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みら

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目黒はしばらく阿部を見つめていた。
何から話そうか考えているようにも見える。
阿部は急かさずに待った。
聞きたいと言ったのは自分なのに、いざ答えが返ってくると思うと心臓がうるさい。
やがて目黒が口を開いた。
「昨日、あべちゃんに聞かれたじゃん」
「うん」
「誰にでも優しいのかって」
阿部は小さく頷く。
「困ってる人がいたら助けたいとは思うよ。知らない人でも、できることならする」
「……うん」
「でも、それとあべちゃんにしてることは違う」
阿部は目黒を見る。
目黒は少し困ったように笑った。
「俺、知らない人に毎週ご飯作らないし」
「……作りすぎたって」
「最初だけね」
「やっぱり」
「途中からは完全にあべちゃんの分も作ってた」
分かっていた。
何度も食べていれば、さすがに気づく。
それでも本人の口から言われると、胸の奥がくすぐったい。
「仕事終わる時間が合えば一緒にご飯食べたいって思うし、カフェに行くようになったのも」
目黒が少しだけ視線を逸らした。
「あべちゃんがいるから」
「……俺が?」
「うん」
「館さんのご飯じゃなくて?」
「それも美味しいけど」
目黒が笑う。
「一番はあべちゃんに会いたいから」
阿部の頬が熱くなる。
二日酔いのせいではないことくらい、自分でも分かった。
「バーも?」
「あべちゃんいるかなって思って行く日もある」
「……そうなの?」
「そうだよ」
知らなかった。
自分だけが目黒の帰る時間を気にして。
自分だけがカフェに目黒が来ると嬉しくて。
バーで会えれば自然と隣に座って。
そんなふうに思っているのだと思っていた。
でも。
目黒も同じだった。
「この前、二人で写真撮りたいって言われた時も、結構嬉しかった」
「あれそんなに?」
「俺にとってはね」
「……そっか」
阿部は思わず俯いた。
目黒が少し笑う。
「まだ聞く?」
「聞く」
恥ずかしい。
でも、ここまで来たら全部聞きたかった。
「じゃあ昨日の」
「うん」
「キスしたのは?」
一番聞きたかったこと。
目黒の表情が少しだけ真剣になる。
「あべちゃんが抱きついたからじゃない」
「……うん」
「酔ってたからでもない」
「うん」
「俺がしたかったからした」
阿部は息を止める。
目黒はもう笑っていなかった。
まっすぐ阿部を見ている。
「ずっとしたかった」
胸が大きく鳴った。
「でも、あべちゃんは記憶なくしてて。知らない場所で、知らない人ばっかりで」
目黒はゆっくり話す。
「そんな時に俺の気持ち押しつけるのは違うと思ってた」
「……」
「だから、隣にいられればいいと思ってた」
最初にカレーを持ってきてくれた日。
何度も料理を持ってきてくれたこと。
過去を思い出したいと言った時に、急がなくていいと言ったこと。
帰り道を一緒に歩いたこと。
何度も夕飯を食べたこと。
全部。
阿部の中で一つずつ浮かぶ。
「でも昨日」
目黒が少し笑う。
「あべちゃんが、俺だけなのかって聞くから」
「……」
「期待した」
「何を?」
「もしかしたら、あべちゃんも俺のこと特別に思ってくれてるのかなって」
阿部は何も言えなくなる。
目黒の言葉が、胸の奥に一つずつ落ちてくる。
「答え合わせって」
目黒が言う。
「そういうこと」
一度息を吸う。
そして。
はっきりと言った。
「俺、あべちゃんが好きだよ」
阿部は目を見開いた。
分かっていたような気もする。
ここまで聞けば。
その答えしかない。
それでも。
直接言われるのは全然違った。
「……俺?」
「あべちゃん以外誰がいるの」
「いや……」
阿部は俯く。
顔が熱い。
「急にちゃんと言われると」
「昨日言ったら忘れるかもしれなかったから」
「忘れてないじゃん」
「うん」
目黒が少し笑った。
「よかった」
その言葉に。
阿部は昨日の夜を思い出す。
眠りかけた自分を抱きしめながら、目黒が何か言っていた。
あの時は眠くて、言葉までは聞き取れなかった。
でも。
どこか寂しそうな声だったことだけは覚えている。
「あのさ」
「ん?」
「昨日、俺が寝たあと何か言った?」
目黒の表情が一瞬止まった。
「……なんで?」
「なんとなく。声聞いた気がする」
「寝てたでしょ」
「寝てたけど」
目黒は少し迷って。
「内緒」
と笑った。
「何それ」
「全部答え合わせしたらつまんないじゃん」
「それ昨日ふっかにも言われた」
二人で少し笑う。
張り詰めていたものが、少しだけ緩んだ。
でも。
まだ終わっていない。
目黒が阿部を見る。
「俺の答えは言ったけど」
