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1 - 第1話  本当のことを君に……

♥

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2024年06月23日

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……フォーク ケーキ α Ω……という言葉を皆さんは知っているだろうか?

それは特殊な体質を持った少数の人す言葉であり、その関係性をケーキバースまたはオメガバースという。

特殊な人間でありながらも、自分達と違うまるで運命のような体質に憧れを持つ人も多く存在し、作品を創る上でもかなり支持されていた性別。

勿論邪険にする人間もいたが、愛の力は強いというべきか……そのような人間もかなり少なくなった。

Ω ケーキ α は先天的だと思われ、基本的には生まれつきだと考えられる。

一方、フォークは後天的だと言われていて、生まれた後に発生する可能性が高くあると研究結果で分かっている。

ただ、遺伝的でもなく数も少ないし、生まれる条件も分からない為、どんどんと廃れていき、自分の性に気付かない人も多くなった。

そんなオメガバース ケーキバースが廃れた世界で、僕はΩとケーキの両方を持って産まれてしまった……


春の桜がふわりと浮かんでヒラヒラと舞い降りて、そこを通りすぎたであろう風が僕の周りを包む。

「今日は風が気持ちいいな……」

暑くも寒くもない丁度よい季節で、僕は春が一番好きだ。僕は いつものように軽やかな気持ちで散歩をしながら、今ではもうお馴染みとなった喫茶店に寄った。


side 星野 いつき

今日も小さく音楽が鳴っている静かな空間に、扉のドアベルの透き通った心地よいベルの音が鳴って常連客が入ってくる。

『いらっしゃいませ~』

「……いつもの席でお願いできますか?」

『はい、ではこちらにどうぞ』

彼は最近よく来てくれる常連さんなのだけど、いつも必ず窓際の席を所望される。

此処にはお恥ずかしながら来て下さる人が少ないので、問題なくいつも通りの席にご案内する。

座ってボーッと窓の外を見つめながら、店内で流れる小さな音楽に耳をすましている様子だった。

音楽が止まり次の曲が掛かろうとした時、常連さんは手を上げた。

『はい、ご注文は……?』

「……アールグレイで」

『ホットとアイスどちらに致しますか?』

「……ホットで」

『ホットで、畏まりました。』


アールグレイは華やかな香りとすっきりとした味わいで、柑橘類のベルガモットの香りは、男女問わず高い人気を誇っている紅茶だ。

紅茶の中でもロマンチックな香りがお好きなお客様がよく頼まれるもので憧れを抱く人も多くいると聞く。

初めにティーポットとティーカップを捨て湯で温め、その間に茶葉の分量を計る。

紅茶を美味しく入れるコツは、しっかりと分量を計ることで、一杯に必要な茶葉は3g程を目安にしている。

この茶葉の状態でもベルガモットの香りが立ち上がり、心身共に落ち着いてくる。

あらかじめ温めておいたティーポットに茶葉を入れて、湯煎した150mlのお湯を注ぎ、蓋をして三分蒸らす。

蒸らし終わったらティーカップにストレーナー(茶こし)を使って、2.3回に分けて注ぎ入れる。

ムラなく綺麗な水色(紅茶の色)の紅茶が出来上がり、ようやくお客様に持っていく。

『お待たせ致しました、アールグレイです』

「ありがとうございます」

実を言うと……お客様とは目を合わせたことがない。彼はいつも俯いている訳じゃないけど、必ず目線が合わないのだ。

そんなことを考えているうちに、お客様は紅茶の香りを楽しんだ後、一口飲んでカップを置き、砂糖を一つ入れた。

甘いのがお好きなのかと前にミルクを入れることを提案したが、やんわり断られてしまった。

『……』(こだわりかな?)


side 坂口 陽太ひなた

アールグレイを頼んでから、店内にあるステンドグラスの窓の隣にある透明な小さい窓に映し出された春の景色を眺める。

店内には小さく音楽がかかっていて、オルゴールの優しい音が聴こえてくる。

数分後にうっすらほのかに香るベルガモットの香りに、口元を緩ませた。


♪♪~♪♪*

音楽が切り替わり懐かしい曲が流れてきた。

『フンフン~ンン~♪』

小さく鼻唄を口ずさむのを聞き取って、思わず笑みが溢れた。

(多分無意識だろうな~)

