テラーをやってる人たちにギルモモが需要ないのは分かっていますが、これを読んだ方が少しでもギルモモに興味を持って欲しいので、pixivにあげたやつをここにあげます。
ギルメン全員転移しちゃったパロ、シモベ達は出てきません。
「モモンガさん、見てください!」
バンっと大きい音を立てて、ドアが開く。
机に並べられた円形のアイテムが、コロコロと転がって床に落ちる。
こんな大きい声でこんな大きい態度とるのは、このギルド内であの人しかいない。
「はぁ…ペロロンチーノさん、せめてノックはしましょうよ?」
床に転がったアイテムを拾いながら立ち上がり、開かれたドアの中心にいる友人に目を向ける。そこにはバード、ではなく…
—ウルベルト・アレイン・オードルがいた。
「え、あれ?」
態度面に置いてもそうだが、声がペロロンチーノだったため、ペロロンチーノかと信じて疑わなかった。自分の聞き間違いだったのだろうか?
「ふふ、モモンガさん。私でした」
笑顔でひらひらと手を振る。ウルベルトから発せられる声は、ペロロンチーノそのもの。 幻影の魔法だろうか?なぜこんなことを… 疑問で頭がいっぱいになる。
「えっと…ウルベルトさん?」
「はい、ウルベルトです」
「なんでペロロンチーノさんの声なんですか?」
待ってましたと言わんばかりにウルベルトは笑顔になり、コツコツと優雅な足取りで近寄ってくる。
嗚呼、こんなにかっこいいのはウルベルトさんだなと、再認識する。
「エイプリルフールの時に運営から配られた、ちょっとしたトリックアイテムですよ。」
嗚呼、なるほど。
ユグドラシル時代に運営から無償で配られるアイテムは多かった。エイプリルフール、クリスマス、バレンタイン…様々なイベント毎にアイテムが配られ、プレイヤーはみんなそれで遊んでいた。それは自分たちも例外ではない。
ただ、クリスマスに一定時間ユグドラシルにいると絶対に手に入ってしまう、最早呪いのようなあの仮面は…喜んでいる者はいなかった。
「よく残ってましたね、そんなアイテム」
「宝物殿にありました」
「ん”ん”…!」
宝物殿にあったいうことは、必然的にパンドラズ・アクターの会話をするわけだ。あの、自分の黒歴史を見たということ…モモンガは途端に羞恥で染め上がった。
「ふふ、確かにちょっとうざかったですけど…でも、パンドラズ・アクターの軍服はかっこいいですよ」
いつのまにか自分の正面に立ったウルベルトは自分の手を握って首元まで持ち上げて、微笑んだ。
「ごめんなさい、モモンガさんの驚く顔が見たかったんです。」
かっ…こいぃぃー‼︎
声はペロロンチーノなのに、仕草や行動が凛としているかっこいいウルベルトさんそのもので、自分がウルベルトさんのビジュが大好きなのも相まって叫び出しそうな感情を必死に抑える。
ペロロンチーノさん、貴方頑張ればウルベルトさんみたいになれますよ。
感情が先走って声を出そうとすれば何が出るかわからないため、沈黙が続いている中、ドカドカと大きな音を立ててこちらに向かってくる足音が聞こえる。
「ウルベルト・アレイン・オードルゥゥ…!」
部屋に無造作に入ってきたのは、ワールド・チャンピオンしか手に入れることのできないユグドラシルでも伝説級の武器…愛用の片手剣を手に持って怒りのオーラをふつふつと湧き上がらせている、たっち・みーだ。
「たっちさん?!」
「おやおや、たっち・みーさん。どうかなさったんですか?」
ウルベルトはモモンガの手を握ったまま、勝ち誇った顔でたっち・みーを見据える。
ウルベルトの声は、アイテムの効果が切れたのかいつも通りの声に戻っていた。
「用事があるから宝物殿に行ってくると言ったから行かせたのに、モモンガさんの部屋になんちゃって侵入してる山羊の最期の言い訳を聞いてあげましょうか」
たっち・みーはズカズカと部屋に入り、モモンガとウルベルトに近づき、「いつまで手を握ってるんですか?」と言いながら物理的に2人を離れさせた。
「おやまぁ、たっちさん怖いですねぇ…カルシウムが足りてないんじゃないですか?」
「貴方だって欲求不満を、言い訳をしてまでわざわざ本人にぶつけに来るなんて、まぁ悪魔らしいですね?」
