私
自身この病に侵された患者だが、症状としてはまさに精神病そのもの。幻聴に悩まされたり幻覚を見たりするのだ。しかも厄介なことにその症状というのが人それぞれ違うらしい。
私はある時突然自分の身体が泡のように溶け出し、地面に吸い込まれるような感覚に襲われる。そしてそのまま意識を失い、次に目覚めた時には全身びしょ濡れになっているというものだ。最初は訳がわからなかったが、それからというもの度々似たようなことが起こるようになった。まるで水底に沈んでいるかのような感覚に包まれて気を失うのだ。初めはパニックになっていたものの今ではすっかり慣れてしまった。こんなことを人に言っても信じてもらえないだろうと思い誰にも相談できずにいるのだが、最近になってその症状が悪化した気がする。今までは数分で目を覚ましたものだが最近は数十分もの間意識を失ったまま目覚めないこともある。そうなるとさすがに心配になり病院へ行こうと思ったのだが、これがまた大変なことになる。
まずどうやって行くのかわからない。
そこで友人に聞いてみると、なんとその友人も同じような経験をしていたらしい。しかもそれはこの辺りでは有名な話らしく、なんでも原因不明のまま突然倒れてしまい、目が覚めた時にはびしょ濡れだったという。一体どうしてそのようなことになったのか詳しく聞きたかったが、なぜか友人の口は堅く、結局何も教えてくれなかった。仕方なく自力で調べてみるとどうやら原因はプールにあるようだ。だがそれだけだと説明できない点がいくつかあった。例えばなぜ倒れたのかという点だ。普通に考えれば溺れかけたということが考えられるが、もしそうだとしたら当然服が水を吸うはずなのだが、それらしき痕跡が全く見当たらない。それにそもそもそんなところに近づかなければいいだけの話で、わざわざ行かなくてもいいはずだ。他にもまだ疑問点は残っているが、これ以上詮索しても答えが出そうにもないので、とりあえず放置することにした。
ところで話は変わるが先日、私が通っていた小学校が廃校になった。もう20年以上も前の話だが、当時は近所に住んでいた子供たちとよく遊んでいたものだ。校舎の裏には大きな木があり、その根元には小さな祠があったのだが、この祠にまつわる怪談があるのだ。
ある日のこと、友達数人と放課後集まっていた時のことである。当時小学生であった私達は、怖いもの見たさもあって肝試しを始めたのだ。場所は例の木の下である。まず私達が木の根本まで行く。そこでお供え物をしてから帰るというのがルールなのだ。ところがここで問題が一つ発生した。誰か一人だけ仲間外れになってしまったのである。私達の中で一番怖がりなのは誰であろう、当時の私の友の一人だった。つまり皆が私と同じことを思ったわけである。「よし、あいつを置いて帰ろう!」と。結局は多数決で決まったわけであるが、あの時の気持ちは今でも忘れない。
それから数年後、再び同じ場所で肝試しをしたことがあった。その時はまた別のメンバーで集まった。するとどうしたことだろうか。そのメンバーは全員揃って「置いて帰った奴がいる」と言い出したのだ。しかも、全員が口を揃えて言う。「お前らが置いたんだろ?」と。
もちろん違う。確かに置き去りにした記憶はある。しかしながらそれはもう10年近くも昔のことだ。どうして今になって、こんな話を持ち出してくるのか理解できない。
「お兄ちゃん、私ね……」
「うん?」
「この先もずっと、一緒に居たいよ……」
そう言って妹は僕を見つめていた。僕は少しだけ考え込んだ後、「そうだなぁ」と言って、妹の頭を撫でてやった。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「んー? どうした?」
「えへへ~♪ 呼んだだけだよぉ!」
「なんだそりゃ」
僕の手を両手で掴むようにして握ると、妹は幸せそうな笑みを浮かべて言った。
「お兄ちゃん! これからよろしくね!」
僕は思わず妹の頭を撫でながら答える。
「あぁ、こちらこそ頼むよ」
「えへへ~♪」
嬉しそうにはにかみながらも、妹はまだ僕に抱き着いたままだった。さすがにそろそろ離れて欲しいと思い始めた頃、リビングの方から声が聞こえてきた。
「ちょっと真奈!? いつまで待たせるつもり?」
「え~? だってまだ待ち合わせの時間じゃないじゃん」
「そうだけどさあ! 真奈が『早く行こうよ!』とか言うから来たんだよ!」
「分かってるけどぉ……」
「じゃあさっさと行くわよ!!」
「待ってよ!! 亜美ちゃん足速いんだもん!!」……あれ? 誰を待ってたんだろう?
「おーい! 真奈ちゃ~ん! こっちだよ~!!」
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