テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ご本人様には関係ありません
あき💫🌙

18,634
66
弦月藤士郎feat.珠乃井ナナ「君の夢」、この楽曲があまりにも投稿主が好きすぎて仕方ないので世界観を活かして小説を書いてみました。
こちらはにじさんじ所属叶さん、葛葉さんの二次創作小説になります。
以下の要素を含みます。苦手な方ご注意ください。
⚠かなりメタいです
⚠死生観の話
⚠腐向け
彼が死んでしまう夢を見た。
夢の中で、叶はいつものように笑っていた。
何も変わらない朝だった。
カーテンの隙間から差し込む光。
少し冷えた空気。
まだ眠そうな顔で、淹れる珈琲の香り。
窓辺に座った叶は、外を眺めながら言った。
「今日は雨が降るよ」
「また適当なこと言ってる」
「違うよ。分かるんだって」
「根拠は」
「なんとなく」
そう言って笑う。
昔からそうだった。
叶は、どうでもいいことばかりよく当てた。
明日の天気。
初めて行く街で見つける店。
俺が言葉にしないまま抱えている寂しさ。
本人は偶然だと言っていたけれど、俺には分かっていた。
叶は、他人の小さな変化を見るのが得意だった。
誰かが無理をしていること。
誰かが笑っているふりをしていること。
誰かが助けを求める前に、その手を取ること。
そういうものだけは、いつも正確だった。
なのに。
自分がいなくなる日だけは、教えてくれなかった。
目を覚ました時、部屋は静かだった。
隣にいるはずの気配を探して、手を伸ばす。
けれど、触れた場所には冷たいシーツしかなかった。
一瞬、本当に失ったのかと思った。
「……叶」
名前を呼んでから、自分でも驚いた。
声が震えていた。
俺は、長い時間を生きてきた。
国が変わった。
街が変わった。
昨日まで隣にいた人間が、いつの間にかいなくなることにも慣れた。
何十年という時間を生きる人間たちは、俺にとっては一瞬の光だった。
出会う。
笑い合う。
思い出を作る。
そして、消えていく。
何度も見てきた。
何度も経験してきた。
だから、もう大丈夫だと思っていた。
別れなんて慣れていると思っていた。
でも。
叶がいない未来だけは、想像できなかった。
俺と叶は、最初から違っていた。
叶は人間だった。
限られた時間の中で生きる存在。
対して俺は、時間というものに置いていかれることがない。
季節が巡っても。
街が変わっても。
誰かの記憶から俺が消えていっても。
俺だけは残り続ける。
昔、叶はそんな俺を羨ましそうに見ていた。
「いいなあ」
そう言われたことがある。
「何が」
「ずっと生きられるところ」
俺は少し苛立っていた。
簡単に言うなと思った。
終わらない時間が、どれだけ孤独なのか。
何度も大切なものを失うことが、どれだけ苦しいのか。
知らないくせに。
「羨ましいか?」
聞くと、叶は少し考えた。
そして首を振った。
「ううん」
「いいなって言ったくせに」
「だって」
叶は笑った。
「終わりがあるから、大切にできるものもあると思うから」
その言葉が嫌いだった。
嫌いだった。
終わりを受け入れている叶が。
限られた時間を惜しまず笑う叶が。
いつか俺を置いていくことを、どこかで理解しているような目が。
怖かった。
「変な顔してる」
帰ってきた叶は、玄関に立った俺を見るなりそう言った。
「夢を見た」
「悪い夢?」
「まあそんなとこ」
「僕が死ぬ夢?」
思わず顔を上げた。
「……なんで分かんの」
叶は少し笑った。
「葛葉って分かりやすいから」
「そんなことない」
「あるよ」
即答だった。
腹が立つくらい、いつも通りだった。
俺が何百年抱えてきた恐怖を、叶は簡単に見抜く。
「ねえ」
「何」
「僕がいなくなったら、葛葉はどうするの?」
答えられなかった。
今まで何度も別れを経験した。