「悪魔ですから」
「デミアルゴスだって心配してたんですよ?ウルベルトさんが宝物殿から出てこないって。転移魔法を使ったんですか?卑劣な手口は使うのに、正面から行く勇気はないんですね」
「は?なんだお前。pkするか?」
「ええ良いでしょうやってあげましょうか?でもどうせ負ける試合ですよね?」
「調子乗りやがってただの戦士職が。魔法職の戦略の多さ舐めんなよ」
「モモンガさんのように大量の魔法知識があり、対応力と分析力に優れているならいざ知らず、貴方は数個の魔法に自信があるだけですよね?だから連敗記録更新中なんですよ。」
「よし、お前は絶対殺す」
「できたらですけどね?」
目の前で繰り広げられる終わりの見えない喧嘩に止める術が見つからず困惑していると、背後からポンと肩を叩かれる。
振り返ると、デミウルゴスとセバスを連れたタブラがいた。
「た、タブラさん…!ちょうど良かった、2人がpvpし始めそうで大変なんです!」
「ええ、先程から見ていたので状況は理解してます。アタフタしてるモモンガさん(ギャップで)可愛かったですよ」
「見てる余裕があるなら助けてください!」
「ふふ、すみません。でも、2人を鎮めれる2人を連れてきたので、ここはこの2人に任せて逃げましょうか…デミウルゴス、セバス、ウルベルトさんとたっち・みーさんを頼んだよ」
「お任せください」
「尽力致します」
タブラさんに手を引かれるままに、喧嘩をしている2人を置いて自室を飛び出した。
転移魔法を使えばいいもののわざわざ走って到着したのは、タブラさんの部屋。
ギルドメンバーの自室は大体横並びになっているため普通は距離はあまり無いのだが、タブラの脳喰いは特殊な種族のため、仲間たちの自室とかなり離れた場所に自身の部屋を設計していた。
「スケルトンだけど、なんか疲れた気がします…」
「ちょっと走りすぎちゃいましたね」
タブラは自室の横長のソファに座り、隣に座るようにモモンガを促す。
特に断る理由もないので、モモンガは大人しくタブラの隣に着座した。
「それにしてもあの2人、なんであんなに喧嘩してたんでしょうかね…」
「あの2人が仲悪いのはいつものことじゃないですか。カルマ値+三桁とカルマ値-三桁ですよ?それに元々馬が合わないですしねぇ」
「仲良くしてほしいんですけどね」
「難しいですねえ…モモンガさんのこともありますし」
「え、俺のせい…?」
「あ、いえ。そんなことは全くありません。ただ少し、ね」
「そうですか…それで、なんでタブラさんはあの2人が喧嘩してるってわかったんですか?」
「偶然、近くを通りましてね。戦士職最強と魔法職最強が殺気立って喧嘩してれば、気づかない方が無理ありますよ。」
「それはそうですね…」
「それでですね、モモンガさん。自室にきてもらったのはモモンガさんに頼みがあるんです」
自分の先生のようなタブラが自分に頼み事など、嬉しいに決まってる。
「タブラさんが俺にですか?なんでも言ってください。俺にできることはなんでもします」
タブラに表情筋はないが、すっと目が細められたのが微笑んだとわかるのは、ずっと共にいる仲間だからだろう。
「ふふ、ありがとうございます。」
タブラは目の前の机に散らばった紙を集め束にして手に取り、モモンガに差し出す。
「ぷにっと萌えさんと考えた、ナザリック地下大墳墓の対侵入者ギミックです。モモンガさんから見て、なにか意見があれば教えていただきたいんです。」
モモンガは差し出された紙束を受け取り、「タブラさんとぷにっとさんが考えた戦略にケチつけれるほど賢くないですよ…」とぼやきながらも一枚ずつ丁寧に目を通している。
モモンガに策略について意見をもらいたいというのは本音だし、モモンガの思考判断能力を高く評価しての行動であるのは間違いない。
でも、それはただの建前でしかない。
タブラは、この時間が好きだった。
モモンガと二人きりで同じことについて話し合うこの時間が一番のお気に入りで、前後がどうであれこの状況を確保するなら手段は選ばないのがタブラ・スマラグディナであった。
こうして2人きりでいると、自身の持ちうる知識を、モモンガに垂れ流しにしてしまう。
