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「風が気持ちいいね」「はい。ですが当たりすぎると冷えてしまいます。そろそろ中に入りませんか?」
「えー…、もう少しここにいたい」
「わかりました。あと少しだけですよ」
「うん」
不満げに頬を|膨《ふく》らませたと思ったら、すぐに笑顔になる、そのコロコロと表情が変わる様子を、俺は微笑ましく見つめる。
約三十日ここにいる間に、焼け付くような暑い日差しが弱まり、時おり冷たい風が吹くようになった。
本来なら、フィル様に薬を渡した時点で離れるつもりだった。しかし右手の火傷の治りが思ったより遅く、結局フィル様が元気になられるまで傍にいてしまった。フィル様は喜んでくれたが、長く傍にいればいるだけ、離れがたくなるというのに。それに四六時中、フィル様の傍にいれるわけではない。第二王子が用事でフィル様の傍を離れる時だけ、護衛も兼ねてフィル様の傍にいることができた。
少し乱れてしまったフィル様の銀髪に指を入れて|梳《す》く。
髪を梳いていた俺の右手をフィル様が掴み、心配そうに眉尻を下げて見上げてくる。
「ここ…治ってきた?まだ痛い?」
「もう大丈夫ですよ」
「でもひどい火傷だったよ。我慢してない?」
何度も聞いてくるフィル様に、俺の心が震える。嬉しくて。心配してくれることが嬉しくて。フィル様に心配してもらえるなら、毎日怪我をしてもいい。そんなふうに思ってしまうほど、俺にとってフィル様は尊いのだ。
俺は右手の包帯を、ゆっくりと解いて手のひらをフィル様に見せる。
「ほら、綺麗に治ってきているでしょう?」
「そうかなぁ」
フィル様の白く細い指が、まだ赤く残っている箇所に触れる。
「ここ、まだ赤いよ。痛い?」
「全く痛くありません」
「ほんと?ラズールは僕を心配させまいと嘘をつくから…」
「嘘は…申しわけありません。しかし今は、本当に痛くありませんよ。フィル様こそ、大丈夫ですか?目眩や頭痛など我慢されていませんか?皆を安心させようとしてませんか?」
俺の右手を両手で包み、フィル様は目を細めた。
「大丈夫!ラズールが手に入れてくれた薬で、本当に元気になったんだ。ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
フィル様に握られた手から、暖かなものが全身へと流れてくる。これは愛しいという気持ちと幸せだという気持ちだ。
俺は愛しく思う気持ちを隠さずにフィル様を見つめる。
フィル様は再び塀に手を乗せて遠くを眺め始めた。そして何かを見つけて、嬉しそうに大きく手を振った。