放課後、昇降口。
出水が、靴を履こうとしていたナマエの前に立った。
 「……ナマエ、話、いいか?」
 『……うん?』
 (あ……嫌な予感)
 彼の声は静かだったけど、普段よりずっと真剣で。
 「今日、教室で変な噂聞いたんだ。……小学校のころの話、ってやつ」
 一瞬で心臓がドクンと跳ねた。
顔から血の気が引いていくのが自分でもわかる。
 『……あれ、全部、違うから』
 ナマエは食い気味に言った。
それはもう、ほとんど反射だった。
 『男子に媚びてたとか、不潔だったとか、ぶりっ子だったとか……! 違うよ……そんなんじゃない。私、そんなこと――』
 「……ああ、うん、わかってるよ」
 『……え?』
 「最初から信じてねーし。そんなの、ナマエっぽくねーしな」
 目の前の彼は、拍子抜けするくらい、あっさりと笑った。
 「……でも、なんでそんな必死なんだよ」
 『……っ、だって、先輩には、知られたくなかった』
 「……なんで?」
 『……バカにされるかと思った。引かれるかと思った。……嫌われるかと思った』
 嘘。好きだから嫌われたくなくて。
言葉にした瞬間、目の奥が熱くなる。
でも、出水はそのまま優しく言った。
 「俺、そんなに薄っぺらくねーから。つーか、ナマエのこと、ちゃんと見てきたつもりだし」
 『……先輩』
 「泣きそうな顔すんなよ。信じてるから」
 その言葉に、ナマエは思わず唇を噛みしめて、俯いた。
 (……ずるいなぁ、先輩)
 誰にも言えなかった不安を、たった一言で吹き飛ばすなんて。
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