自身の情報を他人に垂れ流すなどメリットはないとわかっているのだが、水を吸い込むスポンジのように知識を蓄えていくモモンガに、どうして楽しまないでいられるだろうか。
数十分の沈黙を破ったのはモモンガ。
「タブラさん!」
「はい」
「この2階層への直通の罠なんですけど、飛行の魔法を使われた場合、確実に落とすことができないと思うんです。侵入者が微量な実力者だった場合、確実に恐怖公送りにすることができません。それで、少し工夫を加えてみたらどうでしょうか?例えば…」
モモンガは楽しげに声を弾ませながら語る。
自己評価が低く引っ込み思案なモモンガだが、知識意欲が非常に高く、自分の好きなことに関しては饒舌になることが多々ある。例えば、今のような状況。
モモンガの視点は非常に面白く、「確かに」と納得ができる。
私とぷにっと萌えさんでも予測しなかったことを思いつくから、この人は面白い。
「それで、こうやって……タブラさん?」
モモンガは言葉を止めて、キョトンと首を傾げる。死の支配者として似合わないはずなのに、モモンガであるというだけで愛しさが生まれるのは仕方のないことなのだろう。
「…すみません。モモンガさんの話をどうやって取り入れるか考えていました。もう一度話してくれませんか?」
モモンガの手に自身の手…触手を這わせようと手…ではなく、触手を動かしたその時。
猛スピードでこの部屋に向かってくる、二つの脅威の殺気を肌で確認した。
ドタバタという足音もないし、声も聞こえない。ただ、ものすごい殺気が二つ…それだけでもう誰が迫ってきているか確証するのは十分だった。
「どういうことですかぁ!!」
二つのうち圧倒的にスピードが速かった一つが、ノックもしずにドアを勢いのまま大きな音を開けて開いた。
ドアを開いたのは予想通り、戦士職最強…先程までウルベルトとpvpが始まりそうなほど喧嘩をしていたたっち・みーだ。
「ノックぐらいしたらどうですか?」
「それよりも説明をして貰いましょうかね」
たっち・みーは虚空に手を伸ばし、気づいたらその手にはシンプルかつ煌びやかな剣が握られていた。
隣でモモンガが「わぁ…!」と感動的な声をあげているが、殺気を向けられた側としては冷静を保つのが精一杯だ。ワールド・チャンピオンに向けられた殺気など、自身の死を確定申告されたようなものだ。
お怒りたっちさんモードのたっち・みーの後ろから、飛行で飛んでくる山羊が見える。この甘美な時間も休憩か…タブラはモモンガにバレないようにため息を漏らした。
「このタコぉ…!!」
タブラの部屋の前に到着したウルベルトは飛行を解き、殺気を放ちながらも優雅に着地した。
またもやモモンガから感動したと言わんばかりの喘ぎが聞こえる。
二人が揃ってからほぼ同時に、怒涛の文句が投げかけられた。
「デミウルゴスに声をかけられて気づいたらモモンガさんがいなかったんですけど、タブラさん確信犯ですよね?いや…このタコ。」
「その通りです。…不甲斐ないですがセバスに止められて気づいたらモモンガさんがいなくなってて、loyを確認してもモモンガさんが確認できなかったので、この周辺探し回ったんです。」
loy…それは、モモンガ以外のギルドメンバー共通のGPSの言い換えの名である。
モモンガに抜け駆けをしない協定を(一応)結んだギルドメンバーは、「では、いつみても誰がどこにいるかわかるようにGPSをギルドメンバー全員につけましょうか。」というぷにっと萌えの提案から満場一致で41人全員にGPSをつけていた。
その事は40人全員が知っているが、モモンガだけは知らない。知らされていないのだ。モモンガは何かと気を使うところがあるため、モモンガに負担をかけるわけにはいかないということでこれもまた満場一致。
モモンガにGPSのことを知られないように、Global Positioning Systemの2文字目をとった名前が、loyということだった。
ただ、タブラやその他数人の特殊な種族はまぁ人に言えないことをしたりが多かったため、自室周辺(半径500m)のみはloyの反応を遮断しており、特殊な作りだったわけだ。