この空間を案外気に入っていて、最近はしょっちゅう来ている気がする。

Ωとケーキを持って産まれたと診断された時は、本当に心配だったと高校生の時に言われたのを思い出して、自分の手を見つめる。

これは僕の考え事をする時の癖らしい。

今までは警戒していたけど、もう警戒することも無くなって、ただ少し定期的にヒートが来る甘い人間ってだけ。


♪♪♪”~♪♪*

『お待たせ致しました、アールグレイです』

「ありがとうございます」

考え事をしてたらあっという間に時間が経っていて、用意された紅茶の柑橘系の香りがいっぱいに広がる。

やっぱ好きなことをしてる時が、一番幸せだなぁ……


side いつき

紅茶を嗜んで随分とリラックスしていたお客様は、最後の一口を飲んでカップを置き席を立った。

『お会計こちらです』

「……じゃあ……これでお願いします」

『はい、畏まりました。』

いつものように会計を進めていると、この時間には珍しい、他のお客様がドアベルを鳴らしながら入って来た。

『いらっしゃいませ~……ではこちら……?』

常連さんは小刻みに震えていて息が荒いような様子だった。

声をかけても答えないで、震えた手で受け取ってすぐに飛び出してしまった。

『えぇ、……? 』

この喫茶店に来るお客様が少ないとはいえ、普通にピークには何人もいらっしゃるし、そこまで反応するだろうか?

何とも言えない気持ちのまま、お客様の注文を伺った。


side 陽太ひなた

お会計を済ませようとしたら別の人が来て、急だったから不安に襲われてつい急いで出てしまった。

僕は嗅覚過敏でよく匂いを覚えているのだが、そのお客さんのふわりと香る匂いは自分の嫌いな父親の香りにそっくりだった。

僕がΩに加えケーキであることを知って毎日毎日殺そうとしてきた。

ようやく一人暮らしを始めて何も気にせずに過ごせると思ったのに……

嗅覚過敏を治す為に成るべくストレスを溜めないとか、マスクをするとかしていたけどどうしても駄目だった。

Ωのヒートでは嗅覚が敏感になる可能性が高くなると言われているが、数の少なさの影響か基本的に日常でも匂いに敏感になってしまった。

普通ならαを探すんだろうが、この世界にはもう居るかどうか分からない程に少ないので、会える確率はゼロに近いだろう。

「……あ”ぁ~……泣きそ」

仕方がないからマスクを付けて春の好きな香りを遮って桜の木の下を通る。

それでもうっすら香る匂いに強張った身体が少しずつほどけていくように感じた。


side いつき

『終わった~……あぁ”~疲れた』

暗くなった窓の外を見て店内の電気を消すと、シフトカードを切った。

店長に連絡を入れて外に出ると、星空が綺麗に輝いていた。

『わぁ~……相変わらず綺麗だなぁ』

春なので星の数は少ないけど、西側の冬の星が見えて淋しさは全く感じないし、春特有の優しい雰囲気が出ていて、俺としては素晴らしいと評価できる夜空だ 。

『そういえば今日の占いって……大胆な行動を起こして……だっけ?』

もうこんなに暗くなってるし、大胆な行動は出来ないかとスマホを仕舞おうとすると、ふと別の記事が目に留まった。

『仕事の中で感じたこと気になったことを記録しよう……か、気になったこと……』

今日の常連さんの反応はかなり気になっていた。そもそも目を合わせないことも気にはなるし……

スマホのメモを出してそこに書き込む。

『意味は無いかもだけど……何もしないよりは楽しそうだし』

ようやくスマホを仕舞って、 ブルーライトで疲れた目をパチパチしながら今日の夕飯のことを考えて、帰り道を歩いていった。


目を開くと朝になっていてミソサザイの鳴き声が聴こえてくる。

モゾモゾと布団からスマホを探して、時間と今日の予定を確認する。

(今日は休みか……)

のそのそと布団を出て気合いを入れて朝の支度を始める。

何となく喫茶店に行ってあの人とちゃんと目を合わせたくて、客同士なら目を合わせてくれるんじゃないかと思って急ぎ目に準備をした。


……喫茶店に着くといつもの席に別の人が座っていて、窓から見てすぐに分かったので足を止めた。

(昨日のこと……気にしてるのかな? )

