テラーノベル
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私は氷雪の魔女、アイラ。私の生きる世界はいつも静かで、清らかな雪と氷に包まれている。
他の魔女たちが暮らす場所とは隔絶された、白いこの島が私のすべてだった。
そんな日々の中で、一人の魔女が私の世界に飛び込んできたのは、突然のことだった。
「こんにちは!水の魔女です!あなたの魔法、見せてくださいませんか?」
彼女は、まるで春の陽光が降り注いだかのように、私の凍てつく心を溶かした。
初めて会う水の魔女は、私とは対照的に明るく、表情豊かで、その瞳は好奇心に満ちていた。
「あなたの魔法、素敵ですね。私も、いつかあなたみたいになりたいな」
そう言って笑う彼女の周りには、いつも温かい水の雫が輝いていた。
私は、たちまち彼女に惹かれていった。
それから、私たちは親友になった。
水の魔女は、季節が変わるたびに私の島を訪れた。
二人で他愛もない話をして、魔法を見せ合い、夜が明けるまで語り明かした。
彼女が来る日は、私の世界がいつもより鮮やかに色づくようだった。
「アイラ〜!いる〜!?」
久しぶりに耳にする、その懐かしい声に、私の心は自然と踊りだす。
「久しぶりね、水の魔女。元気にしてた?」
「ええ、とても!」
他愛のない会話。尽きることのない思い出話。
私の家で過ごす時間は、何物にも代えがたい安らぎだった。
だが、その平穏は、あまりにも唐突に打ち破られた。
数日後——ゴゴゴゴ……地響きと共に、地面が大きく揺れ出した。
窓の外に目をやれば、遠くの火山から黒煙が立ち上っている。
「……まずいかも」
私の予感は、すぐに現実のものとなった。
「噴火するかもしれない。お願い、噴火を止めるのを手伝って!」
私たちは急いで家を飛び出し、黒煙を上げる火山へと向かった。
火の粉が舞い、逃げ惑う人々で溢れかえる街。
そこで、崩れた建物の下敷きになった母親と、その傍らで泣き叫ぶ子供の姿が目に入った。
迫りくる火砕流。一刻の猶予もない。
水の魔女が、私の顔を見た。
その瞳は、迷いと、そして覚悟に揺れていた。
(行きなさい。あの子たちを助けて)
私は言葉ではなく、瞳で答えた。
親友の優しい心を、私は誰よりも知っている。
彼女が自分を犠牲にしてでも、誰かを助けようとするその姿を、私は誰よりも尊敬している。
だから、私に残された唯一の役目は、彼女の背中を押すことだった。
「今、助けるから!」
私の想いを受け取った水の魔女は、力強く叫び、親子のもとへ箒を向けた。
彼女の姿が小さくなっていく。
私はその場に立ち尽くし、両手を広げた。
自分の内側にある、すべての冷気を解き放つ。
「凍れ……すべて、白銀に沈め……っ!」
足元から氷の結晶が広がり、迫りくる火砕流とぶつかり合って激しい蒸気が上がる。
けれど、自然の猛威はあまりにも巨大だった。私の魔力だけでは、この巨大な火山の鼓動を止めることはできない。
瓦礫をどかし、親子を箒に乗せたその瞬間。
凄まじい轟音と共に、火山が爆発した。
「アイラ……ッ!!」
遠くから、水の魔女の悲痛な叫びが聞こえた気がした。
視界が火の粉で遮られ、意識が遠のいていく。
(ああ、私……ここで終わるのかな)
その時、ふと、家の中に置いてきたあるものを思い出した。
今日、彼女が来るのが嬉しくて、何度も見返していた古い写真。
二人で旅をして、笑い転げて、いつかまた一緒に旅をしようと約束した、あの日の記録。
(これだけは、灰にしたくない)
私は最後の魔力を、噴火を止めるためではなく、たった一つの「小さな箱」を守るために注ぎ込んだ。
自分の命が消えても、私たちの思い出だけは、彼女が見つけられるように。
世界を凍らせる力はないけれど、その箱の周りだけを、永遠の冬に閉じ込めた。
「水の魔女……また、会えるよね」
凄まじい衝撃と熱。
私の意識はそこで白く染まり、霧のように霧散していった。
……。
どのくらいの時間が経っただろう。
意識の断片が、島に降り始めた雪に溶けていくのを感じた。
街の人々の祈り、そして、誰よりも深く私を呼ぶ、震える声。
「アイラ……どこなの、アイラ……!」
ああ、見つけてくれたんだね。
私は雪の結晶を集め、その声の主の前に形を成した。
泣きじゃくる彼女の姿。その手には、私が守ったあの写真。
抱きしめられた体は、少しも冷たくなかった。
私を呼ぶ彼女の体温が、止まっていた私の時間を再び動かしていく。
「……来るの、遅かったじゃん」
ちょっとだけ意地悪な言葉を返したのは、そうしないと、私まで泣いてしまいそうだったから。
私を強く抱きしめる彼女の腕の温かさに、胸が震える。
(よく生きててくれたね。私の、水の魔女)
二人の再会を祝うかのように、島の人々が集まり、盛大な宴が開かれた。
私たちは朝まで笑い、語り、そして飲み明かした。
翌朝、二日酔いでガンガン響く頭を押さえながら、水の魔女は旅の支度をする。
「もう行くの?」
「ええ。あなたの守ったこの世界を、もう少し見て回らなくちゃ」
寂しくないと言えば嘘になる。けれど、もう私は一人じゃない。
彼女の旅路が、この世界をより一層輝かせると信じている。
私は笑顔で水の魔女を見送った。
「次はどこで会おうか。約束だよ、私の親友」
またいつか、この雪が降る場所で。
きっと、その時はもっと素敵な思い出を二人で作ろう。
私は、親友との再会を胸に、白い島で穏やかな日々を送るだろう。
Fine
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