「このタコが…抜け駆けはなしって話じゃなかったのかおいゴラ」
「そうですよ。この協定は貴方とぷにっと萌えさんからの提案でしたよね?提案者がそれを破るってどういうことですか?」
「裏切り者には俺の《大災厄》をお見舞いしてやるよ。タコ焼きにしてやる。」
「ウルベルトさん、それじゃ被害が大きすぎます…私の《次元断切》でこの部屋丸ごと切って最小限に抑えましょうか。」
黙ったままのタブラを気にもとめず、タブラに制裁を下そうと、とんでも発言をする たっち・みーとウルベルトをモモンガが止める。
「ち、ちょっと待ってください2人とも!…タブラさんには、ちゃんとした用事があって呼ばれたんです。遊んでたわけじゃないですよ」
モモンガが仲裁に入ったことで、たっち・みーとウルベルトは、さっきまでの殺気はどこにいったの?と言わんばかりに殺気を分散させた。
「でも、モモンガさん…」
「モモンガさん、ちゃんとした用事ってなんですか?」
ウルベルトが問いかけると、モモンガは立ち上がり、手に持っていた書類を2人に見せる。
「これです!タブラさんと、ギミックについてお話ししていたんです。」
「ギミック…嗚呼、ぷにっと萌えさんとタブラさんが五日間丸々使って策略してた、対侵入者用ギミックのやつでしたっけ。でも、タブラさん終わったとか言ってませんでしたか?」
ウルベルトがタブラを睨むと、ずっと沈黙を貫いていたタブラはどこか楽しげに微笑んでいて、言葉を続けた。
「ナザリックに関することですよ?我々のギルド長でありナザリックの絶対的支配者であるモモンガさんに意見を求めるのは、当然のことだと思うんですけどねぇ」
タブラに表情筋はないはずなのに、ニヤニヤと勝ち誇った顔をしているのは、たっち・みーとウルベルトにはありありとわかった。
((こいつ…!))
たっち・みーとウルベルトは犬猿の仲だが、思うところが一緒になることがある。例えば、今のような状況。
二人とも、タブラのずる賢さに唇を噛んでいた。
(元々言い訳を用意してやがったな。まるで子供じゃねえか…)
(もしかして、対侵入者用ギミックを考えていたのも、モモンガさんとの状況を作るため…いや、このような状況を見越して打破するための言い分に過ぎなかった…?)
今回沈黙を破ったのは、タブラだった。
「さて、私はまだモモンガさんと打ち合わせがあるので、邪魔者は出ていって貰いましょうか。大人数いては、騒がしいので。」
タブラは立ち上がり、何か言を発するべきだろうかと迷っているモモンガに、「さて、モモンガさん。そのギミックの他にも、モモンガさんの助けを借りたい案件があるんです。」と言い、モモンガを座らせた。
「それで、もう一度先程の話を聞かせてもらえますか?」
「は、はい。でも、頭からちょっと飛んじゃって…」
「でしたら、いらない紙にでも書き写してみますか?メモをとれば、忘れたことも思い出しますよ」
タブラの自論である。
「わぁ、それはいいですね!タブラさんも普段からそうしているんですか?」
「はい、大きなことを決めるときには、そうしています。メモをしないと、大切な意見も逃してしまいますから。」
「なるほど…さすがタブラさんですね。参考にしてもいいですか?」
「もちろん。モモンガさんのお役に立てたなら、私の無駄な脳も役に立ったというものですよ。」
「もう、そんなに卑下しないでください。タブラさんにはたくさん救われてるんですよ。いつもありがとうございます」
「…モモンガさんに褒められるのが一番嬉しいですよ、私こそありがとうございます。」
楽しそうに2人だけの世界に行ってしまった2人の間に入る隙も(モモンガさんに嫌われるかもしれない)勇気もなく、たっち・みーとウルベルトは顔を見合わせてから、トボトボとタブラの部屋から退出した。
二人がドアから出た瞬間、ドアは早く出ていけと言わんばかりに思い切り閉まった。
ドアの外にポツンと立つ、魔法詠唱者系最強の職業をもつワールド・ディザスターのウルベルトと、戦士系最強職をもつワールド・チャンピオンのたっち・みーは、ドアの中から聞こえてくる楽しげな声に、自分の無力さを痛感させられた。
実力的な強さよりも頭脳が勝ちます。(持論)