コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そろそろ準備を……、という時間になる頃、私は先に髪をまとめていた。
すると着付師のマダムが二人部屋を訪れ、挨拶をする。
スイートルームの隅には浴衣の入った箱があり、ドキドキしてそれを開けると紺地に白、水色で朝顔が描かれた浴衣が入っていた。
帯は白で涼しげなターコイズブルーの帯留めもある。
「さあ、着付けますよ」
百戦錬磨っぽいマダムに微笑まれると、尊さんは「二階に行ってます。できたら呼んでください」と言って席を外した。
「お客様はお胸が豊かなので、着物用の下着でボリュームダウンしましょうね」
そう言って渡された白い着物用ブラは、センターにファスナーがついていて着脱しやすい。
事前に尊さんが手配してくれたそれは、丁度……、なんというかサイズもぴったりで、私の胸を見事になかった事にしてくれた。
その上にサラッとした生地のキャミソール、ペチパンツみたいなのを穿いたあと、レースの足袋を穿いて浴衣の着付けが始まった。
素人の私だったら、遠慮して力を込められないところを、グッ、グッと締めてくれ、実に頼もしい。
あっという間に浴衣を着付けられたあと、マダムたちは尊さんを呼ぶ。
すると既に、肌襦袢とステテコを穿いた尊さんが降りてきた。
作務衣の全身白バージョンみたいな感じなので、思わずこんな感想が漏れる。
「修行僧みたい」
「滝行するか」
そんな事を言っている間、尊さんは黒い縦縞の浴衣に、ベージュっぽい献上柄の角帯を締められていた。
「これ、ハンドメイドの一点物」
最後に尊さんはそう言って、花嫁さんがつけるようなゴージャスな白いお花の髪飾りをつけてくれた。
「わぁ……」
鏡の前に立った私は、横を向いたりして浴衣姿を確認し、ニヤニヤする。
「下駄はこれ」
「わぁ……! 綺麗!」
出されたのは小町下駄と呼ばれる形の下駄で、側面には美しい花の彫り物(しかもカラー)が施されている上、鼻緒にもカラフルな花模様が刺繍されている。
「お高かったでしょう~?」
テンションが上がったあまり、テレビショッピングみたいな事を言うと、尊さんは半分笑いながら「今ならなんと!」と乗ってくれた。
マダムたちは微笑んでそのやり取りを見守ってくれていた。
「ありがとうございます」
尊さんは彼女たちにお礼を言い、料金を支払う。
マダムたちが出て行ったあと、私は恵を思って呟いた。
「恵たちももう準備できたのかな」
「彼女たちに順番にやってもらう約束をしてるから、多分もう終わってるんじゃないかな」
「ふーん。ならすぐ会えますね」
そのあと私はニヤニヤして、浴衣姿の尊さんを写真に収め始めた。
**
「恵ちゃん、可愛いねぇ~」
目の前にクネクネがいる。
世にも美麗なクネクネは、古典柄のベージュの浴衣に黒い角帯を締め、シルクの西陣織の段巻のついた、黒いかぎ編みのパナマハットを被っている。胡散臭い。
先ほど気付けのマダムが二名来て、私と涼さんをあっという間に着付けていった。
私の浴衣は向日葵柄で、紺地に華やかな黄色が映えている。
帯はえんじ色で、白っぽいガラスの帯留めもついていた。
涼さんは「仕上げだよ」と言って、ハンドメイドらしい綺麗な向日葵の髪飾りを私につけ、それから一人でテンションをぶち上げて撮影会に入っている。
「早めに行かないと、混雑するんじゃないですか?」
そう言うと、涼さんは「おっと、そうだね」と我に返り、私にアイボリーの巾着袋を渡してきた。
「貴重品だけ入れて」
涼さんは黒地に鳥獣戯画の柄がついた、紐のショルダーバッグをかけると、下駄を履く。
靴擦れしないように、私はレースの足袋を用意してもらっていて、少しホッとした。
ドアトゥドアの移動であっても、靴擦れして迷惑を掛けるのは嫌だったから。
「お嬢さん、お手をどうぞ」
涼さんに手を差し伸べられ、私はおずおずと彼の手をとると、白木に赤い鼻緒がついた下駄を履く。
「朱里、どんなの着てるかな。楽しみだな」
そう呟くと、涼さんは「俺は……?」と困惑した顔をしたのだった。
**