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逆らいも抵抗も無く、ルーヴの後をついて行くことになった。逆らっても面倒なことになるというのも関係しているが。何よりも厄介だったのは、部屋を出てすぐに数人の騎士が待ち構えていたことにある。先に手を打っていたようで、騎士たちの物音そのものを消していたようだ。
ルティたちの部屋からは誰一人出て来る気配が無い。これも何らかの手段を取ったらしいが、今はまんまとかかってやることにした。
「どこまで歩くつもりだ? おれを殺したいなら、練兵場じゃなくてもいいはずだろ?」
「人聞きの悪いことを言うようになったものだな。我らは公国の貴族だったはずだ。そんな野蛮な思考に陥るとは落ちたな、イスティ」
「……それはお前もだ。それに、滅亡公国の廃貴族の違い……じゃないのか?」
「お前のその無駄な足掻きもすぐに消え失せることになる」
騎士団の団長が聞いて呆れる。誰かを守るためにおれを殺しにかかるとはな。
ルーヴを先頭に、他の騎士はおれの側面につきながら目的地の練兵場に向かっている。逃げるつもりは無いが、何とも滑稽な光景だ。
しばらく歩くと、そこには何の変哲も無い小屋があった。練兵場と言っていたが、どう見ても侵入者を密かに消す為だけに作られた小屋にしか見えない。
「ここに入れ、イスティ」
「おれはアック・イスティだ。いつまでも公国の名に縛られるお前とは違う」
「ふっ……なに、すぐに終わるから安心しろ」
「早く入れ!!」
手足は縛られていないが、左右と後ろを固めている騎士がかなりうざったい。後ろの騎士に押され、おれは強制的に練兵場へと足を踏み入れる。
そして、
「――何の真似だ? 騎士が素人相手に不意打ちか?」
「ちぃっ!!」
予想通り、背後から騎士の一人が剣を向けてきた。展開を読んでいたこともあり、あらかじめ物理回避率を上げていたのが効いて、ものの見事に騎士の剣はおれに当て損なう。
そのまま空しく、空《くう》を切った。
「ほぅ……? 落ち延びた先でスキルでも身に着けたか」
「スキル? 違うな。こんなのはその辺を歩いていても身につけられるものに過ぎない」
「いいだろう。お前も剣を携えていることだ。ここで我ら騎士団の連戦を受けてもらう! これは死合だ。お前の実力を見るような生ぬるい戦いでは無い」
やはり殺す気で連れて来たらしい。ルティたちに気取られないように連れて来たようだが、つくづく甘い奴だ。練兵場の小屋の外からはすでに彼女たちの気配がある。特にシーニャからは激しい殺気が感じられるが、何とかミルシェが抑えているようだ。
「……両手剣でいいんだろ?」
――とはいえ、他の剣を渡してくる可能性もある。もちろんフィーサじゃなければ戦えないということでも無いが。
「騎士でもないのに両手剣を装備していたか。面白い! その剣を使え! まずはベニウスがお前の相手だ。純粋に剣だけの戦いならば、お前には勝ち目などありはしないけどな!」
「……ベニウス? 何だ、ルーヴじゃないのか? すぐに終わることになるがいいんだな?」
「ハハハハハッ!! しばらく会わない間に無駄な度胸だけはついたようだな! 我の剣がイスティと交えることなどあり得ん。お前の強さなど、所詮知れているのだからな!」
一体いつの頃までの思い出止まりなのか。まだ幼い頃に真似事で剣を交えた記憶が微かにあるが、どうやらその時から止まっているようだな。
「よそ見をするな!! 終わりだ、イスティ!」
外のシーニャの気配が、さらに恐ろしくなった気がする。彼女たちの心配はありがたいが、フィーサを構えただけで終わってしまいそうだ。
「さて、と……」
フィーサを使用していいと言われたので鞘から取り出そうとすると、後ろで立っていたルーヴから途端に声がかかる。
「……待て、その剣はプラチナか?」
「そうだ」
「お前ごときが大層な剣を所持しているということは、その両手剣、何かあるな?」
「おれの剣だ。どんな剣を使おうと勝手だろう? それともここの騎士は、プラチナが出てきただけで弱気になるのか?」
