テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
砂原 紗藍
#再会
部屋に入るように促すと、美里は私を睨みつけた。
「一矢くんが帰ってきたら、私が言ってやる」
「何を言うの」
「おかしい。愛がないのに結婚を強要するなんて犯罪よって」
鼻息荒い美里を初めて見た気がする。
ここまで心配してもらえたら嬉しいけど、やはり黙っていて正解だった。
私以上に怒ってくれる美里が優しくて好きだ。
「強要してきたのは一矢君って言うより財政難で困窮していた母だよ」
「華怜はそれでいいの? 絶対に後悔するよ。誰かに言われて決めたら、絶対に後悔するよ」
「確かに、ちょっと前までは美里と全く同じ気持ちだったんだよ。でもなんでだろう」
コトコトと音を立てだしたヤカンを眺めながら、自分でもこんな風に落ち着いている自分がよく分からない。
「一矢くんが隣にいることは別に怖いことじゃないなって最近思うようになってる」
今の状況も悪くないと思っている。
それにキスをしかけたのも自分からだ。
「きっかけは美里の何気ない言葉だったかもしれない。でも美里は私の親友でしょ? 何も気にすることないよ。それよりも皆に私とまだ友達だったことを隠してくれててありがとうね」
紅茶をいれたら物足りなくなった。クッキーぐらいないかとキッチンを漁ると、おせんべいがでてきて微妙な気持ちになる。
「華怜は優しいし。見た目はお洒落で派手目かもしれないけど、でも中身は違うじゃない。男性がどんなふうかもわかってない。平気だ、優しい、でほだされて騙されちゃうかもしれない」
「あはは。その時は美里が判断して。一矢くんは、美里からしてみれば駄目な人だった?」
難しいなあと笑うけど、美里は笑わなかった。
試しに紅茶と海苔が巻いたおせんべいを出してみたけど反応すらない。
「分からない。でも華怜にはもっと大事にされて慎重にお付き合いして、結婚してほしかったから、一矢くんに幻滅しちゃった」
ポタポタと涙を流す美里は、聖人君子のように清らかで綺麗。
私は、美里と親友になれて誇りに思った。
「ありがとう。美里は幸せだから、心にこびりついていた後悔が苦しいんだよね。自分だけ幸せになるのに後ろめたさがあるんだと思う」
「それだけじゃない。……それもあるのは否定しないけど、やっぱ華怜は私の自慢の友達だもん。私みたいな地味で真面目だけが取り柄の人間にも優しくしてくれたでしょ。華怜は世界で一番幸せじゃなきゃいやなの」
美里は真面目だ。しかも中学、高校と学級委員長、生徒会長を務めた責任感の強い芯のある性格。
私が何を言ってもきっと聞かないと思う。
「よし。一矢くんが帰宅したら、言いたいこといいまくろう。好きに言おう言おう」
観念するしかないので、冷蔵庫から酎ハイを何缶か取り出す。
「旦那には連絡しといたら? 泊ってもいいよ」
「泊まる! 洋服貸して。あと武器にフライパンも」
「一矢くん、顔はいいんだからフライパンで攻撃はやめてあげて」
一缶、二缶、……四缶目で美里は頬を真っ赤にしてソファに倒れ込んだ。
眼鏡を放り投げたので、テーブルの上に置く。
ここまで彼女が酔うのは初めてだ。
「子供のときって、学校が小さな社会じゃない」
「うん」
「だから社会を荒らす問題児とか嫌いだし、会社から浮くのも嫌だったの。でも華怜は――」
ソファの上のクッションに顔を埋めた後、こちらを見た。
「華怜はルールの中で精いっぱいお洒落で、可愛かった」
「褒めても、酎ハイしかないよー」
「ううん。本当。可愛かったから、きっと小さな社会の中で、馬鹿な奴らに嫉妬されたんだよ。で、目立ったんだよ。ルールは守ってたのに」
「ふふ。昔すぎて忘れちゃった」
「……目立ちすぎても嫉妬されるなんて、嫌だ。こんなに、華怜は性格も」
すとん。
そんな音が聞えてきそうなほど、いきなり美里は眠りについた。
吐き出したかったこと、全部吐いてくれたならいいんだけど。
美里は優しすぎて、責任感が強すぎて、自分を責めすぎて心配だ。
確かに学生時代は学校の中の人間関係が重要だったし、社会人になって無理に嫌いな人たちと関わらなくて済むのは楽になったのかもしれないけど。
「ただいま~」
「一矢くん」
「靴あったから、やっぱ美里さんか」
カバンをテーブルの上に置いた後、ソファで眠っている美里に少し驚いていた。
「寝てるの? 帰らなきゃいけないなら送っていくけど」
「一矢くんに物申したくて待ってたんだよ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!