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「小野麗尾さん、少々お待ちください。失礼ですがお話が……」
そう言って逃がさん…お前だけは……と言わんばかりに腕を握る二人。
これは危険だ。
「大変申し訳ございません。私の性癖は極めて普通ですので、お二人のお気持ちに応える事は……」
「「その様なお話ではありません!!!」」
慌てて手を放す二人から距離を取って出口に向かおうとすると、そこには何故か板挟見さんが。
「申し訳ありません。私の上役からも言われておりまして。心苦しいのですが、何卒もう少々お時間を頂けますと……」
胃の辺りを押さえて、額に脂汗を浮かべ、中間管理職の悲哀めいたアトモスフィアを漂わせながら板挟見さんがお願いしてくる姿を見ると非常に居たたまれなくなってくる。
「分かりました。今日はこの後銃器の所有許可の申請もする予定ですので、窓口が閉まる前まででしたら……」
「ありがとうございます! 申し遅れましたが、私、日本国防衛陸軍所属の境 防人(さかい さきもり)准将と申します。
先日小野麗尾さんがこちらの板挟見大佐に相談された旧国土地のモンスター掃討に関して軍上層部が非常に関心を持ちまして。
つきましては防衛軍も協力していっその事、掃討のみならず日本帝国陸軍時代からの悲願である国土奪還までと言うお話が出ておりまして……」
ステエエエエエエエエイ!!!ステイ!ステイ!!!
一寸待って。IFLでの黄泉戦人の働きを見て今後通常のダンジョンでは過剰戦力になるだろうからもっとデカイ狩場を見繕いたかっただけなのに話がトンデモな方向に……!?
そしてイタバサミ=タイサ!?タイサナンデ!???現役の佐官が何でこんな所に……!?
まだ混乱が収まらない内に今度は鈴木さんが、
「あ、私は日小野麗尾さんの召喚モンスターに関してお話さえ伺えればそれで宜しいので。無論、お話しいただく情報の対価はご用意させていただきました」
黄泉大毘売命の情報だろうなぁ……
対価次第だけど、そろそろいいかなぁ。一個人で秘匿し続けるのも却って危険だろうし。
「対価次第ですが、構いませんよ」
「おお、ありがとう……「大変恐縮ですが、自分もお話を伺わせて頂いても宜しいでしょうか?戦力の評価を出来るだけ正確に見積もって置きたいので。対価に関しても防衛軍の予算からいくらか……そう、鈴木さんの対価の半分位は負担させていただきましょう」
ここで境准将が渾身の相乗り。防衛軍の予算=国家の安全保障≒俺の召喚モンスター情報って事……!?
仕方がない。覚悟を決めてある程度は話さなければ……それはそうと。
「了解しました。ただ、出来ましたら対価は防衛軍からのMP支給と言う形で頂けますと助かります」
MPは準戦略資源だし、冒険者でも購入制限あるからなぁ……
「承りました。ただ、作戦中のMPに関しましてはIFL時以上に事実上の無制限補給を予定しておりますので、ご安心頂ければ……」
何に安心しろと……?
作戦とやらはまだ計画段階ですよね……?
「では早速ですが私の召喚モンスターのデータを」
これ以上境さんの話を聞いていると夜寝れなくなりそうなので取り敢えず情報ブッパで終わらせる方向で。
召喚機と冒険者証を接続して、黄泉大毘売命のデータを開く。
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[ランク] S
[種族] 黄泉大毘売命
[名前] 平坂 志子(ひらさか しこ)、平坂 淡姫(ひらさか あき)
[種族特性] 《黄泉神》
[個体特性] 《不死》
[種族技能] 《神通力》《破魔含む全属性軽減》《黄泉戦人召喚》《黄泉帰り》
[個体技能] 《神話改演:黄泉平坂追神之事》《冥府魔道》《黄泉竈食作成》《黄泉大神召喚》
[契約義務]
・この個体は、主人に危害を加える事が出来ない
・この個体の主人は、この個体を不幸にしてはならない。してしまった場合は……分かっておろうな?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
これを見た鈴木さんの第一声が、
「この[契約義務]というのは一体……」
え、そっち?
「召喚モンスターとの契約に辺り、双方の合意で交わした条件を明文化した物ですが」
「何と……」
条件1は現世で黄泉竈食食べた時に万が一が起こらない様にと言う予防的な物である。お腹と背中にジャンプを仕込んで置かない為ではない。
尚、条件2はいつの間にか追加されていた模様。
「逆にお聞きしたいのですが、他のサマナーの方々はこういった条件はどういった物を交わしているのでしょうか?
