「ほおぉっ!」
一瞬の変化に周囲を見回して圧巻の声を発したナガチカの足元近くの水面(みなも)からナッキの声がする。
「何で全員なの? むむむっ、それにヒットの時と違うよ! 何故だろう、はてな?」
この言葉の通り、二つ目の違いは『武装』に因る変化の度合いであった。
ヒットが発動した際に凶悪と言っても良い姿に変化したギンブナ達であったが、ナッキによって齎(もたら)された今回はそれ程の変身を遂げては居ない。
まあ、全身は硬そうな鱗で覆われているし各鰭(ひれ)は元に比べて数倍に大きくなってはいるのだが……
言って見れば『ナッキ的』になった、そんな感じである。
鳥達は羽毛が分厚くなった感じで全体的に丸々としモッサリとした印象になっている。
トンボは大きく光沢がある左右の複眼の上に、同色のヘルメット的な物が足されていて三つ目みたいだ。
翼が鰭に当たるのだろうか? んまあ進化の道筋を辿ればそうなんだろうな、ドラゴ達の細長い透明な羽も、ヘロン配下の翼も揃って巨大な物へと変化している。
特筆すべきはカエル達の変化であろう、と思う。
彼らは両手足の掌(てのひら)以外は特段の変化が見られなかったのだ、一見では、である。
良く目を凝らしてみれば、普段通りに見えた全身は、普段とは違っている光の屈折が見て取れたのである。
ヌメヌメとした濃密な粘液が体の周囲を覆った姿は何とも不気味であり、種族毎に緑、深緑、茶色、赤褐色、黒、土留(どどめ)色のそれらは揃って毒々しいムードを周りに感じさせて、いや、はっきり毒、そのものであることを主張していたのである。
因みにザリガニたちは甲殻が多少厚くなった以外は尻尾の大きさが肥大しただけでそれ以上の変化は見られなかった。
まあ、見た目が変わっていない両手の鋏(はさみ)の切断力が段違いに高められている事が判明するのは、これより数千年後の事である。
この時点では割と大人しめの変化だったと言えるだろうね。
……ふむ?
どうやらスキルの効果は直接の部下に齎(もたら)されているようだな?
ギンブナの長は今やヒットであり、ナッキは池全体の長、そう言う事なんじゃないだろうか?
それに変化の差異にも説明が付くのではないだろうか?
ナッキに似ている、そんな風に思った理由は歴然なのでは?
異常に高いDEF、防御力と敏捷を現すAGLが影響しているんじゃないかと思うのだが……?
んまあ、MAPってヤツだけは賢いと評判の私にも皆目見当が付かないのだがね。
ふーむ。
兎に角。
一頻(ひとしき)り仲間達の変化を満足そうに見ていたナッキは言葉を告げる。
「『解除(リリース)』、これ面白いねぇ? さあ、皆も試してご覧よぉ! 楽しいよ♪ やってやってぇ!」
王の言葉である、何て格式ばった感じは皆無だったが、周囲のメンバーは思い思いに自分たちのスキルを鑑定して貰いながら、それぞれどんな風な効果があるのかを試しだすのである。
知らなかった事を知り、自分で試してしっかりと理解する…… 我々人間にも思い当たる事が有り過ぎる事では無かろうか? 私、観察者自身、幼い頃に何度と無く経験した出来事の追体験に、思わず目頭が熱くなる思いなのであるが? まあ、目頭とかとっくに無いのだが……
そんな風に私、観察者が風穴と化した眼窩(がんか)に空しさと切なさを思い出していると、ナッキがやや小声で父ナガチカに言う。
「お待たせしちゃったね、ナガチカ行こうか?」
ナガチカはキョトンだ。
「え、何ですかナッキ殿? 行くってどこにですか?」
ナッキといつの間にか口の中に納まっていたサニーは優しい笑顔をそろえて言う。
「昨日言ってたじゃないの、何か僕に聞いて欲しい事があるってさ、皆楽しんでるから今だったら僕とサニーの二匹だけで聞けるよ!」
「そうそう!」
「な、ナッキ殿…… 覚えてくれていたんですね…… すみません…… でも、いいえ、お言葉に甘えて聞いて頂いて宜しいですか?」
「勿論だよ! どこで話そうかな? そうだっ! あそこに行こうか? ねえ、サニー?」
「ああ、そうだよねナッキ! あのおっかない場所だったら皆は寄り付かないもんね! じゃあ、そこでっ! 付いて来てねナガチカ!」
「はいっ! どこへでも付いて行きますよぉ! お願いしますね、ナッキ殿、サニー殿!」
『美しヶ池』の仲間達が盛り上がり捲る中、二匹と一人はそっと水路に出て、静かに上流へと向かうのであった。
コメント
2件