「そうだ。今暇?」
拓海にそう言われて、こくりと頷く。彼は済ました顔で、肩の後ろに腕をかけてきた。
「よし、外に出ようぜ。さっぱりしたし、連れていきたい場所があるんだ」
そう言われて、胸が高まってしまう。彼しか知らない場所に行くんだと思えば思うほど、ワクワクが止まらない。どこに連れていってもらえるんだろうか?
彼は適当なパーカーとズボンを見にまとい、帽子をかぶってサングラスをつける。僕はそのままの私服姿で、二人して部屋を出る。
エレベーターに乗って一階まで降り、そこからゆっくりと歩いた。どうやらこのマンションの近くに行くらしい。
暇だったので少し話をする。僕は一番気になることを、明るくて朗らかな顔で尋ねてみた。
「拓海は、どうしてアイドルになったの?」
「そうだな……有名になりたかったから……だと思う。でも最近は有名になりすぎて、ちょっと飽きてきたんだ。他のメンバーには言ったことないけどさ」
「アイドルになれて、よかった?」
「どう……かな」
彼はこれ以上聞いてほしくないオーラを醸し出し始めたので、これ以上アイドルについて聞くのはやめた。
その後も色々なたわいない会話をして、楽しく過ごす。推しのことを色々知られて、とても興奮。頬を赤らめてしまう。もっと彼のことが知りたかった。
「まあ、ここでいいか」
短い橋の真ん中で足を止めて、両手を手すりにつける。僕もその横に立った。彼はチケットを渡してくる。少し目線を逸らして、照れている気がした。
「これ、やるよ」
「えっ?」
受け取ったのは、『ライトスターズ』のライブチケットだった。ライブに行ったことがない僕は、眼を輝かせてチケットを見る。その場ではしゃいだ。
その様子を見た拓海は、自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべていた。こんな微笑む姿、初めて見たな。
「ライブ行ったことないだろ?やるよ」
「ありがとう!絶対ライブ、行くね!」
「ああ、絶対来いよ」
二人が口約束をして歩き出し、橋を渡り切り少し歩く。彼が立ち止まって僕の方を見てきた。
「ライブのスタジオに来いよ」
「え?スタジオ?」
「入れるかわかんないけど、お前俺の恋人だろ?リハーサル、見に来いよ」
「りはー!?」
驚きのあまり肩を振るわせた。目を見開き、口をぽっかりと開ける。まさか生のリハーサルが見られるなんて、夢のようだ。ドキドキが止まらなくて、じっと彼の顔を見てしまう。彼の方が少し身長が高いので、少し顎を上げるが。
当然オッケーの合図を体で表現したら、彼が吹き出していた。初めて見た顔で、思わず顔を両手で隠してしまう。
「ぷっ、言葉で大丈夫だって。相変わらず行動面白れえ……」
「は、恥ずかし……」
「そういうところも可愛いよ」
「か、揶揄うなよ」
彼が楽しそうにしていて何よりだ。応援していた時はクールで近寄りがたい感じのイケメン男性だと思っていたけど、交流が深まれば付き合いやすくて優しい人だとわかる。
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