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「えっと……くるみちゃん、ひょっとして……いや、ひょっとせんでも……酒飲んだん?」
(一人で二缶も!)
などと心の中で付け加えつつ。
スリスリと実篤の胸元に額を擦り付けて甘えてくるくるみをそっと抱きしめながら問いかけたら、
「だって実篤しゃ、お風呂から全然上がって来んのんじゃもん。一人で待っちょったら緊張しれきらんじゃけ、仕方ないじゃろ?」
呂律の回らない口調でぷぅっと唇を突き出すくるみをあやすように、実篤は「うん、うん」と相槌を打った。
くるみはそんな実篤を、酔いで潤んだ大きな目で見上げながら思いの丈をぶつけてくる。
「喉も乾いちょっらし丁度ええかなぁって一缶目開けたらわけわからんなったんよ。温ぅ〜てあんまし美味しゅうなかったぁ〜」
(いや、温くて美味しゅーないって感じた時点で二缶目にいくのやめませんかね、くるみちゃん!)
などと思った実篤だったけれど、何せ腕の中のくるみがふにゅふにゅして可愛くてそれどころではない。
そもそも酔っ払いのやることに意図なんて見出せるわけがないのだ。
(まぁ案外飲んでくれちょる方が緊張も解れて痛みとかあんましないかもしれんし……そう考えたらある意味怪我の功名よな?)
なんて、屈託のない表情で実篤の腕の中に収まるくるみを見下ろしながら、頭の中はそんなことで一杯に染められていく実篤だ。本当に男の性というのは業が深い。
「いっぱい待たせてごめんね。気持ち悪ぅない?」
ホワホワと気持ち良さそうではあるけれど、空きっ腹にやらかしていることが気になって問い掛けた実篤に、「全然」とくるみがにっこり笑う。
(かっ、可愛すぎるっ!)
いつも小悪魔で実篤を翻弄しまくりのくるみだけれど、今のくるみは無防備百%で、通常の可愛さの九割増し以上。
警戒心なんて皆無で、ギュウギュウと身体を実篤に押し付けてくるのが堪らない。
しかも失念してはいけないのがくるみの服装!
(彼シャツ、有難う!)
つい実篤が心の中でガッツポーズをしたのも無理はない。
これでもかと押し当てられている胸はおそらくノーブラで、温かくて柔らかな極上の感触がふたりの間で押しつぶされているのを感じる。
くっつきすぎていて今は見えないけれど、足に触れているくるみの二の足は生足のはずで。
「そ、それは良かった」
努めて平静を装いながら言ったけれど、先程風呂場で宥め損ねた息子さんが、「今度こそスタンバイしても宜しいですよね!?」と下の方で騒いでいるのが分かって、思わず熱い吐息が漏れた実篤だ。
「やぁ〜ん、実篤しゃんのエッチ♥」
しかも、どうやらソコが固く勃ち上がっているのが、くるみにもバレてしまったらしい。
(こんだけ密着しちょれば当たり前か)
「くるみちゃんがあんまり可愛いけん」
素直に言ったら、くるみは一瞬キョトンとした顔をして。
すぐにふわりと極上の笑顔を浮かべて「嬉しいっ」と喜んでくれた。
きっと素面なら真っ赤になっているところだろうが、酒の力は恐ろしくて素晴らしい。
「そーいうわけでくるみちゃん、このまま寝室に連れてっても良い?」
さすがにちょっと性急すぎじゃろうか?と思いつつ。
でも今のくるみなら難なくOKを出してくれるんじゃないかと期待もしている実篤だ。
「ええでしゅよ〜」
そうしてお酒の入ったくるみは、そんな実篤の期待を裏切らない。
(有難う! ビール!……第三のじゃけど)
そう心の中で拳を振り上げた実篤に、「あっ! でも……ちょっろ待っれ欲しいれす」とくるみが言って。
(ここまできて、まさかの「待て」がきたー!)と不満に思った心の声が、期せずして「え!?」という声になって漏れ出てしまった実篤だ。
「『えっ?』じゃないれしゅよ。トイレ行きたいらけじゃけぇ、ちょっと位待ちんちゃい」
そんな実篤をじっと見上げると、くるみが唇を突き出す。
そればかりか、「待れが出来ん子は駄目れすよ。メッ!」と、フラフラしながら背伸びして実篤の鼻の頭を親指でギュッと押しつぶしてきたから堪らない。
(この酔っ払い娘め)
などと苦笑しつつも、そんなくるみにどうしようもなくキュンキュンさせられっぱなしの実篤だった。
「一人で歩けれる?」
恐る恐る聞けば、くるみはひゃわひゃわと楽しげに笑いながら「無理れしゅね」と実篤に身体を預けてくる。
「じゃけ、お願い。連れてって?」
挙げ句上目遣いでそんな風におねだりをしてくるとか、この子はどれだけ小悪魔なんだろうか?
