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楪羽*yuzuriha*
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雪月❄️
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第六十七章 指先に残るもの
翔太💙「愛されるよりも〜♪ 愛したいマジで」
カラオケの個室に、翔太の歌声が響いていた。
慣れない酒を片手に、頬をほんのり赤く染めながら、いつもなら一杯も飲み切れない酒が、今日はやけに早くなくなっていく。翔太は半ばヤケクソのようにマイクを握りしめている。
康二🧡「しょっぴー、めっちゃ歌上手いやん」
翔太💙「初めてカラオケ来ました。今日は一晩中歌い明かしましょう」
康二🧡「お、おう……」
何をやっても上手くいかない日。
悲観したって仕方がない。
誰かに裏切られるなんて、よくある話だ。愛した人の〝愛〟が嘘だったなんて、よくある話。
翔太💙「愛されるよりもーーー!!」
康二🧡「お、おう……」
翔太💙「愛したい!!」
康二🧡「……」
翔太💙「マジで!!!」
康二🧡「何回歌うねん」
翔太は答える代わりに、テーブルに置かれたグラスを手に取った。
普段なら一口飲んだだけで顔をしかめそうな酒を、今日は躊躇うことなく喉へ流し込む。
翔太💙「……っ」
喉が熱い。
それでも、もう一度マイクを握る。
翔太💙「愛には愛でぇ〜感じ合おうよ♪恋の手触り消えないようにぃ……うゔっ……」
康二🧡「……どないしたん?情緒大丈夫そ?」
蓮の手を払った指先に、残る感触。
翔太💙「お胸が痛い」
指先じゃないところが痛む。
咄嗟に振り払った蓮の手。
驚いたように見開かれた瞳。
そして――戸惑いを孕んだ、俺を呼ぶ声が背中に刺さった。
『翔太……』
振り返ることなんて、できなかった。
あのときの蓮の顔が、何度振り払っても頭から離れない。
それなのに、脳裏に浮かぶのは蓮だけじゃなかった。
『翔太は翔太でしょ?』
亮平の優しい声。
大丈夫だと言うように笑った顔。
あの言葉も。
あの眼差しも。
全部、嘘だったのか。
指先じゃないところが痛む。
胸の奥を掴まれて、ぎゅっと握り潰されているようだった。
息をするたびに、そこだけがずきずきと痛む。
翔太💙「……ざまあみろだ。俺はもう、誰も愛さない」
康二🧡「えっ、何の話?あぁ、愛されたい方やねんなしょっぴーは」
翔太💙「……違う。愛なんて知らない。さっ次々」
康二🧡「お、おう」
翔太💙「愛のままに、わがままに僕は君だけを傷付けない♪傷ついてますけど……」
康二🧡「あかん、もう帰ろ?何があったか知らんけどゆっくり休んだほうがええ」
次の曲が始まる。
さっきまでとは違う、静かなイントロ。
翔太は目を伏せたまま、歌い始めた。
時折、声がわずかに掠れる。
それでも、歌うことをやめない。
一曲歌い終える頃には、翔太の目元がうっすらと赤くなっていた。
けれど本人は、それを隠すようにグラスへ手を伸ばす。
翔太💙「……次」
康二🧡「おう」
康二は、それ以上何も聞かなかった。
どうしてそんな歌ばかり選ぶのか。
どうして酒なんて慣れていないくせに、そんなに飲むのか。
きっと、聞こうと思えば聞けた。
けれど――。
康二🧡「次、俺も歌おかなぁ」
いつもと変わらない調子で笑って、リモコンを手に取る。
その隣で、翔太も小さく笑った。
けれど――その身体が、ふらりと康二の肩へ傾いた。
康二🧡「……しょっぴー?」
翔太💙「ん……」
返事ともつかない声を漏らし、翔太はそのまま康二の肩に頬を預ける。
慣れない酒のせいなのか。
それとも、張り詰めていたものが切れたのか。
康二は驚いたように目を瞬かせたが、何も言わなかった。
翔太💙「……安心するのにな……」
康二🧡「ん?」
翔太💙「…………」
目を閉じる。
肩越しに伝わる人の温もりが、今はただ心地よかった。
何も聞かない。
何も知らない。
だから――安心できる。
翔太💙「……全部、嘘だったなんて……」
ぽつりと零れた声は、カラオケの音に紛れて消えた。
康二は何も聞かなかったふりをして、ただ肩を貸し続けた。
その目にはまだ、消えない涙が滲んでいた。
◇
◇
蓮「おい、今ならまだ間に合うぞ」
亮平「は? お前こそ」
静まり返る翔太の部屋。
主人不在の部屋に、長身の男が二人。
肩を並べるようにベッドの端へ座り込んでいた。
廊下から足音が聞こえるたび、二人の視線が同時に扉へ向く。
けれど――何度目かの足音も、通り過ぎていった。
蓮 🖤「……まだ帰ってこないな」
亮平💚「うん」
蓮 🖤「明らかに今日はおかしかった」
亮平💚「朝は普通だったよ?」
蓮 🖤「朝は、だろ」
亮平💚「……そうだけど」
蓮が腕を組む。
亮平も俯いたまま、膝の上で指を組み直した。
二人とも、翔太が何処にいるのか分からない。
ただ、いつもなら聞こえてくるはずの足音を待っている。
蓮 🖤「……連絡は?」
亮平💚「してない」
