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(――俺、ちゃんと経験者らしくくるみちゃんのこと、引っ張っていけるんじゃろうか)
いや、ヤル気だけは十二分にある。
あるのだけれど――。
考えてみたら未経験の女の子を抱くのは俺も初めてじゃないか!と気が付いた。
そもそも年下の女の子と付き合うこと自体が、実篤には初体験なのだ。
(ちょっ、待って待って? ひょっとして滅茶苦茶ハードル高ぉない?)
というか、何か気をつける事はあるんじゃろうか?
そう気付いた途端、にわかにソワソワし始めて。
実篤はいそいそとスマートフォンを手に取ると「処女 注意点」と打ち込んで検索してみた。
(いや、俺、いくつよ? 十代の童貞じゃあるまいに、これ)
ふと我に返って、思わず苦笑しつつ。
それでも一番上に出てきたサイト『女性百人に聞きました! 処女とエッチする時の注意点【男性向け】』というサイトを迷わず開いてみた実篤だった。
「んー、どれどれ……」
そのページによると――。
●女の子が恥ずかしがっていたら部屋を明るくしない。
(マジか! すっごく見たいのに、下手したら手探りプレイかぁー。けど……それって何ちゅーか凄く難しそうじゃない? ……あー、くるみちゃーん、お願いじゃけ恥ずかしがらんで? 電気付けたままにさして?)
●不安をやわらげる努力をする。
(まぁ、そりゃー当然よな? 初めては何も分からんで怖かろぉーし)
●優しくリードする。
(はい! 善処します!)
●激しくしない。
(う……。が、頑張ります!)
●基本的なことしかしない。
(ん? 基本的なことって何? 体位は正常位だけとか……そういう意味?)
※初っ端から道具を使ったり、アブノーマルなエッチを求めないこと。
(あー、そういう意味かっ! なら大丈夫じゃろ。俺も道具は未知じゃし!)
●反応が薄くても女の子を責めない。
(なるべく気持ちよくしてあげたいけど……こればっかりはなぁ。初めては痛いっちゅうし。……って言うかそんなんで責めんじゃろ、普通。……あ。それでもわざわざ書いてあるっちゅうことは責める男もおるっちゅーことよな? 何、そいつ、鬼か何かなん?)
実篤としては、もしもくるみが濡れなかったとしても、それを責める構図なんて微塵も浮かんでこないのだが――。
いや、むしろそんなことになったら「気にせんで?」と甘やかしまくりたい。
●途中までしか出来なくても怒らない。
(と、途中!? あー、それは確かに有り得るんよなぁ。まぁそれは仕方ないよなぁ。うー)
●事後のフォローをしっかりする。
(ま、そりゃ、当然じゃろ? 逆にせん奴とかおるん?)
ざっと読んでみると、どうやらそんな感じらしい。
あとはまぁ、出血に備えて下にタオルなどを敷いておいてあげると、女の子がシーツを汚した罪悪感にかられなくて済むとかなんとか。
思ったほど特別なことはないように思えて、ホッと胸を撫で下ろした実篤だ。
(これなら俺でも何とかなりそうじゃわ)
…………多分。
***
くるみがシャワーから出てきて、入れ替わるように浴室に入った実篤だったけれど。
(ヤバッ! 俺、彼シャツの威力、侮っちょったわぁ〜)
くるみは実篤が用意した服の中から、一番丈が長い黒のトレーナーを選んでいた。
「お先です」
ペコッと他人行儀に会釈して。恥ずかしそうに視線を逸らして頭を下げたくるみからふわりとフルーティーなボディーソープの香りが漂う。
実篤は思わずそんなくるみの後ろ姿に見惚れてしまったのだ。
(うちの石鹸、あんな良いにおいせんけん、くるみちゃん、家から持って来ちょったんかな)
そう思い至って、(最初から泊まる気でおってくれたんかな?)とまでは気付いた実篤だったけれど。
彼シャツを拝借するのがくるみの策略だとは気が付けない残念なところもあったりする。
実篤が着てもお尻が半ばまで隠れるトレーナーは、くるみが着ると膝上あたりまであるミニスカートみたいになっていて。
何て言うか、とにかく!
実篤の言葉を借りるならば「物凄く可愛ゆーて堪らん!(語彙力の欠如を感じつつ……)」かったのだ。
「冷たっ!」とか震えながら、頭からわざと冷水を被ったのは、興奮しまくりの脳みそをちょっとだけ冷やしたかったから。
それで煩悩が退散してくれるとは思えないし、そもそも今からすることを思えばその辺りは大いに育ててやらねばならない感情なのだけれど。
(正直バニーちゃんより断然良かったんじゃけどっ!)
