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ミク
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毎朝、同じ場所
佐野勇斗には、毎朝気になる人がいる。
駅から学校へ向かう途中にある、小さな公園。
その公園のベンチに、いつも同じ時間、同じ男の子が座っている。
黒い髪。
少し長めの前髪。
制服の上に羽織った薄いパーカー。
そして、決まって手に持っている一冊の本。
勇斗がその公園の前を通るのは、朝の7時42分。
不思議なことに、その男の子は毎日そこにいる。
雨の日も。
風の強い日も。
少し寝坊して7時50分になった日でさえ。
「……今日もいる」
勇斗は、少し離れた場所からベンチを見る。
男の子は本を読んでいた。
いつも一人。
誰かを待っているようにも見えるのに、誰かが来ることはない。
勇斗は今まで一度も話しかけたことがなかった。
別に、話しかけたいわけじゃない。
ただ、気になるだけ。
そう自分に言い聞かせながら、今日も公園の前を通り過ぎようとした。
そのときだった。
「……佐野くん」
勇斗の足が止まった。
「え?」
振り返る。
ベンチに座っていた男の子が、こちらを見ていた。
初めて目が合った。
思っていたより、ずっと優しい目をしている。
「……俺?」
「うん」
男の子は本を閉じた。
「佐野勇斗くん、だよね」
「……なんで俺の名前知ってるの?」
男の子は少しだけ困ったように笑った。
「知ってるよ」
「いや、それ答えになってないって」
「……そっか」
彼は立ち上がった。
そして勇斗の前まで歩いてくる。
近くで見ると、思ったより背が高い。
「俺、吉田仁人」
「吉田……仁人?」
「うん」
仁人はそう名乗ると、なぜか勇斗をじっと見つめた。
「今日、初めて話したね」
「……そうだけど」
「でも俺は、ずっと前から勇斗のこと知ってる」
その言葉に、勇斗は眉を寄せた。
「……どういう意味?」
仁人は答えなかった。
代わりに、腕時計を見る。
「もう行ったほうがいいよ」
「え?」
「学校、遅れる」
「いや、まだ時間あるけど」
勇斗がスマホを見る。
7時46分。
いつもなら十分以上余裕がある。
顔を上げると、仁人はもうベンチへ戻っていた。
「吉田くん?」
呼びかけても、仁人は本を開くだけ。
まるで、さっきの会話なんてなかったみたいだった。
勇斗は首をかしげながら、学校へ向かった。
その日の帰り道。
朝の公園を通ると、ベンチには誰もいなかった。
ただ、ベンチの上に一冊の本が置かれていた。
勇斗は足を止める。
表紙には何も書かれていない。
そっと開いてみる。
最初のページには、たった一行だけ文字があった。
――「明日の朝も、7時42分に来て。」
勇斗は、その文字をしばらく見つめていた。
そして、なぜかその本を閉じることができなかった。
コメント
1件
うわー、めっちゃ気になる始まり方だ…!毎朝同じベンチにいる謎の男の子・仁人、勇斗の名前を知ってるのに「初めて話したね」って言うし、残した本には「明日の朝も」ってメッセージ。なんで勇斗のこと知ってるんだろう?何か過去に関係あるのかな?日常の中にふわっと非日常が入り込んでくる感じがすごく好き。続きがめちゃくちゃ気になる!