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どうやって家に帰ってきたか覚えていなかった。
母娘で他人に幸福にしてもらおうとしているという指摘。
不幸な生い立ちの自分。
そして、自分を幸せにしようとする明彦。
須藤明彦という、麗がこれまで出会ったことのある男の中で最も優秀でなにもかもを持っている男が、同じく何もかも優れた姉のような人間ではなく、麗なんかを選んだ理由。
それはきっと、明彦が知っている中で一番可哀想な女の子が麗だったからだ。
(ああ、そういうことか)
その結論は、ものすごく腑に落ちた。
明彦は姉と陣地争いしていたのだ。どちらがより不幸な女の子を幸福にできるか。
「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、 姉さんなんか、嫌いっ!」
ようやく絞り出した本音。
愛されたかった、姉に愛されたかった。姉だけには愛されたかった!
でもそれは叶わないと本当はわかっていた。
だけどどうしても、縋るのを止められなかった。
認めたくなかったのだ、自分はいらない子なのだと認めたくなかった。
「母さんも嫌い!」
あのクズに人生捧げずに、麗をもっと見てほしかった。
もっともっと、見てほしかった、そばにいてほしかった。
愛人なんかやった上、看病もしないといけなかったし、早死なんかして、ほんっと、迷惑だった。
「あのクズも嫌い!」
何が愛せなくて悪かっただ、愛人孕ませるな。孕ませたならせめて、堕ろさせればよかったのだ。母なら愛する男に指示されたら唯々諾々と堕ろしてたに決まってる。
そうしてくれればこんな肩身の狭い思いをしながら生きなくて済んだ。
本当は生まれてきたくなんかなかった。
「お母様だって嫌い!」
巫山戯るなよ、面倒なことばかりスルーして、夫のやらかしくらい責任取れよ、大人だろうが。自分だけ安全な位置にいやがって。
「会社の人間も嫌い!」
どいつもこいつも麗にいい子でいることを期待して、我慢させられ続けてた。
丸山社長だって嫌いだ。人のコンプレックスをズケズケ指摘して!
綾乃だって嫌いだ、気づきたくなかったことに気づかさせられた。
ああ、そうだ、そう!
麗は本当はどいつもこいつも嫌いなのだ!