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大庭歌葉。おおばかよう。大馬鹿よう。
そう捉えられる本名によって小学四年生の頃の歌葉は、御霊西鶴を中心としたクラスメイトから「大馬鹿」と呼ばれていた。
当時のゆらはクラスメイトと必要最低限の会話しかしていないため、西鶴とも歌葉とも関わることはないはずだった。
彼女達が同じクラスになってから一ヶ月経過した頃、昼休みに歌葉が教室にいないとき。
西鶴達の女子グループは、今日も一緒にかたまって駄弁っていた。
「大馬鹿の筆箱ダサくね?」
「取っちゃおうよ〜」
一人の女子が机の上に置かれている歌葉の筆箱を、汚物を触るような手つきで取る。
「どこに置いとく?」
「わたしが貰っとくわー。」
その女子から筆箱を受け取った歌葉は、躊躇せず中身を見る。
「大馬鹿シャーペン持ってきてるし〜」
「後で先生にチクろうよ。」
「でもチクったら、うちらが大馬鹿の筆箱覗いたことが先生にバレるんだよな〜。」
ゆらはその様子をただ傍観することしかできなかった。
「あ、大馬鹿来たよ。」
「隠せ、隠せ。」
西鶴は急いで歌葉の筆箱を、自身の机の中に突っ込んだ。
歌葉が教室に戻ってきて、筆箱がないことに気づく。
自分の机の中や、ランドセルを開けて探しても見つからない。
「大馬鹿必死すぎだろ。」
「ここにはないよ〜?」
「同じとこ何回も見てるし。」
「大馬鹿は名前の通り馬鹿だね〜。」
「ねー、私トイレ行きたい。」
「じゃあ、うちも行く。」
「皆で行こっか。」
西鶴達が連れションをしに教室から出たときに、ゆらはこっそり西鶴の机から歌葉の筆箱を取り出す。
「……筆箱、これ。」
「え、本当にありがと〜!」
それがきっかけで、二人は親睦を深めた。
外国語の分厚い本の翻訳に挑戦してみたり、一緒にチェスもした。
あるとき、悲劇名詞か喜劇名詞かの当てっこをした。
これは八十年程前の人が発明した遊戯で、どこかの国には男性名詞·女性名詞·中性名詞があるのなら、悲劇名詞と喜劇名詞の区別があって然るべきらしい。
「煙草は?」
「悲劇名詞。」
「じゃあ、薬。」
「粉薬? それとも丸薬?」
「注射の場合。」
「悲劇名詞。」
「そうかな? ホルモン注射もあるし。」
「いや、断然悲劇名詞さ。針が第一、立派な悲劇名詞だ。」
「薬や医者は、あれで案外喜劇名詞だよ。死は?」
「絶対喜劇名詞だね。」
「上出来。そして、生は悲劇名詞だな〜。」
「違うね。それも喜劇名詞。」
もう一つ、これに似た遊戯を二人は当時やっていた。
対義語の当てっこである。
「花の対義語は?」
「あ〜、花月という料理屋があったから月かな。」
「いや、それは対義語になっていない。むしろ類義語。星と菫だって、類義語だし。」
「それなら蜂だ。」
「蜂?」
「牡丹に、……蟻かな?」
「それは画題モチーフだね。」
「わかった! 花に叢雲、……」
「月に叢雲ね。」
「そうそう。花に風。風だ。花の対義語は、風」
「花の対義語は……およそこの世で最も花らしくないもの、それを挙げるべき。」
「……嗚呼、女かな。」
「ついでに、女の類義語は?」
「臓物。」
「詩ポエジーを知らないんだね。それじゃあ、臓物の対義語は?」
「牛乳?」
「次は難しいよ。罪の対義語。」
「法律だね。」
「罪ってのは、そんなものじゃない気がする。」
「それじゃあ、神でいいよ。」
「まあそんなに、軽く片づけないでよ。もう少し二人で考えてみようか。これは面白いテーマだし。」
「……罪の対義語は、善だね。善良なる市民。つまり、私みたいなものだよ〜。」
「でも、善は悪の対義語。罪の対義語ではないね。」
「悪と罪とは違うの?」
「違うと思う。善悪の概念は人間が作ったもの。人間が勝手に作った道徳の言葉だ。」
「それじゃ、やっぱり神かな〜。なんでも、神にしておけば間違いない。」
「罪というものに、全く興味がなさそうだね。」
「そりゃあそうだよ。罪人じゃないんだし。」
罪と罰。ドストエフスキー。
それがゆらの頭の片隅を通った。
(もしもあのドスト氏が、罪と罰を対義語として考えていたら?)
学年が一つ上がって、ゆらと歌葉は違うクラスになった。
ゆらは孤立していて、歌葉との関わりもめっきり減った。
そんな中、廊下で歌葉を見つけて、話しかけようとしたができなかった。
歌葉は他の人達とつるんでいたからだ。
あれから飄々とした性格になった歌葉は、広くも浅い人間関係を築いていた。
ゆらとも他の人と同じように明るく接していたが、それが逆にゆらの心に暗雲を生み出していた。
閑話休題、ゆらはエテルノラジオを持って東洲魅瀧の自宅に不法侵入する。
鍵が開いているから、家主はいるのだろう。
(東洲魅瀧が殺した証拠を発見できればいいけど……あくまで容疑だから下手なことはできないな。)
後ろから僅かに足音が聞こえると、エテルノラジオが急に消えた。
(犯人は透明化していて、エテルノラジオがそいつに盗られたか。)
「……!」
姿は見えないが、右の頬に殴られた感覚がする。
「スーサイド·ボミング!」
ゆらがそう唱えると、1m離れたところで爆発がした。
エテルノラジオに自爆するよう命令したのだ。
「ぅぐっ!」
爆発によって怪我を負った、青緑の16分音符2連符のような外見で二つの符頭に目がついてる妖精と、倒れた魅瀧が見える。
「クソッ、何故ここだと分かったんだよンプ……」
(妖精が人間に憑依して、二人殺害したって感じか……しかも透明になれるとはね。)
すぐ近くで修復されたエテルノラジオのスイッチをゆらは押し、視界をピンク色の空間にする。
「プリキュア!デイ·フェアヴァンドルング!」
肉体が作り変えられ、可愛らしい衣装に身を包む。
「凌駕する桜桃の大審問官!キュアジェネシス!」
妖精は再び透明化して、筒状の部分で攻撃をしようとする。
ジェネシスは妖精が見えなくても攻撃を予測して見切り、妖精がいるであろう位置にサマエルライフルを連射した。
妖精の透明化は解除されて、瀕死になったようだ。
(まだ生きてる……これだけ撃たれれば絶対死ぬと思ったんだけど。まあ、当分は目覚めないだろう。)
台所の包丁をメス代わりに使い、その場で音符の妖精を解剖してみる。
憑依と透明化をするための器官らしき存在を見つけた。
この器官をジェネシス自身の肉体に移植してみるが、透明化と憑依の力は使えない。
再び器官を取り出して、固体にまとめてエテルノラジオに装着する。
魅瀧への憑依はできなかったものの、透明化はできるようになった。
(エテルノラジオに器官を装着すれば、透明になれるのか。)
装着しやすい形状にするために、器官をチェスの駒のキングのような型のケースに覆っておいた。
透明になったジェネシスは、気絶した魅瀧と妖精を引き摺って運び外に出る。
交番の数mまで来て、これ以上先には行けないことを確認する。
魅瀧の透明化を解除して、妖精の符頭の一つをちぎって地面に置いた。
急に倒れた人間と変な物体が現れて、近くにいた人々は驚き騒々しくなった。
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