テラーノベル
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寒さはますます強くなり、冬も半ばになった。
あれから数週間経つが、機会がなくてエーファはクラウスと話していない。
そのクラウスの誕生日記念の夜会が今日あるので、エーファたち国仕魔法使いには護衛の任務が課せられていた。
夕方、ドレスコードに従ってエーファはビアンカの手によってめかしこまれる。
「……はい。できたわよ。これでどう?」
ビアンカは化粧道具を置き、エーファを鏡の前まで連れて行った。
エーファは自分の姿に驚く。
「わぁ……」
後ろでまとめられた淡い褐色の髪、薄く化粧を施した顔、フリルやリボンがあしらわれた若葉色のドレスに、白いヒール。
エーファはいつもかわいらしく美しいが、それがさらに際立っている仕上がりだった。
エーファは満面の笑みを浮かべ、ビアンカに礼を言った。
「ありがとうございます!とっても素敵です!」
エーファの喜ぶ様子に、ビアンカは苦笑いを浮かべる。
「はいはい、どういたしまして」
ビアンカは内心喜んでもらえたことが嬉しかった。
ビアンカも今日は着飾っている。
後ろでまとめた夜空色の髪、化粧の乗った美貌、菫色のドレス、黒いヒール。
美しい容姿がさらに美しくなっていた。
と、ビアンカはエーファの首元でトパーズが輝いていることに気づく。
「あんた、そんないいネックレス持ってたのね」
エーファはそう言われて初めてトパーズを首に下げたままだと気づいた。
いつも服の下に着けていて他の人からは見えないのだ。
「あー……、そうですね。いただいたんです」
ビアンカは驚く。
「誰から?」
エーファは困ってしまった。
さすがに具体的には言えないので。
「えっと……、男性から……?」
ビアンカはまたもや驚いた。
そして怪訝そうな顔を浮かべる。
エーファは首を傾げた。
「どうしましたか?」
「……エーファはその男性とは恋仲なの?」
いや、自分の片思いだから……。
エーファは首を横に振る。
ビアンカはさらに美しい眉をひそめた。
「……意図的にネックレスを選んだのなら、かなり大胆な方ね」
「……はい?」
エーファはビアンカの言っている意味がわからなかった。
エーファがますます首を傾げていると、扉がノックされた。
「ふたりとも、準備できた?」
ディートヘルムだ。
ビアンカは扉に向かって言う。
「ええ、入っていいわよ」
ビアンカがそう言うと、ディートヘルムは扉を開けた。
ディートヘルムも今日はシャツにベスト、ジャケットとフォーマルな格好だ。
彼は目を瞬かせる。
「ふたりともきれいだな」
ビアンカは頬を赤らめる。
エーファは微笑んだ。
「……どうも。あんたも素敵よ」
「ありがとうございます」
ディートヘルムは穏やかに笑む。
「ありがとう、ビアンカ。じゃあ行こうか」
と、エーファはトパーズを首に下げたままであることを思い出した。
どうしよう。置いていこうか。
エーファは自分の姿を鏡越しにちらりと見る。
……いや、今日の格好と合っているし、せっかくだから着けていこう。
そうして国仕魔法使い三人は会場に向かった。
数分歩き会場に着くと、三人はそれぞれ持ち場に着く。
少しして、夜会は始まった。
会場には国中の貴族たちが集まった。
エーファは持ち場である会場の端から中の様子を眺める。
話す声、挨拶し合う声、笑う声。
昼間の町のようににぎやかだ。
そんな中、エーファはクラウスの姿を見つけた。
彼は立場上いつもフォーマルな格好をしているが、今日は一番格式高い格好だ。
あれが王太子の正装なのだろう。
エーファの目には、この会場にいる誰よりも素敵に見えた。
そんな彼は今は貴族たちと挨拶を交わしている。
今日はシーモア嬢はいないらしい。
……ああ、思い出したらまた悲しくなってきた。
エーファは心が空っぽになってしまったように感じた。
彼女は美しくて地位も申し分ないから王太子の相手としてはぴったりだ。
彼がシーモア嬢と結ばれ、幸せになるよう願わなければならないのに……。
……私は本当に性格が悪い。
エーファは目が潤みそうになるのをぐっとこらえた。
二時間後。
祝宴もそろそろ終わる時間だ。
何もなくて良かった、とエーファが安堵していると一人の青年が歩み寄ってきた。
フリードリヒだ。
あの後も定期的にオズボーン公爵の様子を見に行っているが、公爵邸以外でこうして会うのは初めてだ。
エーファは顔に笑みを貼りつけ、一礼した。
「公子様におかれましては、ご機嫌麗しく」
「こんばんは、エーファ」
フリードリヒは穏やかに笑む。
と、彼はエーファの手を取り、彼女の手の甲に口づけた。
「いつもきれいだけど、今日はさらに美しいね」
こんな顔の整った青年にこんなことを言われて手の甲にキスまでされたら、多くの女性は心臓を撃ち抜かれるだろう。
エーファは笑みを深めた。
「ありがとうございます、公子様もいつもよりさらに素敵です」
フリードリヒは温かく笑む。
「ありがとう」
「ふたりとも何を話しているんだ」
エーファにとっては聞き慣れた低い美声。
エーファはびっくりした。
先程まで会場の真ん中の方で貴族たちと話していたはずのクラウスが割り込んできたのだ。
微笑を浮かべているのになんだか怖い。
エーファもフリードリヒもさっと一礼した。
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