴィン「っ!!!」
触手を切り裂き、ローブに黒い液体が付着した。
だが、切り払われたはずの触手は……
ジェヴィン「再生した……」
やはり、こいつを倒すことはできないのか…?
ジェヴィン「……それでも、やるしかない」
ジェヴィン「一刻も早くこいつを倒して、タナーさんの元に向かわなければ」
ブラック「…はは」
ブラック「いいじゃないか。その表情」
ブラック「もっと見せておくれ」
再生した触手を使って、またジェヴィンに襲いかかる。
ジェヴィン「…!」
ジェヴィン「油断した…!」
気づけば、腕を掴まれ全身を宙吊りにされた。
ブラック「……美しい」
ブラック「やはり、君は私のものになるべきだ」
ジェヴィン「…誰が貴様のものになんてなるか」
腕に力を入れて脱出を試みるが、全く動かない。
ジェヴィン「うぅ……タナーさん……」
ジェヴィン「生きていてください………」
タナー「………っ!」
ウェンダがどこからかナイフを取り出して、タナーに向かって投げつけた。
タナー「っぐ、ああぁ…っ」
肩の肉を深く抉って突き刺さった。
落ちたナイフを睨みながら、拳銃を握る。
タナー(やばい……スピードも力も全部ウェンダの方が強い…)
タナー(その上ナイフを投げてくる…銃となんら変わらない…)
ウェンダ「戦っている最中に考え事なんて、失礼だと思わない?」
ウェンダがタナーの頭の上を一回転して、後ろに立ち、ナイフを首に当てた。
タナー「…甘いな」
タナーがウェンダの両手を掴んで、こめかみに銃を突きつけた。
タナー「……ウェンダ」
タナー「……ごめんな。こうするしかないんだ」
悲しそうな表情を浮かべながら、ウェンダから目を背ける。
ウェンダ「勝ったつもり?笑えるわ」
ウェンダがタナーに、ナイフで斬りかかろうと迫ってくる。
タナー「射程は俺の方が長い……!」
タナー「射撃なら得意なんだ……!」
傷ついた左肩を抑えて、銃を構えた。
バァン!
周囲にまた、乾いた銃声が響き渡った。
ウェンダ「…ふふ」
タナー「…避けた?」
タナー(銃の弾を…?)
ウェンダ「もう、タナーさん」
ウェンダはタナーの背中を蹴り上げ、無理やり仰向けに押し倒した。
口を押さえ、暴れる脚の上に乗って押さえた。
ウェンダ「そろそろ、この戦いが無意味なことだって自覚できないのかしら」
ウェンダ「あなたは私に勝てない」
タナー(…どうしよう)
タナー(どうしようどうしようどうしよう)
タナー(こんな体制じゃ…)
ウェンダ「………」
ウェンダ「…ほら見て!銃」
ウェンダの手には、タナーが愛用していたリボルバー銃が握られていた。
タナー「いつのまに…?!」
ウェンダ「さてさて」
ウェンダどう_料理@殺_されるのがお好みで?
そのまま、銃を口の中に突っ込まれた。
タナー「んっ、え、…おえぇ…」
ウェンダ「…ここはダメね。面白くない」
ウェンダ「やっぱり死ぬなら」
ウェンダ「面白おかしくね!」
タナー「…やめ、」
ウェンダはタナーの頭正面に銃を突きつけた。
ウェンダ「バイバイ!」
ウェンダ「永遠に」
パン!
意外に軽い音を立てて、銃の弾が放たれた。
そして、タナーのお気に入りの帽子ごと、脳天を撃ち抜かれた。
タナー「…っ、あ…つ……」
ウェンダ「まだギリギリ生きてるのね」
ウェンダ「でももう無理ね。そんな血出てたら普通に出血多量でジ・エンド」
ウェンダ「あははははは!死に方がトップクラスにマヌケで面白いわ!」
ウェンダ「あ、あは、あははははははは!」
ウェンダは笑いながら、タナーの死体を引きずってブラックの元へ歩いていった。
パン!
遠くからの銃声。
その一発が放たれたっきり最後。
急に銃声が止まった。
ジェヴィン「…決着がついた?」
ブラック「…さて、誰か来たぞ」
ブラック「今歩いてここに向かっているのは誰の足跡だ?」
ジェヴィン「………タナーさんじゃない」
ジェヴィン「足取りがまるで違う」
ウェンダ「Hi!ブラック」
ブラック「やあ。ウェンダ。上手くいったんだな」
ウェンダ「ええ。もちろん」
ウェンダが引きずってきたものは…
ジェヴィン「…………あ、あぁ」
ジェヴィン「タナーさん…タナーさん…」
ジェヴィン「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
間違いなく、頭を撃ち抜かれ、流血して死亡したタナーだった。
ジェヴィン「私が弱いから…」
ジェヴィン「私がブラックを殺せなかったから…」
ジェヴィン「私が守るって言ったのに…!」
ジェヴィンはタナーの元へ駆けつけ、涙を流した。
ジェヴィン「タナーさん………なんで」
ジェヴィン「どうしてですか?」
ジェヴィン「なんでなんでなんでなんでなんで」
ジェヴィン(…神なんて、いなかったのかな)
ジェヴィン(救いなんてなかったのかな)
ジェヴィン(私がいつも信仰し、祈っていた神とは一体なんなんだろう)
亡くなったタナーを抱きながら、その胸に顔を埋め、ジェヴィンは泣き崩れた。
最終話、完です。
ですが四話で言った通り、エンディングが分かれます。次の話はハッピーエンドです。
ぜひご覧ください。