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バンッ、バン――――ッ!
射撃場に響く銃声音。的の中心を射抜く音と、弾が風を切る音が聞こえてくる。
拳銃訓練。
拳銃の重量はそれなりにあり、同じ体勢で二コマ以上続けての授業が殆どのため、足も手も痺れてくる。だが、俺はそんなことが気にならないぐらいに集中していた。
日本の警察官が所持しているのは回転式拳銃(通称:リボルバー)と言われるもので、訓練では片手撃ちと両手撃ちの両方、またしゃがんで撃つなど様々な訓練を強いられる。
俺は的に狙いを引き金を引いた。
バンッ! 撃った反動で腕が跳ね上がり、その重みや衝撃を感じた。
ふぅーっと息を吐いて構えを解く。
「さすが、ハルハル。全弾ど真ん中。かっこよ~」
と、少し巫山戯たように颯佐が声をかけてきた。彼も一応全て撃ち終わったようで、疲れたと顔に貼り付けて俺の方に歩いてきた。
拳銃訓練はこれで数回目になるが、颯佐は最初からきしダメで落第の危機でもあった。それを何とかクリアして今にいたるが、まだ拳銃の扱いには慣れていないらしい。少し華奢な身体に、あの反動は辛いものだろう。それに、颯佐は撃つときに右腕が上がりすぎる傾向があった。それも相まって、俺より視力がいいくせに的が定まらないようだった。
「颯佐も上手くなったんじゃねえか? 上出来」
「そりゃ、どうも。トップ成績のハルハルのお墨付き~」
颯佐はそう言って、にんまり笑いつつ、俺が撃つところが見たいとせがんできた。確かに後一発あるが、見世物ではない。
だが、少し調子に乗っていたところもあった。
拳銃の腕前なら、きっと同期の中で一番だと自信を持って言える。こればかりは、誰にも負けない。俺の唯一の得意分野だと思っているからだ。
颯佐は高い専門知識、高嶺は体力運動神経。それぞれ得意分野があって勿論苦手分野もある。
颯佐は体力面だし、高嶺は座学が苦手だ。試験前に泣きつれることが殆どで、就寝時刻を過ぎてからも布団に潜って勉強していた。勿論俺もしていたが、高嶺は人一倍努力していた。自分で、記憶力が弱いと明言しており、一度口が滑って脳筋と言ってしまったときには盛大に腹パンを決められた。あの身体から繰り出される腹パンは史上最高に痛く、うずくまったまま数分動けなかった。その後、高嶺は呼び出しを喰らっていたが、どういって誤魔化したかは知らないがしれっとした顔で戻ってきた。
「ね、ハルハル見せてよ~」
「ったく、見せもんじゃねえのに」
俺はそう言いつつも、褒められているような気になって、最後の一弾を装塡する。颯佐はワクワクした様子で俺の斜め後ろに立った。
「ハルハルは本当に上手いよね~。何かコツとかあんの?」
「そうだな……まずは姿勢だな。颯佐は右腕が上がりすぎているんだ、後は左手はそこまでがっちりと添えなくていい」
颯佐に説明しつつ、俺は構えの姿勢を取る。別に見られていようが緊張はしない。
引き金を引く。
バンッ! と音が鳴り響き、弾が飛んでいく。そして、的の中心着弾し、颯佐はそれを見て、おおっと歓声を上げる。
俺の命中率は九割五分を超えている。
「おーやっぱ、すげえな明智」
「高嶺も終わったのか?」
俺の後ろから、高嶺の声が聞こえた。振り向かずとも、声だけで分かる。
振り返ると、そこには汗を拭っている高嶺の姿があった。拳銃訓練は以外と体力がいり、精神面もかなり削られる。だが、高嶺の場合疲れたと言ったよりかは、いい汗かいた見たいな清々しい笑顔をしていた。
因みに、高嶺の拳銃の腕前は颯佐よりもいい。
「お前もなかなかだな。腕上げたんじゃねえか」
「なーんか、明智に言われると見下されてる感じがすんだよな~」
と、高嶺は頭の後ろで腕を組むと、憎たらしいとでも言うように目を細めた。
別にそんなつもりはなかったが、高嶺には自分でも気づかないが闘争心を燃やしているため、一つでも勝てるものはないかと探しているのだ。それが、拳銃の腕と洞察力や頭の良さだった。体力面では一生叶う気がしない。
そもそも警察学校では勝つために様々なことを学ぶのだ。
いざという時に、犯人を制圧できるように。ただ正義感があるだけではなく、常に勝ち続けなければならない。国民を守る為に。
「そんなことねえよ、単純に褒めてる」
「そりゃあ、どーも」
俺の言葉に、高嶺は少し照れたように顔を背けた。
高嶺も高嶺で俺に対して闘争心か、ライバル意識を持っているらしく度々仕掛けてくる。勿論、対等に戦えるものでの勝負は気を抜かない。
互いに互いの弱点というか、苦手分野を知っている為それではあまりマウントを取らないようにしている。
そのため、戦えるものと言えば剣道と逮捕術か……
(まあ、身体を動かすって時点でかなりのハンデだがな)
そう思いつつ、そろそろ授業が終わるということで、この後部屋で勉強会を開くことを決め、俺たちはひとまず解散することとなった。
「じゃあ、また後でな」
「おうよ。今日もみっちり、教えてくれよ。優等生」
「優等生は余計だ。じゃあ、後でな。高嶺、颯佐」
そんな約束を交し、俺たちは別れた。