蓮 🖤「なんで」
亮平💚「お前こそ」
蓮 🖤「…………」
亮平💚「…………」
しばしの沈黙。
蓮 🖤「……送ったら?」
亮平💚「お前が送れば?」
蓮 🖤「俺は――」
そこで言葉が途切れた。
脳裏に浮かんだのは、今日の翔太の顔。
伸ばした手を振り払われた瞬間の、怯えたような瞳。
そして――
『翔太……』
呼び止めることしかできなかった自分の声は頼りなく弱々しかった。腕を取って引き止める事もできただろうに、あの怯えた目に足が竦んで踏み出せなかった。
蓮 🖤「……嫌われた、か」
亮平💚「…………」
亮平は答えなかった。
代わりに、静かに目を伏せる。
『翔太は翔太でしょ?』
そう言ったときの翔太の顔が、頭から離れない。
亮平💚「……僕も、分からない」
彼の背中に放った「翔太」という声は、まるで存在しない人の名前を呼んだかのように、どこにも届かず消え失せた。
いつもなら、どんなことでも翔太の気持ちを汲み取ってやれると思っていた。
けれど今日は――
何ひとつ、分からなかった。
亮平💚「まさか、浮気とか?」
蓮 🖤「だとすれば、いい度胸だ」
亮平💚「……お前、何するつもり?」
蓮 🖤「別に」
亮平💚「その顔で『別に』は怖いんだけど」
蓮 🖤「…………」
亮平💚「でも、翔太が浮気なんてするかな?」
蓮 🖤「しない」
即答だった。
亮平💚「……だよね」
蓮 🖤「あいつは、そういうことをするような奴じゃない」
亮平💚「うん」
二人の間に、再び沈黙が落ちる。
けれど――
亮平💚「じゃあ、何で帰ってこないんだろう」
蓮 🖤「…………」
答えは、出てこなかった。
蓮 🖤「……当直に戻る」
亮平💚「うん」
蓮は立ち上がると、乱れた白衣の裾を軽く整えた。
扉へ向かいかけて――ふと足を止める。
蓮 🖤「翔太が戻ったら、連絡して」
亮平💚「……分かった」
それだけ言い残し、蓮は部屋を出ていった。
カチャリ。
扉が閉まる。
途端に、部屋がひどく広く感じられた。
亮平は一人、ベッドの端に座ったまま動かなかった。
誰もいない部屋。
主のいないベッド。
机の上には、翔太が置きっぱなしにした小さな私物がいくつか残っている。
いつもなら気にも留めないものばかりなのに、今はそれさえも妙に目についた。
亮平💚「……翔太」
呼んでみても、返事はない。
当然だ。
分かっているのに、もう一度、扉へ視線を向ける。
戻ってくる気配はない。
亮平は小さく息を吐いた。
亮平💚「……どこにいるんだよ」
時計を見る。
時刻は、とうに日付を跨いでいた。
さすがにもう、帰ってきてもいい頃だ。
そう思うのに、胸の奥に嫌な予感だけが残っている。
亮平は立ち上がり、部屋の明かりを落とした。
暗闇の中で、窓の外に浮かぶ病院の灯りだけがぼんやりと滲んでいた。
◇
◇
深夜の病棟は、昼間とはまるで別の場所だった。
人の気配が消えた廊下。
等間隔に並んだ白い照明が、誰もいない床をただ照らしている。
遠くで、機械の電子音がひとつ鳴った。
ピッ。
しばらくして、また。
ピッ……。
それ以外には、何も聞こえない。
ナースステーションの明かりも最低限に落とされ、夜勤の看護師たちは必要な声だけを交わしている。
コツ……コツ……。
誰かの足音が、長い廊下の向こうから聞こえてきた。
けれど、その姿は見えない。
音だけが近づいてきて――
やがて、また遠ざかっていく。
深夜の病院には、昼間には存在しない空白がある。
人が眠り、声が消え、誰もが自分の居場所へ戻っていく時間。
その静けさの中では、普段なら気にも留めない小さな音さえ、妙に大きく感じられた。
カタン。
どこかで何かが動いた。
蓮 🖤「…………」
夜勤へ戻った蓮は、足を止めた。
気のせいか。
そう思いながら、再び歩き出す。
廊下を曲がる。
その先に、ひとつだけ明かりが見えた。
薄暗い病棟の中で、そこだけがぼんやりと光を落としている。
蓮は目を細めた。
消灯時間を過ぎた病室。
それなのに――
扉の下から、細い光が漏れている。
誰かいるのか?
蓮は無意識に、その光へ足を向けた。
一歩。
また一歩。
静まり返った廊下に、自分の足音だけが響く。
蓮 🖤「…………」
足が止まる。
どうしてだろう。
ただ灯りがついているだけなのに。
なぜか、胸の奥がざわついた。
蓮はしばらくその扉を見つめていた。
そして――
ゆっくりと、扉へ手を伸ばした。
その時だった。
「そう、上手だね――」
蓮 🖤「…………」
伸ばしかけた指先が止まる。
指先に、まだあの熱が残っている。
怯えるように払われた手。
掴めなかった、愛おしい人の悲しい顔が頭をよぎった。
そして――
「大丈夫だよ、力を抜いて。すぐに気持ち良くなるから――」
コメント
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なんだなんだ。何かしら💙絡みの事件の予感😕
💙担はみんな、どこかうじうじ、いじいじしてる💙が好きだよね私もそう。あんなにイケてるのに人見知りだったり照れ屋だったり自信がないのマジで可愛いよね💙💙💙
