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目を開けた瞬間、自分がどこにいるかわからなくて固まる。しばらく考えて、ここは村長の家だと気づいた。
でもどうしてここに?僕はラズールと採掘場を調べに行ったはずじゃあ…。
「おはようございます。よく眠れましたか」
「…眠れた。というかもう朝なの?ラズールごめん」
ラズールがベッドの傍に椅子を持ってきて座っている。そして起き上がろうとする僕を制して笑う。
「大丈夫ですよ。昨日はかなり疲れましたからね。採掘場では簡単な調査だけをして帰ってきました」
「そっか。何かわかった?」
「穴の奥まで行ってみたのですが、明らかに職人ではない素人が削った箇所が、何ヶ所もありました。確かにかなりの石が盗まれたようです」
「それはひどいね。ほんとに誰がやったんだろう…。イヴァル帝国の民のせいにされては迷惑だよ」
「そのことですが。イヴァル帝国の軍服を着ていた男…」
その時、いきなり扉を叩く音がした。
僕は慌てて枕元に置いてあったカツラをかぶる。
ラズールが口に指を立てながら扉に近づき「誰だ」と低く聞く。
すぐに「ラズール様、報告に来ました」と騎士の一人の声がした。
ラズールが僕に頷いてから扉を開ける。
僕は頭まで布団をかぶって寝たフリをした。
ブーツの硬い踵で床を踏むコツコツという音が、いくつも聞こえた。
二人…三人いるのかな。
僕は寝たフリをしながら聞き耳を立てる。
「何用か」
「緊急事態にて急いで報せなければと。…ん?ノアはどうしたのですか?」
「体調不良だ。寝かせてやってくれ」
「かしこまりました。今朝早くに村の周りを調べていたら、バイロン国の騎士が二人、村に入ってきたのです」
「なに?」
「警備のために常駐している騎士達が、彼らに敬礼をしていたので、位の高い騎士ではないかと思います。黒い軍服姿でしたので、領主に仕える騎士です」
「領主の?王都の騎士の軍服は違うのか?」
「はい。王都で仕える騎士は青い軍服です」
「なるほど」
ラズールが意味深に呟く声が聞こえる。
採掘場に結界を張った騎士は、何色の軍服を着ていたのだろう。ラズールもきっと、同じことを考えている。後で村長に確認しよう。
「それで、その二人はどうした?」
「村人に採掘場の場所を聞いて、ここの裏山へ登って行きました」
「わかった。おまえ達と残る二人は、イヴァル帝国へ戻り待機している兵と合流して、いつでも出発できる準備をしていてくれ」
「はい。ラズール様は?」
「俺とノア…は一日遅れて戻る。俺達が戻るのを国境沿いで待て」
「かしこまりました」
三人が揃って返事をして出ていく。
扉が閉まる音が聞こえると、僕は布団からそっと顔を出した。
「フィル様、俺は少し出てきます。バイロン国の騎士にこちらの動きを知られては困りますので足止めをしてきます。フィル様はまだ休んでいてください」
「嫌だ、僕も行く。すぐに着替えるから待って」
「しかし、危険を伴うかもしれません」
「一人よりは二人の方がいい。だから僕も行く。これは命令だ」
「…わかりました」
僕はベッドから出ると素早く着替えた。すでに机の上に用意されていたタライの水で顔を洗い、ラズールに髪を結い上げてもらう。カツラをかぶり面をつけマントをはおると、村長に「また戻ってくる」と告げて裏山に向かった。
採掘場の入口が見える場所に着くと、入口を警備する騎士の姿があった。六人いる。黒の軍服の騎士が四人、青の軍服の騎士が二人だ。黒の軍服の二人に対して他の四人が頭を垂れている。ということは、今朝に村に来たのはあの二人か。…あれ?あそこに立っているのって。
僕の知ってる人がいた。
ラズールも気づいたようだ。
「あれは…隣国の王子の部下ではないですか?共に使者として来ていた…」
「ゼノだ。リアムの側近だよ。でもどうしてゼノがここに?リアムと一緒に王城に帰らなかったのかな」
僕とラズールは、岩陰に隠れて入口の様子を観察する。
ゼノともう一人の位の高そうな騎士が、四人に何かを話している。そして領主配下の騎士と王都の騎士を一人ずつ残して、穴の中に入っていった。
ラズールがゆっくりと立ち上がる。
「あの入口を見張る二人が邪魔ですね。少しお待ちを」
そう言うなりラズールが顔の前で指を鳴らした。直後に穴の奥からボン!という大きな音が連続で聞こえ、遅れて数人の叫び声が聞こえてきた。
残っていた二人の騎士が、慌てて穴の中へと走って行く。その後を追いかけるように、僕とラズールも穴の奥へと走った。
走りながらラズールに聞く。
「なにをしたの?爆発のような音がしたけど」
「危険なことはしていません。昨夜、数箇所の壁の中に皮袋に入れた薬を埋め込んでおいたのです。それを魔法で膨らませて爆発させました」
「薬って…なんの?」
「しびれ薬ですよ。この村は薬草を育てて薬を作っているそうですが、我が国にも薬草を栽培して効果の高い薬を作っている村があります。先ほどの薬は怪我の治療の時に身体を麻痺させるための物なので害はありません。だが、薬は時には毒にもなる。その逆も然りですが」
「…そんなの持ってたんだ」
「あらゆる状況を想定してますから」
「そう…」
そんな薬があるなんて知らなかった。でも昔に僕が矢に貫かれた時には持ってなかったよね…?
僕の考えてることがわかったのか、ラズールが申しわけなさそうに言う。
「あの時は持っていなかったのですよ。とても反省しました。ですからあれ以降、常備するようにしたのです」
隣に顔を向けると、ラズールが手を伸ばして僕の肩に触れた。微かに薄く矢傷が残っている箇所だ。今は蔦のような痣に隠れて見えなくなっているけど。