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もな
113
花桜月華
244
『未だに幼少期に読んだ絵本のおとぎ話を信じている人は、無知かそれとも純粋か。』
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少し前まで何も無かった川辺の木に、桜色の飾りが咲く時期。出会いと別れの季節。俺はこの季節が一番嫌いだ。
去年と何も変わらない学校へ向かうまでの道の景色。でも、そこにいる人は変わった。ぶかぶかで新しいの制服に袖を通して、この先の未来に胸をふくらませている後輩達。俺も去年はあんな感じだっただろうか。いや違う。あんなに、眩しくはなかった。
「兄ちゃん!」
少し歩いた所で後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてくる。 足を止めずに振り返ると、そこには弟の悠(ゆう)がこちらに向かって、走ってきていた。
俺に追いついた悠は息を切らした様子もなく、人懐っこい笑顔で隣に並んだ。
「先に行くなんて酷いよ!」
「起きるのが遅いのが悪い。」
「だって、昨日寝るの遅かったんだもん。」
「何してたんだよ。」
「ゲーム。」
「…自業自得だろ。」
「兄ちゃん、冷たくない?」
「事実を言っただけ。」
「ひどい!」
悠は頬を膨らませながらも、俺の隣を歩いている。悠は俺がどんだけ適当に返事をしたとしても、楽しそうに会話を続けてくる。
「そういえば兄ちゃん、今日何時に帰り?」
「知らない。なんで?」
「母さんが牛乳買ってきてって。」
「ああ…、そういうこと。」
「お願いね!」
「なんで俺が…」
なんて文句を言いながらも、ポケットからスマホを取り出して簡単にメモをしておく。
「だって、兄ちゃんの方が帰り早いでしょ!」
「1個上だし!」
「1個上は関係ないだろ。」
「まあまあ。」
悠は笑いながら俺の肩を叩いた。俺より背が高い分力が強い。
そういう普段の差で、俺と悠の血の違いを感じる。俺と悠は血がつながっていない。俺の母さんが再婚して兄弟になった。それだけだ。
けれど、未だにこいつが弟であることに違和感を感じる事がある。
「ねえ、見てみて!」
ふと、前方を歩く女子学生二人の会話が聞こえてきた。俺達と同じ学校の制服だ。
別に盗み聞きするつもりはなかった。ただ、朝の静かな道では、少し離れていたとしても自然と会話が耳に入ってくる。
「これ、入学前に買っておいたんだよね!」
「え、可愛いんだけど。十字架?」
「そうそう。前のやつ壊れちゃったから。」
「へー。最近さ、付ける人増えたよね。十字架。」
「そりゃそうでしょ!最近吸血鬼の事件ヤバいもん!」
吸血鬼。その言葉に、一瞬足が止まりそうになった。
「ニュース見た?ほら、昨日の。」
「見た見た!駅の近くで襲われたやつでしょ!?」
一方の女子高生が大げさに怯えたように身震いをする。
「そう!ヤバくない?めっちゃ怖い。」
「それな。しかもさ、普通に町中にいるんでしょ、吸血鬼って。」
「しかも見た目じゃ分からないっていうし。」
「それが一番怖いわ…!」
「だからさ、丁度いいから変えちゃったの。」
「それ、効くの?」
「分かんない。でも、昔から吸血鬼には十字架っていうじゃん。」
「今時そんなの信じてるの?」
「信じてるっていうか……気休め?」
「まあ、可愛いしね。」
そう言って、二人の笑い声が響く。
アクセサリー。昔からそういう類に興味はなかった。だから、当たり前のようにつけてもいないし持ってもいない。
「兄ちゃん。」
隣から悠が声をかけてきた。
「何。」
「最近、吸血鬼の事件多いんだって。」
「聞こえてた。」
「怖くない?」
「別に。」
「即答?」
「怖がったところでどうにもならないだろ。」
強がっているとかではなく、本心だった。
「まあ、それもそうだけど。」
悠はそう言って、視線を前に戻した。その横顔にはいつもの人懐っこい笑顔はなかった。
「…でも、気をつけたほうがいいと思うよ。」
「何に?」
「吸血鬼。」
「お前に言われても説得力ないな。」
「ええ?なんで!」
「なんとなく。」
「ひどい!」
そう言って悠は笑った。いつも通りの笑顔に戻った。
前を歩く女子たちは少しずつ前に進み、会話も遠ざかっていった。俺はそんな二人の背中をぼーっと眺めていた。
春の風が吹き、俺らの間を桜の花びらが通り過ぎた。
コメント
2件
初投稿作です。誤字等あれば教えて下さると幸いです 🙇🏻♀️⸒⸒ 今後の展開上BLという括りになると思いますが、言うほど恋愛要素を絡められる自信が無いので、タグ付けしていません。 苦手な方は見るのを御遠慮ください。
読ませていただきました。 冒頭の一文と、柔らかな朝の風景、そして弟の悠くんとの距離感がすごく好きです。主人公の「血の違い」を感じる独白に、すっと心が掴まれました。吸血鬼というファンタジー要素が日常に混ざる塩梅も絶妙で、これからどう物語が転がるのか気になります! 続きを楽しみにしていますね🌷