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凍てつくような寒さがメカニアを襲ったその日、街の外れにある夜の屋敷では先代夜の葬式が行われていた。
その葬式に出席したのは、先代夜の息子、レイラとその乳母だった。
冬よりも冷たい先代は、息子のレイラに愛情を向けたことは一度もなかった。
そのせいだろうか、レイラは葬式で一滴の涙も流さなかった。
彼はただ、死んだような瞳で、蝋人形のようになった父を見つめて立ち尽くしていた。
レイラだけでは無い、この街に住む誰もが先代の死を悲しまなかった。
レイラにはわかっていた、自分も同じように死ぬのだと。いくら父のことが憎くても、自分が“夜”である限り、父と同じ運命を辿る他ないのだと、齢18でありながら自身の生涯を悟り、全てを諦めていた。
人生で一度でいい、父の愛情を感じてみたかった。
心の中でそう呟いて、葬式会場を後にした。
翌日からレイラは夜としての職務を務めることになる。
職務とは言っても、夕方の鐘が鳴った後、無事夜がやってくるのを見届けるだけの簡単な仕事だった。
昼とは違い、無駄な装飾もないので無事に夜がやってくればそれで彼の仕事は終わりだ。
なので彼は、一日中部屋に籠り、余るほどある蔵書を読み漁っていた。
***
父の葬式から数週間が経ったこの日。
たった今読み終えた本を閉じて、小さくため息を着く。
この本も、もう何度読んだだろう。
父が死んだからと言って、俺の生活が変わることは無かった。
時刻は昼過ぎ、夕方の鐘がなるまでには時間があるし、読みたい本もない。
さて、これからどうしたものか。
しばらく考えて、適当な本を掴んで表紙を開いた、その時。
__コンコンコン
ノックの音が3回、部屋に響き渡る。
「レイラ様、乳母のアルビーでございます。」
「入れ」
乳母の言葉に短く答える。
「失礼します」という声の後、慣れ親しんだ顔が部屋へ入ってきた。
「レイラ様、もう二日もこの部屋を出ていませんが、体調の方は…。」
「問題ない。」
「そう、ですか。 昼食をご用意しますか?」
「食べたくない。」
「承知いたしました。 では、なにかあれば申し付けください。」
小さく一礼をして、乳母が部屋から立ち去る。
その様子を、ただ見つめていた。
乳母の姿が部屋から無くなると、俺は再び本に目を通した。
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