先鋒で挑もうとするベニウスが、ルーヴと何かを話し合いだした。フィーサの輝きは騎士が持つ剣を確かに凌いでいるが、それ以外にも何か感じ取られた可能性がある。
「アック・イスティ! お前の剣は我が預かる。お前は騎士見習いが持つ剣で戦え!」
「何だ、プラチナに臆したのか?」
「違うな。だがあえて言えば、その剣から何か強い魔力を感じた。それだけのことだ、その剣を寄越せ!」
「……ハンデにもならないが、言う通りにしてやる」
ルーヴにフィーサブロスを渡し、おれは騎士見習い用の両手剣を受け取った。何の変哲も無いアイアンソードのようだ。そうして剣を手に構えようとしたが、ベニウスからの剣先が眉間に突き付けられていた。
「手にした途端、不意打ちか」
「そういうことだ。ルーヴ団長の命令どおり、貴様にはここで重傷か死んでもらう!」
ベニウスからの不意打ち攻撃を剣で防いでいると、別の騎士も側面から剣を振り下ろす。現状では二対一。互いの両手剣がぶつかっているだけだが、二人同時に動作を取られてしまうとどこかに傷が出来る恐れがある。それにしたって不意打ちで二人同時とは、恐れが過ぎるものだが。
「卑怯な騎士団もいいところだな。これがお前が作った騎士団か? ルーヴ」
「目に見える攻撃だ。この程度の攻撃を卑怯と言うなら、やはりお前の強さはその程度だ」
確かにその通りで、おれの甘さが相手を調子づかせた。おれに剣を向けている二人の騎士は、強い力だけで押して来ている。
しかしこの二人はあまりに弱すぎた。次の瞬間、おれは手にしたアイアンで目にも止まらない高速斬撃を近接した二人の間合いに飛び込んで見舞うことに成功。二人の騎士はすぐに体勢を崩し、その場に膝をついた。
「な……んて、速さだ」
「ま、まぐれな奴め……」
フィーサが無くてもソードスキルを習得済みということもあって、何も問題は無かった。要するにここの騎士の強さの程度は、そんなものなんだろう。
「――不意打ちはまだ続けるつもりか? 背後から近づこうとしているのは気付いているが?」
「黙れっ! 生意気な頭をカチ割ってやる!!」
二人を同時に崩したが、なおも背後から別の騎士が剣を振り下ろしにくる。だが大振りすぎだ。攻撃におけるセンスも工夫もまるで見当たらず、おれは大振りの剣を見事にかわす。
不意打ち攻撃にも関わらず大振り攻撃をした騎士は、息を切らせて座り込んでしまった。小屋に残る騎士はルーヴを入れて、残り三人。たとえ連戦となったとしても、これほどまで弱い騎士だと張り合いも無いと言える。
「イスティ……。お前がアック・イスティになってから、誰かの下についたか?」
「特に誰にも教わってないな。こんな不意打ち攻撃なら何人来ても結果は同じだな」
「……なるほど。ベニウス程度ではやはり勝てないわけか」
かませ犬に不意打ち攻撃をさせて実力を見たらしいが、全てにおいてがっかりすることになりそうだ。
「まだやるのか? 何ならルーヴ自らかかって来ても構わないぞ?」
全く、この男は一体何がしたいのか。おれを故郷に入れさせない為だとはいえ、あまりにも弱すぎる。
「……いいだろう。我自ら、かつての弟を殺して終わらせてやる! 何としてもお前をあの国に向かわせるわけには行かないのだからな!!」
「何度やっても同じだと思うけどな」
「お前の両手剣の輝きは普通の輝きじゃない……。お前が手にしているアイアンとは比べようのない強さを秘めている。だがその剣も、今は我の元にある!」
「それはそうだな。それがどうかしたか?」
「つまりだ……お前の強さを持ってしても、我からの攻撃には防ぎようがないのだ――!!」
フィーサブロスを手にしたルーブから重い一撃が繰り出された。この不意打ち攻撃には、さすがにアイアン程度ではすぐに破壊されてしまう。そのままおれに直接的なダメージを負わせてくるはずだ。
そう思っていた直後。
「ぬ、う……!?」
「――!」
派手な火花が飛び散り、おれも奴も目を覆うような強い閃光が走っていた。フィーサの攻撃がおれに当たってそうなったのか、それとも――?