くるみがキュゥッとしがみついてくるたび、薄い布地越しにふわふわの胸が否応なく押し当てられてくる。
そのせいで、下の方では息子さんが「お父さん、まだですか?」と騒ぎまくりなのだ。
そろそろなだめるのも限界だし、マジで勘弁してくれと思ってしまう。
はぁ~っと大きくため息をつくと、実篤は観念したように
「ちょっとごめんね」
そう声を掛けてくるみの膝裏に腕を差し込んで、横抱きに抱え上げた。
(う〜。生足っ)
途端、手のひらにくるみの温かな地肌の感触が伝わってきて、正直「かーなーり! 限界だ!」と感じてしまう。
「あれれ? 実篤しゃ、お手手三本……?」
キョトンとした様子でくるみが言ってくるから、心の中で(んなわけなかろうよ!)と突っ込みを入れつつ、(それ、手じゃなくてアレじゃけぇね!? くるみちゃん、絶対分かっちょるじゃろ?)と言い訳をしてみたり。
「くるみちゃん、お願いじゃけ、あまり動かんちょいて?」
そう声を掛けながら、実篤は先刻からずっと、一人で悶えまくりだ。
***
「覗いたりしたら絶交れしゅけぇね?」
そんなことを言いながらフラフラとトイレの個室に消えたくるみを見送って、廊下で一人「さて」とつぶやいた実篤だ。
このまま扉の前に張り付いているのは余りにもデリカシーがない。
(じゃけぇって余し離れちょったら何かあっても分からんし)
結果、三歩ほど後ずさるようにして扉から離れてみた。
(これ、意味あろぉ〜か?)
疑問に感じつつも、くるみが心配でそれ以上はどうしても距離をあけられなくて。
そうこうしている内に息子さんも平常心を取り戻してきたらしく、痛いほどに張り詰めていたそこが落ち着いてくれてホッと胸を撫で下ろす。
いわゆる〝テントを張る〟という状態だったわけだけれど、さすがにそれは結構窮屈でしんどかったのだ。
(ここから寝室までは、手ぇ二本で行けそうじゃわ)
そんなくだらないことを思っていたら、流水音が聞こえてきて、ゆらゆらしながらくるみが個室から出て来た。
「実篤しゃんはマメ男くんれしゅね〜」
扉を開けて実篤の姿を認めるなり、くるみがそんなことを言ってきたから、実篤は思わずキョトンとしてしまった。
「らって、芳香剤もちゃんとお花の香りのするんが置いてあっらし、トイレも凄く綺麗れした。ちゅいでに! 便座カバーが肉球柄で可愛らしかったれす!」
全部、妹・鏡花が一緒に住んでいた頃の名残なのだが、まぁそれを維持し続けている時点で確かに自分はマメなんだろう、と気付かされた実篤だ。
「トイレだけはいつ誰に貸すことになるか分からんけんね。だから常に綺麗にしちょけって……。まぁおふくろの受け売りなんじゃけど」
来訪者がそんなにしょっちゅうあるわけではないけれど、一応この家は栗野家の皆にとっては実家に当たる。
親戚連中が集まってくることもないわけではないし、不測の事態に備えてトイレはいつも清潔に、は常に心掛けている実篤だ。
それは不動産屋の事務所にしても同じで。
従業員らにはトイレの掃除は特に念入りにするように言いつけてあるし、実篤自身も使った後は不備がないかチェックするようにしている。
「奇遇れしゅね〜。うちも小しゃい頃から同じように言われて育ちましたぁ〜」
そこでくるみはニコォ〜っと極上の笑顔を浮かべると、
「価値観の合う人とは長続きしゅるらしいれす♡」
そう言ってギュッと実篤にしがみついた。
「大好きれしゅ。実篤しゃんのそういうマメなとこりょ……」
そこで一旦言葉を止めるとスリリッと実篤に身体を擦り寄せて、
「それからうちを大事に扱ってくれりゅ優しいとこりょも、凄く凄く凄ぉ〜く! 大好きれしゅ!」
そんなことを間近で可愛らしく顔を見上げられて言われたら、堪らないではないか。
ごくん、と生唾を飲み込むと、実篤は
「くるみちゃんっ!」
「ひゃぁっ!」
彼女の名前を熱い吐息と共に吐き出すなり、くるみを先ほどのように横抱きに抱え上げて大股に寝室を目指す。
「ごめんっ。さすがにもう我慢の限界じゃわ!」
結局三本の手で運ぶ羽目になってしまったのは、ここだけの話――。
***
くるみをベッドに下ろすと、性急過ぎたのか、マットのスプリングがギシギシと音を立てて弾んで、くるみの身体を揺さぶるように翻弄して。
その振動に、くるみが「やんっ!」と悲鳴を上げた。
その声ごと食べるみたいに唇を塞いだら、驚いたようにくるみが瞳を見開いたのが分かった。
「さね――」
あつさん、まで言わせない。
と言うより言わせてやれるゆとりがない。
「あ、待っ、ぁんっ、……んんっ」
くるみが一生懸命実篤に縋り付くようにして、彼の性急さに歯止めをかけようとするけれど、それすら実篤を焚き付ける燃料にしかならない。
目の前にご馳走をぶらさげられたまま、「待て」をさせられ過ぎた〝ヘタレ忠犬〟は、今や〝猪突猛進な狂犬〟だ。
酒で熱くなったくるみの唇を割り開くようにして侵入した実篤の舌は、彼女の歯列をなぞり、口中を探り、舌を絡めては吸い上げる。
そんな激しい口付けに付いていくのが精一杯で、どこでどう息継ぎをしたらいいのか分からないくるみは、涙目で懸命に実篤にしがみつくのが関の山。
そんなくるみの胸をTシャツごとムニュッと鷲掴むと、実篤は中心の敏感なところをわざと外して、フワフワな感触を楽しむようにやんわりと揉みしだいた。
キスだけでも一杯一杯のくるみは、その感触にビクッと身体を跳ねさせて。
「んんんっ!」
――実篤さん待って!
そう言いたいのに、くるみの口から出るのは意味のない〝音〟ばかり。
息苦しさと恥ずかしさにギュッと眉根を寄せた瞬間、くるみの目端からポロリと生理的な涙がこぼれ落ちた。