主にインターネットで情報を集めた限りでは契約に関する話題が無いのですが」
おかげで基準が人間の雇用に準ずる物を参考にするしかなかったんだよなぁ……
「私共もこのような契約は寡聞にして聞かなかった物で、何とも……」
そっかぁ……まぁ、今更[契約義務]無くしても大反乱祭りが起こるだけだし、今までの分はこのままで行くしかないかー
「所で、《黄泉戦人召喚》《黄泉帰り》《神話改演:黄泉平坂追神之事》《黄泉竈食作成》《黄泉大神召喚》、これらは一体……」
戦力的にスキルが気になったのだろう境准将が恐る恐る訊ねてくる。
「そうですね、まず、《黄泉戦人召喚》ですが、これは死後に黄泉国で、黄泉戦人になった死者を召喚するスキルです」
「ふむ、事実上全ての死者を召喚するスキルかね?」
俺も最初はその辺りを勘違いしていたんだが
「いいえ、あくまでも黄泉戦人として死後も戦う事を選んだ者のみが対象となります。既に輪廻の流れに乗った魂や、死んでからも戦う事を望まない者もいますので」
そう、勘違いしていたのだが。黄泉戦人は志願制であり、徴兵制ではないのである。
俺も黄泉の国で過ごしたから分かるのだが、衣(ファッション?なにそれ?)食(黄泉竈食の無料配布あり。お代わりも良いぞ!)住(寝床?地面があるじゃない!)の心配がなく、労働の必要性も無い死後で戦意を持ち続けるなど生前に余程の無念を抱えたか、戦狂いの類の連中しか居ないのだ。
死んで楽になるというのはある意味で正しかったのだ。
楽になる前に地獄で業を雪がなければならないし、その後では、もう働かなくても良いんだ、ヤッター!!!などと思えるほどの思考も残ってなさそうだったけど。
それはさておき。
「率直に聞くが、黄泉戦人は兵力として何人程呼び出せるのかね?」
「前回呼んだ時は最大で500万人程でしたが、私の方で黄泉戦人の求人募集をしやすい様に手を打ちましたので、もう少しは増えているかと」
増えているかな?増えていると良いなぁ……
「ふむ、それに関してこちら側で出来る事は何かあるだろうか?」
「それでしたら、軍の武装の払下げ品があれば購入させて頂ければ。
日本帝国陸軍時代の装備であればなお宜しいのですが」
「現行採用の最新型でなくて良いのかね?」
「はい、そちらは冬季用の防寒装備を融通頂ければと」
「結構。輜重課に問い合わせておこう」
「また、《神話改演:黄泉平坂追神之事》ですが、これは黄泉醜女の神話を改変して再現するスキルです。
詳しくはこちら(page.53 翌亜流高校スタンピード事変・終の後書き部分)をご覧ください。
「次に《黄泉帰り》ですが、これは死者の蘇生等ではありません。彼女達が何処にでも黄泉平坂入口を開き出入りが出来るだけのスキルです」
黄泉の空気が現世に流れ込んで微生物・虫が問答無用でオタッシャしたが、俺の健康に直ちに被害はなかった(冥府魔道耐性持ち並み感)
「何かそれだけでは済みそうに無い様な気もするが……」
「そして次は《黄泉竈食作成》ですが、これも黄泉に帰った黄泉大毘売命が向こうの厨房で黄泉竈食を作ってくれるだけですね」
「ふむ……その黄泉竈食には何か特別な効果があるのですか?」
「食べたら死にます」
「「えっ??」」
「死にます。魂が黄泉に属する物になりますので」
「ただし、食べ続ければ冥府魔道耐性が付くのではないかと思われます。いつの間にか私にも付いていましたので」
「「……」」
何とも言えない表情の二人。
「最後に《黄泉大神召喚》ですが、試した事が無いので断言できないのですが、恐らく伊邪那美神を呼び出す事が出来るのでは、と。
ええ、これからも試す積もりが無いので断言はできませんが」
「なるほど、これは……」
「非常に興味深いお話を聞かせて頂きました。こちらは報酬になります。どうぞお納めください」
そう言って鈴木さんが懐から封筒を出して渡してきた。
封筒を手に取った感覚としては厚みを感じなかったのだが、封筒の下側にカードサイズの何かが入っている……!?
「こちら、東京都冒険者装備販売店の召喚カードフロアでのカードの引換券と、Aランク召喚モンスターの天宇受賣命(アメノウズメ)のソウルカードとなります。引換券は無期限でランク制限なしでフロア内のカード1枚と交換いただく事が出来ます。
アメノウズメは本契約出来たサマナーの報告例が無いのですが、現在当店での最高値のカードでございます」
これは……報酬と言いつつ不良債権の整理&情報解析が目的か!?
「今まで本契約が出来なかったカード、ですか……
私も契約できないかもしれませんが、失礼ですがその場合は……?」
「残念ですが、その場合は相場で買い取らせていただきましょう。
契約の成否に関わらず、その時はご連絡いただければ……」
「分かりました」
契約前に黄泉入りしてアメノウズメ様に事前交渉しておかなきゃ……
ここで板挟見さんが、
「さて、お二人共お話は御済みになられましたかな?もうそろそろ時間が……」
おや、そう言えばいつの間にか……
「それでは失礼します。此方が私の連絡先になりますので、何かございましたら連絡いただければ……」
そう言って退室すると急いで窓口に向かう。
就業支度をしていた職員さんに時間ギリギリで申し訳ないとは思ったが。
「銃器の所持申請ですね。それでは後日書類に不備が無ければ、職員による保管庫の確認訪問の連絡がありますので、それまでにガンロッカー等のご用意をお願いします」
保管庫の基準について記載された資料を受け取り、
「はい、分かりました」
と、帰宅する前に装備販売店に寄って銃器の輸入の手続きを依頼する。
店員さんに何度も確認されたが、全額前金・現金払いで支払いを済ませると、それ以上は何も言わなかった。
拳銃とアサルトライフル・アンチマテリアルライフルはともかく、LMGとか普通の冒険者が使う物じゃないからなぁ……