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「わぷっ……!? な、何だこれは」
「ひゃぅっ」
ルーヴはおれから強制的に預かったフィーサブロスを手にしていた。その攻撃が当たったはずなのに、おれも奴も見えないくらい眩しい光に包まれている。
攻撃ダメージは無く、フィーサが当たった感触は得られていない。それでも光とともに、顔が何かに触れている気がしている。手持ち無沙汰の両手から感じられるのは、とても柔らかい何かにずぶずぶと吸い込まれ、抜け出せないように入って行く感覚になっていることだ。
もちろん力を入れて引けばたやすく抜け出せる。しかしどういうわけか、この気持ちよさにずっと浸っていたいとさえ思い始めた。
視界はまだ光一色。ルーヴから追加攻撃がくる気配はほとんど感じられない。それなら今はこのままずっと――そう思っていた。
だが、
「だ、駄目ぇぇぇぇぇぇぇ!!」
――フィーサの叫び声が聞こえたと同時に、勢いよく弾き飛ばされてしまった。
「う、うおっ!?」
小屋の壁は木造ということもあり、ぶつかってもダメージを負うことは無い。そのはずだったが、壁では無い別の何かにぶつかったのか全く痛みが無かった。
ソファか何かの、モフっとした感触がおれの頭を支えている。この時点でさすがに光は収まっているはずなので、ゆっくりと目を開けることにした。
「う~ん……ん?」
目を開けようとしたが、獣の手が子供をあやすように顔全体を撫でていて開けるに開けられない。
口は問題無く開けられるので声を出そうとすると、
「ウニャ。いい子にして落ち着くのだ、アック」
「むごがっ……」
「もう大丈夫なのだ。ドワーフが小屋を破壊して懲らしめているところなのだ」
後頭部のふさふさ感はシーニャに抱きしめられているからだった。目をそっと開けると、そこには雪山トンネルが見えていて小屋だったらしき木片が散らばっている。
「え~い!! えいやぁぁぁぁ!」
ルティの声がすぐ近くから聞こえてきた。この時点で勝負はすでに決していたようだ。彼女たちが助けに来なくても、フィーサにやられるようなことにはならなかったのだが。彼女たちはとっくに我慢の限界で、飛び込んで来たに違いない。
◇◇
「わ、悪かった……我の、いやオレの負けだ。許せ、アック」
おれの前で膝をついて謝っているのはルーヴ率いる白狼騎士団の面々だ。ルティの拳に耐えきれなかった鎧がことごとく破壊され、武器は粉々になっている。
人に対しての攻撃はさすがに手加減をしたのか、顔半分が腫れあがっている程度だ。対するおれは、シーニャにがっちり摑《つか》まえられたまま、ルーヴと向き合っている。
とことん甘えたいのか離してくれそうになく間抜けな姿だが、このまま進行することにした。
「許せ……? それはおれを殺そうとしたことについてか?」
「フウゥゥー!!」
落ち着いてもらわないと、シーニャに絞め落とされそう。
「……いや、試させてもらったことについてだ」
実力差が分からないほど落ちぶれていないと思っていたが違ったか。
「試す? 実力差ならとっくに分かったはずだ。今さら言い訳をするつもりか?」
「そうじゃない。故郷に行くにしても、お前の強さをはかるべきだと思ったまでだ」
「故郷にはびこる魔物を倒せるかどうかについてか?」
「そうだ。ここヒューノストで何故オレが騎士団を率い守っているか、お前は知らないだろう?」
「知らないな」
知るはずも無い。とっくの昔に故郷を逃れ、倉庫の町ラクルに行ってからは来ることが無かったのだから。
「オレたちは滅亡公国から襲って来る魔物を常に倒し続けている。騎士団がいなければ、ここも滅び雪に埋もれるだけなのだ」
「襲って来る……だと? 公国には残った魔導兵がいるはずだろ?」
「あのガラクタどもが反乱したせいで滅亡したのだぞ? 故にお前がどの程度の強さを持ち、やれるのか……中途半端な強さでは、あの魔物どもに勝てないと思ったからこその試しだったわけだ」
「――ちっ」
おれとルーヴの故郷イデアベルク公国は、魔力を有する貴族が治めていた国だった。魔力を動力源とした魔導兵を使って暮らしていたが、それらが反乱。
人を滅ぼし、国をも滅ぼした。貴族程度の魔力では魔導兵を使うなど無理だったということになる。
「故郷には戻れないが、ここの都市を守ることなら出来る。だからこその騎士団だ」
「何だ、ルーヴ程度で勝てる魔物か。それなら――」
「魔物はな。だが、故郷に棲むのはハイクラスな魔物ばかり。お前の強さがオレより上でも、それでも厳しいはずだ!」
「……ふん」
何てことは無い、攻めることが出来ない守るだけの騎士だった。もちろん騎士の役目は守ることにあるが、不甲斐なさにも程がある。
「ウニャ? アック、怒っているのだ?」