「……うん」
「今度はあべちゃんの番じゃない?」
分かっていた。
そうなる。
阿部は布団を握る。
昨日、ふっかには言えた。
酒の力を借りて。
『めめのこと、好きなのかな』
でも今は酔っていない。
逃げ道はない。
「俺は……」
言いかけて止まる。
好き。
その気持ちはもう分かっている。
だけど。
一つだけ。
怖かった。
「俺さ」
「うん」
「過去に誰か好きだったのかもしれない」
目黒は黙って聞いている。
「恋人いたかもしれないし。昨日キスされた時も、なんか……知ってる感じがした」
目黒の表情がほんの少しだけ変わる。
「前にも誰かとしたことあるんだと思う」
「……うん」
「だから」
阿部は自分の手を見る。
「全部思い出したら、今の気持ちが変わるのかなって思うと怖い」
初めて口にした。
目黒が好きだと認めたからこそ。
余計に怖くなったこと。
「昔の俺が誰を好きだったのかも分からないのに、今めめを好きになっていいのかなって」
目黒はしばらく黙っていた。
それから。
阿部の手に自分の手を重ねる。
「いいんじゃない?」
阿部が顔を上げる。
「そんな簡単?」
「今のあべちゃんが思ってることまで、昔のあべちゃんに決めてもらわなくていいでしょ」
以前から。
何度も言われてきたこと。
今が大事。
目黒はまた同じことを言う。
「もし全部思い出して、気持ちが変わったら?」
「その時はその時」
「めめは嫌じゃないの?」
「嫌だよ」
すぐ答えた。
「めちゃくちゃ嫌」
阿部は少し驚く。
目黒は苦笑した。
「でも、まだ起きてもないことで今のあべちゃん諦める方が嫌だから」
重ねられた手に、少しだけ力が入る。
「俺が好きなのは、今ここにいるあべちゃんだよ」
胸の奥が熱くなる。
阿部は目黒を見る。
もう。
迷う理由がなくなっていく。
昔の自分が誰を好きだったのか。
まだ分からない。
これから思い出すかもしれない。
それでも。
今。
帰ってくる音を待ってしまう人は目黒で。
一緒に夕飯を食べたい人も。
もっと知りたいと思う人も。
他の女の人に優しくしていたら嫌だと思う人も。
目の前にいる。
「……俺も」
阿部はゆっくり言った。
「めめが好き」
目黒の目が少し大きくなる。
その顔を見て、阿部は恥ずかしくなった。
「何」
「いや」
目黒が嬉しそうに笑う。
「もう一回言って」
「嫌」
「なんで」
「一回で聞こえたでしょ」
「聞こえたけど」
「じゃあいいじゃん」
「昨日は何回も同じじゃないって言わせたのに」
「昨日の俺は酔ってたから」
「都合いいなあ」
笑いながら。
目黒が少し近づく。
阿部の心臓がまた速くなる。
昨日とは違う。
何をされるのか。
分かっている。
「あべちゃん」
「何?」
「昨日のキスも覚えてるんだよね?」
「……覚えてる」
「じゃあ」
目黒はそこで止まった。
昨日のように。
勝手には触れない。
「していい?」
阿部は少しだけ目を逸らす。
でも。
逃げなかった。
小さく頷く。
「……うん」
目黒の手が頬に触れる。
ゆっくり顔が近づいて。
唇が重なった。
昨日より。
ずっと短い。
優しいキス。
それでも。
阿部には昨日よりずっと胸に残った。
離れたあと。
目黒が笑う。
「これで答え合わせ終わり?」
阿部は少し考えて。
首を振った。
「まだ」
「何が残ってる?」
「これから」
「これから?」
「めめのこと、まだ知らないこといっぱいあるから」
目黒は少し目を細める。
「じゃあ長くなりそうだね」
「一気に知ったらつまんないんでしょ?」
以前。
目黒に言われた言葉を返す。
目黒が笑った。
「覚えてたんだ」
「最近のことはちゃんと覚えてるよ」
「……そっか」
ほんの一瞬。
目黒の笑顔に何か別の感情が混じったような気がした。
でも。
阿部が気づくより先に。
いつもの笑顔へ戻る。
「じゃあ、これからゆっくり答え合わせしていこ」
「うん」
阿部は頷いた。
過去の答えは。
まだ何も分からない。
でも。
一つだけ。
今の自分について。
確かな答えができた。
俺は。
目黒蓮が好き。
それだけは。
もう迷わなかった。
コメント
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みらさん、第13話更新ありがとうございます🌙 「答え合わせ」の話、すごくよかったです…!目黒くんが「俺がしたかったからした」って言ったところ、ずっと我慢してたんだなって思ったら胸がぎゅっとなりました。阿部くんの「過去が分からないから怖い」って気持ちもすごく分かって、でも目黒くんが「今のあべちゃんを好き」って言い切ってくれたのがすごく沁みました…。最後の「これからゆっくり答え合わせしていこ」が優しくて、この先がすごく楽しみです🤍