少ししょんぼりした気持ちで、とぼとぼ歩いた。毎日来る訳じゃないかもだけど、今まで初めて会った時から居なかった日は無かったのに。

とりあえず暇になってしまったので、イヤホンで曲を聴きながら適当に歩き始めた。


side 陽太ひなた

今日はどうしても昨日のことを引きずってしまい、外に出る気力を失くしてしまった。

外はふわふわとした明るい天気で、羨ましく感じた。

「……お腹減った」

買い物に行くだけだと自分に言い聞かせて、わざわざ遠回りの喫茶店の方向に歩き出した。

しばらく歩いていると奥から見慣れた男性が歩いてくる。

「……まぁ、覚えてないか」

特別会話もしていないし、目も合わせていないので大丈夫だろうと、そのまま通り過ぎようとした。

『あの、!』

「……」

声をかけられてしまったので振り向いた瞬間

「……っ!」

身体から電気が流れたような衝撃が走って、ゾクゾクとする背中と下辺り……そして力が入らずガクガクしている足。

これは……運命の番……聞いたことがある。

運命の相手に出会うとこれと似たような体験をするというもの。そもそもΩは特定のαと出会う為の体質でもあるのだ。

「……ぁ…ぁの」

『……』

無言の彼がこんなにも恐くなるものなのか。

いつも喫茶店で、 遠目から見て容姿は確認しているので、彼で間違いないのだが彼はもっと優しい雰囲気を纏っていた筈だ。

『お客さま……ですよね?』

「………ひ…陽太……」

『大丈夫ですか?……身体震えてますね……俺に体預けちゃって大丈夫なので……座りましょうか?』

「……うん」

気まずい空気が流れる。

僕はどうしたら良いんだろう……運命ってことは……付き合う……?……いや、でも……


『陽太さん、あの、運命の番って知っていらっしゃいますか?』

「……」

多分今感じたことの答えを聞こうとしてるんだろう……そうだよ……運命の番だよ。

どう答えるのが良いんだろう。運命の番だと、Ωだとバレたんだからどうにも出来ない気がする。

付き合うべきなんだろうか……会ったばっかりじゃないし……でも……まともに会話してこなかったし。

そもそも運命のαと出会えたなんて奇跡なんだから、喜ぶべきなんだろうか。

手の震えが止まらない。怖いという気持ちもあるが、興奮しているような混乱しているような訳が解らない。


side いつき

遠くの方から人が歩いてきたので避けようとしたのだが、あまりにも見覚えがあり過ぎてつい引き留めてしまった。

引き留めたのは良いが本人だと確信したのもあって思考が停止してしまった。

呼び止められて振り向いた彼は目をようやく合わせてくれて、その瞬間ゾクゾクとする感覚に陥った。

『……?』

「……ぁ…ぁの」

彼はもの凄く不安そうな表情で震える身体と、へたりと崩れてしまいそうな足を我慢して必死に声を紡ごうとしている。

『お客さま……ですよね?』

聞こうとしていたことをシンプルだけどやっと口に出せた。

彼は小さくでも一生懸命に声を発した。

「……ひ…陽太……」

とりあえず今にも倒れそうな体を支えて座って会話をすることにした。

何よりも今感じたことの答えというか……彼の口から聞きたいことがある。

『陽太さん、運命の番って知っていらっしゃいますか?』

迷わず彼に質問を投げ掛けた。

何も言わずにどんどん俯いて服の裾をギュゥっと掴んでいるのを見て、今の俺が怖いんだと理解した俺は……

『すみません、がっつきすぎましたね』

理性がはち切れる前にこの場から身を退こうと立ち上がって後退りした。

「待って!」

振り返ると泣き出しそうな顔をした彼が、一生懸命拳を握って言葉を紡ごうとしていた。

「……運命のことは知っています。……でも、もしそう言うのがなければ…何もなかったことになるんですし……それに僕たちはまともに会話もしていないし……」

『……俺はずっと喫茶店でのお客さまとして見てきました。……でもずっと目が合わないことが気になっていて……』

「……はい」

『どうしてこの喫茶店に毎日のように通って下さるのか知りたくて……今運命だと気付いて安心しました。』

「……ぇ?」

『俺の気持ちは嘘じゃなかったんですね……今気付きました。ずっと我慢して心に蓋をして生きていたんですね……貴方のことが……っ!』

彼におもいっきり手で口を塞がれて驚いた。

「……僕はΩだけど……その……っ、ケーキ……なんだ……だから……えっと 」

『……俺はαです。……そして……実を言うとフォークでもあります。何故二つの性が俺に向かって来たのか分からないですけど……今なら分かります。』

俺は覚悟を決めて彼をしっかりと見つめて声を出した。

『貴方に会うためだったんですね……』

「でも……僕たちは客と店員だし、それに……ずっと気になっていたのは分かるけど…でも」

『俺のこと嫌いですか、?』

「……そんなことは…ない……と思う」

俺は恐がらせないように手を握って声のトーンを合わせるように優しい雰囲気で話した。

『ずっと……貴方のことが好きだったみたいです……俺』

うるうるとした瞳で俺を見つめて、必死に答えを探そうとしている彼の手にキスをした。

『嫌なら……逃げてください……次のご来店をお待ちしていますから。』

「……!……っ……、!」

彼は全速力で逃げ出した。


『あーぁ……嫌われちゃったかな?』

君とは運命じゃなくて……奇跡なんだよ……

俺も気付かなかった気持ちに気付かせてくれた、世界でたった一人の赤い糸に繋がった人。

会えなくなるかもという不安を押し殺すように顔を覆って、しゃがみこんで俺は唸ることしか出来なかった。

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