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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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リュックを購入した俺は、続けて水筒に服を購入した。どちらも狩猟者用の物だが、服に関しては私服として使えそうな見た目の物も二着買った。だから、上下で合計三着ずつだ。高かった。肌着はなんか色々あったが、一番着心地が良さそうなものを三着買った。こっちは大して高くは無かった。


「あと、靴も買うか」


今の俺は逆に高級そうな革の靴を履いているが、現代の服装と合わせると俺には不相応だ。普通のというか、現代の靴を買っておこう。


「靴は……こっちか」


靴のメーカーだけでも店が無数にあるが、ここから一番近い店に行くことにした。と、そこに向かっている途中で一際大きな店を見つけた。どうやら宝石を売っているようだ。


「宝石屋か。こっちでも宝石を使うんだな」


向こうの世界とこっちの世界。宝石の採取量は桁違いだろうし、地球の方が宝石を触媒にした魔術の手軽さは圧倒的に上だろう。


「……ちょっと見てみるか」


俺は現代に似つかわしくない見張りが二人も居るような店に入り、並ぶ宝石達を物色することにした。


「あぁ、やっぱりそうか」


予想はしていたが、ショーケースに納められた宝石達には既に術式が込められている。魔力を送ればそのまま魔術が発動するようになっている。街にコボルトが現れた時も思ったが、どうやらこの世界はまだ魔術を自分用に調整する技術が一般化していないようだ。


「教本魔術、か」


誰でも使えるそのままの形の魔術。使用には基本的に詠唱が必要になるが、魔力さえあれば誰でも使用可能であり、非常に簡単だ。向こうではこれを使えるようになるのが魔術の入門と言われていた。とはいえ、実戦であれば欠点は非常に多い。本人用に最適化されていないので詠唱が必要など無駄が多いし、威力も低くコストもかかる。何より、術式自体が脆弱になりやすい。本人の魔力と術式自体の結び付きが弱いので魔術が崩壊しやすいのだ。腕の良い魔術士ならば大抵の教本魔術は容易く無効化できる。


「……とはいえ」


異界が現れて約三十年。魔術はまだまだ発展途上だ。存在自体は昔からあったのかもしれないが、寧ろこの短期間でここまで発達したのは素晴らしいことかもしれない。


「人が多いな」


どうやら、この宝石店は意外に人気らしい。いや、意外でも無いか。大して魔術の知識が無くとも魔術が使えるんだ。色んな人間が求めるのも当然かもしれない。


「とはいえ、やはり高いな」


術式が刻まれ、特殊な加工がされている分、通常の宝石よりもかなり高いように思える。それでも買い求める人が多いのはそれだけ魅力があるのと、狩猟者自体の稼ぎの良さがあるのだろう。


「あぁ……なるほどな、こっちはまだ術式が込められていないコーナーか」


店の奥の方には、やり方を知っていれば簡単に術式を込めることが出来るように加工されてはいるが、まだ術式自体は込められていないコーナーがあった。しかし、宝石の出来自体は向こうの世界よりも良さそうだな。単純に加工技術が高いのかも知れない。


「……まぁ、出るか」


分かってはいたが、買う物は無さそうだ。俺は店の出入り口に歩いていく……途中で、足を止めた。


「へぇ、これ良いわね」


帽子からオレンジ色の長い髪を垂らしている長身の女。流暢な日本語だが、マスクで隠されたその顔付きは少し日本人離れしているように思えた。ハーフかも知れない。そしてこいつ、黒岬程では無いが、魔素が多いな。それに、魔力も。こっちの基準だと結構な手練れだろう。


「んー、偶には来るものね。こういう店も」


女の視線の先には店の中央にある柱状のショーケースに飾られた最も高価な宝石があった。ルビーのように見えるこれにはまだ術式が刻まれていない。つまり、この女は自分で術式を刻む技術があるのだろう。


「あ、店員さん。これ貰って良いかしら?」


「えぇと、こちらですか? こちらの宝石はご覧の価格となっておりまして……」


店員の言葉で俺も思わず桁を数える。一、十、百、千……待て、三千万?


「知ってるわ。カードで良いかしら?」


女は黒いカードをチラリと見せた。まさか……ブラックカードって奴か? この宝石に興味を示す時点でそんな気はしたが、よっぽどな金持ちらしい。


「は、はい。勿論構いません。先ずはこちらへ……」


僅かに動揺を滲ませた表情で店員は女を奥へと導いた。


「な、なぁ、あの人……カーラ・エバンスじゃね?」

「は? まさか、宝石使いか? どこだよ。居なくね?」

「えっ!? カーラ様? カーラ様どこ……?」


どうやら、有名人らしいな。まぁ、あれだけ金持ちで魔素の多いハンターなら知名度があってもおかしくない。


「皆様、申し訳ありませんが少しだけ離れて下さい」


ざわざわと噂する人々を押し退け、現れた店員がショーケースからルビーを丁寧に、慎重に取り出す。


「おぉ……」

「ルビー、綺麗だな……」

「あの魔宝石、三千万だってよ。やべぇな」


店員が手袋をした手で取り出したルビーを、そっと白い布に乗せた瞬間。黒い魔力の波が施設内を通り過ぎた。

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