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あの日以降、私は律の元へ行かなくなった。
というのも、律が暫く実家に戻ったのが一番の理由だ。
でも、それはタイミングが良かった。
そして、タイミングが良過ぎた事で、私の決断が間違って無かったことを肯定している気がした。
「珍しいね、琴里がうちらとカラオケ来るの」
「本当本当! 最近ずっと彼氏優先だったじゃん?」
「あー、まあ、色々とねぇ」
私は淋しさを紛らわせる為に、友達と遊び歩くようになった。
律は毎日連絡をくれるけど、私が遊び歩いていて電話に出れない事が多いせいか、このところあまり話をしていない。
でもいいの。このまま律と距離をとっていかないと、離れるなんて無理になるから。
「なあ琴里」
「何?」
「……お前、彼氏と上手くいってないのか?」
「えー? そんな事ないよ? っていうか、干渉するの止めてって言ったでしょ?」
「ごめん。けど、これは干渉してんじゃなくて心配してんだよ。何だか最近お前、無理してる気がするから……」
「そ、そんな事ないって! もう、変な事言わないでよね」
新田はあれ以降しつこくして来たりしないどころか、今なんて心配してるとか言い出して、調子が狂ってしまう。
しかも、新田のくせに、私の心の変化に気付いてるとか……本当、調子狂う。
金曜の夜、制服から私服に着替えた私は仲間たちと夜の街に繰り出し、親からの電話も無視して遊び歩いていると、
「あれ? 君……確か律の……?」
どこか見覚えのある男の人が声を掛けてきたと思ったら、その人は律のお兄さんで、隣には鈴さんじゃない女の人が居た。
「蓮、誰、この子」
「ああ、弟の彼女」
「へえ?」
「なぁ亜美香、悪いけど、俺この子と話あるから約束またにしてくれない?」
「えー」
「その分埋め合わせするからさぁ」
「もう、しょうがないなぁ。そんなお子ちゃま相手に浮気、しないでよ?」
「分かってるって」
律のお兄さんは彼女らしき人に話をすると、
「ねぇ、これから俺と付き合ってくれない? 話があるんだ。ね?」
今度は私に向かって話があるから付き合って欲しいと言ってくる。
「何だよ、コイツ。琴里、行こうぜ」
新田たちが私に声を掛けてくれるけど、
「ごめん、この人は知り合いなの。私も話があるから、今日はここで帰るね」
私は律のお兄さんの誘いを受けて、新田たちに断りをいれると、そのまま彼と共に繁華街を歩いて行く。
彼は車で来ていると言うので、あまり密室に二人きりにはなりたくなかったけど、『何もしないから警戒しないで』と彼は言うし、一応律のお兄さんだし、ここは信じようと思って車に乗った。
「……それで、話って何でしょうか?」
「君、高校生だよね? こんな遅くまで遊び歩いてたらいけないじゃん。律は知ってるの?」
「……お言葉ですが、お兄さんは鈴さんという奥様がいらっしゃるのに、他の女の人とデートなさるのはいけない事では?」
「はは、君、結構言うね」
「……お説教でしたら、聞きたくないんですけど」
「そうだね。いけない事をしてるのはお互い様だから、この話は止めよう。君、知ってる? 最近律と鈴、もの凄く仲が良いんだよ? 二人が昔付き合ってたのは知ってるのかな?」
「ええ、聞きました」
「それなのに、律が実家に……元カノが居る家に戻るの許しちゃったの? 」
「それはあくまで一時的なものですし、そもそも律が実家に行ったのは、貴方と鈴さんの問題があるからですよ? それなのに貴方はどうして家に帰らないんですか?」
「うーん、まあ、子供の君には分からないかもしれないけど、色々あるんだよねぇ……事情がさ」
相変わらずお兄さんは何だかよく掴めない人で、何を考えているのかも分からないのだけど、色々あると言った時、一瞬だけど寂しそうな表情をしているのが気になった。
そんな時、私のスマホから着信音が鳴り響く。