貴族子女は社交界デビューしたら多忙だと思う。
婚約を結ぶこと然り、お茶会やパーティに参加すること然り、人と友誼を結び家同士の付き合いをすること然り。
それが貴族としての義務。
生まれ持っての宿命というものだろう。
僕の場合は三つのうち、一つしかまともに叶えられていない。
国のトップ権力を持つ公爵家のご令嬢と婚約した。
だが、過程に問題があり貴族間ではユベール家を敬遠する家が多い。
そのせいでお茶会、パーティには招待されなくなってしまった。
現状ではギリギリプラスだ。
でも、成人した後が問題。
人付き合いが何故大切なのかは貴族情勢の情報収集になるからだ。
外交の仕事に関わっている家と仲が良ければ外国の情報が手に入る。
貴族間の新鮮な情報も手に入る。
家同士で仲良ければ援助し合うも可能。
領民が多くなり、物資や異動が必要なようなときに助け合える。
貴族間の付き合いは何かあった時の保険になんだ。
だから、今孤立している状況は良くない。
お披露目会終了後、一件も招待状が来ない現状。
うち主催で開催する手もあるが、断られるのは目に見えているので行動できず。
ソブール公爵家主催のパーティに誘われないかなと期待してもまずパーティやお茶会を開いてない。
だが、そんなとき孤立状態の打破の機会が訪れた。
パトラス侯爵家からの招待状。
最後の人脈形成チャンス。
だが、その招待状にはいくつか問題がある。
パトラス侯爵家が中立派ということ。
今回招待された家が複数あること。
僕は派閥強化を目的とされていると予想している。
今は均衡が保たれているが中立派の勢力の増加で崩れる場合も。
まぁ、ユベール伯爵家が増えたところで変動はないかもしれないが。
単に仲良くなることが目的なら問題ない。だが、何か別の意図があるとしたら?
あまり警戒しすぎるのも良くないけど、何かあった時が怖い。
権力争いで内乱が起こる。
それは避けたいところだが。
そんなことを思いつつ、僕は馬車でパトラス侯爵邸へ向かう。
指定された時間は15時。
そういえばお茶会ってほとんど15時指定多いな。
まぁ、3時のおやつって感じか。
その辺は暗黙の了解があるのかもしれない。深く考えるのはよそう。
そう思いつつ、パトラス侯爵家に到着した。
門から馬車で入りそのまま屋敷に。
本当に侯爵も公爵も庭園があって広い。
本邸の他に別館があったりする。
屋敷の大きさは権力の大きさを表しているのだろう。
ちなみにユベール伯爵邸も広いが、別館はなく、屋敷から門までも距離は馬車で移動すれば、多く見積もっても15秒もすれば到着する。
まぁ、屋敷の大きさについては実際どうでもいい。大き過ぎればそれだけ管理が大変だし。
「アレン様、お待ちしておりました」
「……ご招待くださりありがとうございます」
屋敷の入り口に着くと……何故か招待した本人が出迎えていなかった。
いや、目上の位だし。アレイシアはいつも出迎えてくれたが、ラクシル様に呼ばれた時はリットさんが出迎えていた。
家によって違うのかな。
出迎えてくれたのは歳の割にがっちり体型の白髪の使用人。
おそらく、この屋敷の使用人の中でのお偉いさん。
それにしても本人が出迎えをしないとはどういうことだ?何か試されているのか?
「本日のご案内を担当させていただきます。セバスと申します。何かありましたら気兼ねなくお申し付けください」
「これはご丁寧に。僕はアレン=ユベールといいます。こちらは僕の従者のウェル」
「よろしくお願いします」
互いに自己紹介をする。基本の流れだ。
まずは初対面ではこれが基本なのだが。
……それにしてもどうするべきか。
耳で聞く限り近くにはこのセバスさんだけ。
まぁ、もともと小規模のお茶会だし、他家の対応をしているのかもしれない。
何かきっと事情があるのだろう。
そう思っていたのも束の間、セバスさんは察して話しかけてくる。
「申し訳ございません。本日、レイル様はすでにいらっしゃっている方のお相手をしておりまして、アレン様は私に案内するように仰せつかっております」
「わかりました。では、お願いします」
色々と大変そうなので深くは追求しない。
セバスさんにそのまま案内されたので後ろをついていく。
……と、ここで違和感を覚える。
セバスさん……少しおかしい?
言葉通りの意味だ。
鼓動がゆっくりと一定。
足音にも違和感を覚える。
これは初めてのことだ。人の鼓動は基本一定だが、話していたり嘘をついたりすると微妙に変化する。
だが、このセバスさんは話している時、歩いている時全く変化がないのだ。
何より足音に違和感がある。
こう……何かを意識した歩き方。自然に歩いているのではなく意図的な動き……何か不自然だった。
「どうかされましたか?」
思わずギョッとする。
視線を向けていたとしても、セバスさんは前を向いているし、別にそこまで凝視していたわけではない。
「いえ……なんでも」
「左様ですか」
とりあえず返答した。
セバスさんも特に気にしていなさそうだった。
歳の割にがっちり体型、多分武術が何かを嗜んでいるのかもしれない。しかもかなりの達人。
僕の身の回りには武術を納めている人はいない。周りと少し違うのはこれが理由かもしれない。
「こちらが本日の会場になります」
セバスさんに案内をされ、到着した。
僕はノックし入室した。
会場にはすでに数人がいた。
そこそこ規模が大きいようだ。席を見る限り僕を含めて10人か。
すでに来ている人を横目で見るも……誰がなんの家の人がわからない。
気づけばお披露目会から1月以上経っている。
僕がアレイシアとお茶会、デートとかやっているうちにも各地の家でお茶会やパーティが行われていたらしい。
ここにいるメンツはほとんどが顔見知り程度のはず。
……まずい。非常にまずい。誰がどの家の人か全くわからない。
よし、初めは会話を聞くだけで当たり障りのない返答をする。
その後で家の位や名前を知っていこう。
失敗すれば僕の家は完全に孤立。
ユベール家は衰退してしまう。
さぁ、一歩も引かない背水の陣。必ず貴族同士の繋がりを作って見せよう。
父上にいい報告ができるよう、精一杯がんばろう。
「皆、今日は多忙なところよく集まってくれた。ささやかながらお茶とお菓子を用意させてもらった。有意義な時間を過ごせればと思う。初対面の者もいることだろう。まずは自己紹介をしようか」
それから数分後、お茶会の参加メンバーが揃った。
レイル様の挨拶からユベール家の命運がかかったお茶会が始まったのだった。
父上必ず吉報をお知らせします!
「レイル様、冗談はおやめください。有意義な時間を過ごすのでしたら、まずそこにいる半端者を退室させてくださいよ。自己紹介をするのはそれからだと思いますが?」
『ドクン…ドク…ドクン』
……決意を改め身構えた瞬間、突然の指摘とくすくすと小さな笑い声がした。
反応についていけず周囲を見る。
僕の隣に座るメガネをかけた茶髪のパーマのかかった少し痩せている男の子を小馬鹿にしていた。
その男の子は平然としているが、隣から聞こえた鼓動はその感情を明らかにしていた。
彼は怒っているとわかった。
状況は小馬鹿にした反応を示したのは僕を除いて6人。
レイル様と白髪赤目の野生み溢れる男の子、二人は違った反応をした。
レイル様は少し真剣な表情、白髪の男の子は苛立っていた。
なんだよこの胸糞悪いお茶会は。
お茶会が始まって一番最初に感じたのは困惑だった。
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