この興奮、少々冷たい水を浴びたぐらいでは収まらないらしい。
思い出し笑いでニマニマと緩んでくる口元を引き締めて、(冷たい身体でくるみちゃん抱きしめるんはまずいわ!)と気が付いた実篤は、シャワーのつまみを回してお湯に切り替えた。
モワモワと湯気に煙ってくる浴室内で、(そーいや、さっきまでここにくるみちゃんがおったんよなぁ。――全裸で)とか思ったら、グワァーッと下腹部に熱がたまって「ちょい待て、お前。スタンバイするの、まだ早いけん!」と思わず声に出して愚息をたしなめる羽目になった。
(俺、マジで大丈夫なん?)
さっき見たサイトでは、とにかく男の側が冷静でないといけない気がしたのだが――。
これが案外自分には高い壁なんじゃないかと思えてしまった実篤だ。
(ひょっとして俺、ここで一回ぐらいヌいちょった方が良いんじゃ……?)
そうでもしないと、優しくリードするとか無理そうな気がして……実篤は熱い吐息とともに、ヤル気満々にそそり勃つ息子にそっと手を添えた。
「んっ」
硬く勃ち上がったそこは、ほんの数回こすったら達ってしまいそうに思えた実篤だ。
(こんなにコイツが昂ったトコ見るん、超久しぶりじゃわ)
何だかそれがちょっぴり誇らしく思えてしまう、悲しいアラサー男がここに一人。
思わずそう感じたのを、無理矢理に(いやいや、まだまだ現役じゃろ、俺!)と鼓舞して、全神経を指先と股間に集中させる。
――と同時。
「あ、あの、実篤さん……?」
風呂場の磨りガラスに、くるみの黒服を纏ったシルエットがぼんやりと映って、実篤は思わず肩をビクッと跳ねさせて「ひゃいっ!」と変な声を上げてしまった。
「ごっ、ごめんなさい。びっくりさして」
風呂場の中、実篤が跳ね上がったのが見えたのだろうか?
いや、そんなことはないと信じたい実篤だったけれど、奇声を発してしまったことは確かなので、申し開きのしようがないと諦めた。
シャワーの水音が邪魔で、くるみの声が聞き取りづらかったから。
一旦コックを捻ってシャワーを止めると、実篤は握ったままだった手を、慌てて愚息から離して「大丈夫よ。どうしたん?」と極力声を抑えめにして問いかけた。
「えっと……凄くくだらんことなんじゃけど……その、うち、もう一回バニーちゃん着ちょった方がええですか? それとも――」
「いっ、今のままでお願いします!!」
実篤は、くるみの言葉を遮るように思わず力説してしまっていた。
「えっ?」
あまりに前のめりになってしまったからだろうか。
くるみが外から驚いた声を出したのが聞こえて、内心(やっちまった!)と思った実篤だ。
だが、済んだこと。ジタバタするだけ無駄だと開き直ることにした。
「お、俺っ、くるみちゃんが俺の服着てくれちょるん、すげぇ良いって思うたんよ。だから、そのままでおってもらえたら滅茶苦茶嬉しいです」
嘘偽らざる本音を述べて、くるみに「わかりました」と納得してもらった。
***
結局くるみの予期せぬ来襲で息子はすっかりシュン、と元気をなくしてしまい、実篤は身体中をしっかり清めるだけで風呂場を後にする運びとなった。
上がる時、忘れず湯張りボタンを押して事後に備えるのを忘れなかったのは我ながらグダグダな中で頑張れた方だと思う。
身体中をクンクン嗅いで綺麗になったかどうかを確認しながら、「大丈夫、俺は本番に強い男じゃ! ちゃんとやれる!」とペチペチ頬を叩いてから、ふと思いついて歯磨きも済ませて部屋に戻る。
――と、くるみは寝室には居なくて「おや?」と思った実篤だ。
(まさか怖ーなって帰ったとか?)
などと考えてから、いや、くるみちゃんの車、俺の職場じゃんと思い直す。
「くるみちゃーん? おーい。どこにおるん?」
ソワソワしながら呼ばわったら「ひゃーい」とどこかほわほわとうわついた返事が居間の方から聞こえてくる。
(あ、そっちじゃったか)
最初にそちらの部屋に通したのだから、風呂上がりのくるみがそこで待っていても不思議ではない。
寝室と違って居間にはテレビもあるし、考えてみれば寝室で待つのは「いかにも今から致す気満々です!」と構えているようで、実篤自身でもハードルが高いように思えた。
そんなことを思いつつ、実篤が応接室兼居間の襖を開けたら――。
「しゃねあちゅしゃん、遅ぉーい! うち、待ちくらびれましたけぇ〜」
部屋の中からまろび出るようによろめきながら出てきたくるみに、何の前触れもなく真っ正面からギューッ!とハグされてびっくりしてしまう。
「くっ、くるみちゃん?」
(ちょっ、待っ。え!? ――酒っ?)
見れば、寝室に移動する前に居間のテーブルに載せておいたビールが二缶、開封されて机上に転がっている。
なのにつまみ――ポテトチップス――の袋を開封した様子はなくて。
(くるみちゃん! 空きっ腹に酒入れたんかぁー!)
思わず心の中で叫んで天井を仰いだ実篤だ。