日が窓の外から照らす春の昼。
私は茶葉を選んでいた。
そよそよと風が吹く中…………。
ふと、主様との出会いを思い出す。
そういえば………
最初にここに来て主様がお飲みになったお紅茶は………
「ダージリン…」
思わず呟いてしまった。
「……今日はダージリンにしますか」
そう言い、ダージリンの茶葉が入った茶缶を手に取る。
「…………あら?」
中身は空だった。
「……買ってきますか」
と、部屋のドアを開けた時…。
『あ…ベリアン…』
目の前に主様がいた。
「あ…主様!?何かあったんですか?」
そう問うと
『大丈夫だよ』
微笑んで言う彼女。
その微笑みが私にはとても愛らしく感じる……のはとても本人には言えない。
いや……”言ってはいけない”…の方が正しい。
『ベリアンは今から買い出しかな?』
「あらあら…聞かれていたのですか?」
そう言うと健気に首を縦に振る。
『ね…ベリアン…私も、ついて行っていい?」
そう上目遣いで問いかけてくる。
……………流石に…それは反則です。
誰も逆らう事が出来ませんよ…。
「もう……ふふ…良いですよ行きましょうか」
そう私が言うと目をキラキラさせて喜ぶ。
本当に…私の主様は可愛い。
エスポワールに着いた。
今日のエスポワールは少し人が多い。
「主様…今日は人が多いので、はぐれないよう手を繋がせて貰いますね」
『うん』
と言い、彼女の方から手を繋ぐ。
私は少し驚いたがすぐその手を握り返した。
………………その手の温もりが…どんな春の快い暖かさよりも……温かかった。
店内に入ると、主様はキラキラした表情で茶葉の入った棚を見上げていた。
まるで…珍しい物を見ている幼子のように………
そんな表情だった。
「何か気になる物でもありましたか?」
そう問いかけると
『これ……期間限定っぽくって』
そう言う視線の先には桜の花が入った茶葉が見えた。
「あらあら………欲しいんですか?」
笑顔で言うと
『う…うん』
少し小さな声が聞こえた。
「そうですね…期間限定品らしいですし…何より主様が欲しいと言いましたからね」
買いましょうか。と言えば
『!いいの…? 』
と、期待に満ちた声で言う。
「はい、良いですよ」
そう言いながら代金を支払いに行った。
チリンと鈴がなりドアが開く。
「ふふ、買い出しに付き合って下さりありがとうございます」
お礼を言う。
『え…いやいやそんな…私が提案したから』
1歩下がる主様。
そんなに遠慮しなくてもいいのに…
と内心少し思うが、それも彼女なりの優しさなのだろう。
こんな人に仕えられて私は本当に幸せ者だ。
もうどれだけ私に嬉しさや楽しさを教えられただろう、与えられだろう 。
その嬉しさや楽しさがどんどん積み重なって…やがて別の感情になる。
私も…その感情になっているのであろう。
だが…。
私は仕える身分の人。
上の立場……つまり主様にこの感情をぶつけようなど………
そんな事は…絶対に許された事では無い。
『ベリアン〜早く行こっ!』
そんな元気な声で、今の考えが頭から遠ざかった。
………私は主様に向かって微笑みながら
「そうですね。ふふ…行きましょうか」
と言った。
…………もしも。
もしもこの感情が…”恋”だと言うのなら…尚更言えない事。
でも………もし受け入れられるなら…………。
………………………なんて本当にに叶わないことだ。
これは私の叶えられない恋物語。
愛は伝えられても恋は伝えられない。
こ れが私…ベリアン・クライアンの
貴方に言えない…小さな片思い。
コメント
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君向いてるよ……物語作るの…。(あとフォローしやしたー)
フォローしたよ~!