何人もの人間を見送った。
そのたびに、残された時間を歩いてきた。
なのに。
叶だけは違った。
「……分からない」
初めて、自分の弱さを認めた。
叶は少し目を丸くした。
それから、困ったように笑った。
「そっか」
「笑うな」
「笑ってないよ」
「笑ってる」
「葛葉が珍しいこと言うから」
叶はそう言って、俺の手を取った。
温かかった。
人間の体温。
いつか失われる温度。
分かっている。
分かっているからこそ、怖かった。
「ねえ、葛葉」
「何」
「僕がいなくなった後も、生きて」
「嫌だと言ったら」
「困る」
「なぜ」
叶は少しだけ黙った。
それから、優しい声で言った。
「僕がいたことを、覚えていてほしいから」
胸の奥が痛んだ。
「でも」
叶は続ける。
「僕のために、ずっと苦しんでほしいわけじゃない」
「……」
「僕が好きだった葛葉には、ちゃんと笑っていてほしい」
優しい言葉だった。
だからこそ残酷だった。
叶はいつもそうだった。
自分が傷つくことより、誰かが傷つくことを嫌がる。
最後まで、そういう奴だった。
その夜、また夢を見た。
今度は叶が死ぬ夢ではなかった。
叶がいなくなった後も、俺が歩いている夢だった。
何十年。
何百年。
長すぎる時間の中で、少しずつ叶の声が遠ざかっていく。
笑った顔。
怒った顔。
くだらないことで真剣に悩む姿。
全部、薄れていく。
そう思っていた。
けれど。
夢の中の俺は、泣いていなかった。
叶が残したものを抱えていたから。
初めて名前を呼ばれた日のこと。
どうでもいい話で朝まで笑ったこと。
くだらない喧嘩をしたこと。
何でもない時間。
叶にとっては短かった時間。
でも、俺にとっては永遠だった。
目を覚ます。
隣には叶がいた。
「おはよう」
いつもの声。
いつもの笑顔。
しばらく、何も言えなかった。
「……どうしたの?」
俺は叶の手を握った。
いつか離れてしまう手を。
「忘れない」
叶は首を傾げた。
「何を?」
「お前がいた時間」
叶は少しだけ目を細めた。
「それなら十分」
「怖くないのか」
「何が?」
「俺が、ずっと覚えていること」
叶は笑った。
「嬉しいよ」
「でも」
「でも?」
「僕がいなくなった後の葛葉が、僕の思い出だけで止まっちゃったら嫌だな」
そう言って、叶は俺の手を握り返した。
「思い出して」
「……」
「でも、前に進んで」
朝の光が部屋に差し込む。
世界は相変わらず広い。
長くて、果てがなくて。
昔なら、その広さが怖かった。
大切なものを失った後に残る世界が、嫌いだった。
でも今は違う。
叶がいた世界だから。
叶が笑った場所だから。
叶が生きた時間だから。
俺はきっと歩いていける。
いつか、この手の温度を失ったとしても。
いつか、声が遠くなったとしても。
俺の中から、お前が消えることはない。
「葛葉」
「何」
「今日、雨降るよ」
「……また?」
「うん」
「根拠は」
叶はいつものように笑った。
「なんとなく」
その顔を見て、俺も少しだけ笑った。
たぶん叶は、最後まで変わらない。
どうでもいいことばかり当てて。
大切なことだけは、俺に気付かせる。
だから俺も、忘れない。
君がいた時間を。
君がくれた未来を。
そして。
君がいなくなった後も続いていく、この世界を。
俺はきっと、生きていく。
君の名前を、何度でも呼びながら。
end.
コメント
1件
読みました……。いや、これは刺さりました。長く生きる者と、限りある命の者。絶対に避けられない別れを見据えた会話が切なくて。特に「思い出して。でも、前に進んで」の台詞がずしんときました。死生観の話って重くなりがちだけど、朝の光とか珈琲の香りとか日常の描写があるから、暗くなりすぎないのも好みです。「今日は雨が降るよ」で始まって同じ台詞で終わる構成も綺麗でした。ページの隅で影が笑っている描写の続きも気になる……続き待ってます!