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白山小梅
12
柊に遅れること10分程度。用意された柊のTシャツとジャージに着替えてリビングに戻ると、ようやく待ち望んだ晩酌タイムである。
「……柴崎、これあげる」
暑い日のクーラーの効いた部屋で飲むお風呂上がりのお酒って幸せだと思う。好きな人と一緒だと、なおさら。そんな些細な幸せを噛み締めて、缶をきゅっと傾けるあたしに向かって、柊は手を伸ばしてくる。
しかし、柊はにっこりと微笑んでいるので、要注意。
視線は堅く閉ざされた右手と、満面の笑顔をうろうろと行き来して「どうも……?」
手のひらで控えめに受け取る形を作ってみると、コロンと何かが落とされた。
「……え?これ……」
何か、ではなく、それは見覚えのある物だ。でも、無数にある可能性の、どれと結びつくか分からない。
柊のことだから、バイクとか、ロッカーとか、はたまたバイト先だとか。見当違いのものを寄越したパターンも捨てられない。
「ん。毎日好きな時に来たら良いんじゃないの」
──でも。
あたしの手のひらに落とされたそれは、この部屋の” 合鍵 “で、間違いないらしい。
コトン、と缶チューハイを置いて、両手で大事に抱きしめた。
嬉しさと愛しさで、胸がきゅうと震える。震えるくせに、じわじわと幸福感で満たされていく。
「い、良いの?」
「うん。あおくん、ありがとって可愛いく言えたらあげる」
やはり、笑顔の柊は油断大敵だ。可愛さ余って憎さ百倍、ではなく、優しさ余って意地悪さ百倍である。
名前を呼ぶことくらい、さっきも出来たから今もできるだろって?
あの時は無我夢中で、柊の雰囲気に酔わされていたから言えたものを、はっきりと自分の意思で呼ぶとなれば、話は別だ。どうしたって、照れる。
…でも、合鍵って、彼女の特権みたいなものじゃん?欲しいものは欲しい。
そうだ。アルコールに手伝ってもらおう。それがいい。
残っていた缶チューハイをごくごくと一気に飲み干して、柊を見据えた。
「……ぁ…ぉ……〜……」でも、やっぱり出した声はか細くて、「んー?」とニヤニヤとほくそ笑む柊は悔しいまでにあたしを煽ってくるではないか。
ああ、腹立つ。
腹が立って仕方が無いのに、
好きな気持ちが勝ってしまうから、
もう、どうしようもない。
顔が火照っているのは、お酒のせい。
涙目なのも、酔っているせい。
……じゃあ、
「……ぁぉ、くん……ありがと……」
お望み通りに言ったのに、突然、柊が机に突っ伏したのは、誰のせい?
「あー……だいぶやばい」
「名前呼ぶのそんなにおかしかった!?」
「うん。超だめ。だめすぎるからまた練習な」
「が、頑張ります…」
:
♦
キミは毎回、変な不安を訴える。
しかし残念ながら、こちとら周りに引かれるほどキミのことが好きなので
キミが望むとおりに主導権を渡したとして、夜のテクがうまければ過去の男を殺したくなるほどムカつくわけで
妬くことを一度容認されると、歯止めが効かなくなりそうなので、必死で堪えているんですよ。
……それに
キミは簡単に、振られたら、と、終わる未来を予想をするけれど
こっちは、別れる未来なんか思いつかないくらい、四六時中柴崎でいっぱいだ。そもそも、離す気が無い。
飽きられないようにってあの手この手で駆け引きしてるの、知らないだろ。
これでもまだ、自分の方が俺よりも好きだって、言える?
Fin
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