(……怖い…。)ドアの裏で紫苑は
緊張と不安で押しつぶされそうだった。
大きく深呼吸をし両手を握りしめ
身体の震えを止める
ーコンコン。ー
〖お話中失礼します。みなさん。初めまして。
ここからは私が話します。 〗
そこには紫苑が立っていた。
「紫苑……。」
ー蓮、ごめんね。勝手に入って来て。
どうか ……最後まで見守っててー
〖マネージャーさんにご協力頂いて、
皆さんと目黒さんが話すと伺ったので、
お話の機会を頂きました。
先程、こちらの事務所と
マネージメント契約を交わし、
皆さんの後輩となりました。
西園寺 紫苑と申します。〗
(え?西園寺?)蓮は驚いた。
驚いている蓮に気づいていながら
素知らぬ素振りで話を続けていく。
〖プロデューサーの西園寺さんの
プロデュースで楽曲を出すことになり、
ミニアルバムという形で世の中に
出すことになります。
先程の話の通り、
残念ながら、私は脳に腫瘍があり、
神経を圧迫している為
摘出手術は出来ないとの医師の判断で、
いつ、自分がどうなるか分からない状況です。
形になる前に自分を
無くしてしまうかもしれません。
それでも歌が好きで夢を諦められず、
足掻いている自分がいます。
レコーディングは3ヶ月。この期間だけ、
メンバーの皆さんから
目黒さんをお借りしたいんです。
なるべく早くお返しできるよう
努力は惜しみません。
私はもちろん、目黒さんも体調に
支障をきたさないよう
医師の判断を得ながら
制作を行っていきます。
もちろん従来の9人で行うお仕事は
本人の負担の無いよう継続して頂くつもりです。
目黒さんのファンの方達を悲しませないように
休まないで遂行出来るよう、
スケジュール調整を行っていきますので、
どうかお願いします。〗
紫苑は頭を下げた。
蓮が驚きを隠せない様子で
紫苑を見つめて口を開く。
「紫苑、何言ってんだよ….
西園寺さんとの約束は?
レコーディングは半年だっただろ?
3ヶ月で出来るわけ無い…。」
〖出来るよ。私達なら。〗
フワッと花が咲くように笑う。
その笑顔に不安を拭えない蓮。
(何言って……?!)
岩:バックアップは任せとけ。
深:強い娘だね。めめが惚れただけあるわ。
舘:2人とも無理はしないでね
阿:なんか負けられないって思っちゃった。
向:きっとええもんが出来るわ。頑張りや。
佐:これが愛の力か…ニャハ。羨ましいぞ!蓮
ラ:めめのことをこんなに
想ってくれる人はきっと
メンバー・ファン以外で他に居ないね。
めめも、もともとベースは体力あるから
大丈夫でしょ?オレは心配しないよ♡ハハッ
険しい顔をして苦言を呈すのは渡辺翔太。
渡:みんな 言ってること甘くないか?
確かにめめの言ってることは
正論だし、それが出来れば凄いことだと思う。
でも身体のことを考えれば、
2人にとってかなり
ハードなスケジュールじゃないのか?
特に目黒、お前だってまだ無理出来る
身体じゃねえんだろ?ただでさえ
半年でも強行スケジュールなのに…。』
翔太は誰より蓮が
我慢して無理することを知っている。
紫苑とは初対面だが
なんとなく蓮と同じ匂いがしてる。
見えない未来と
分からない不安で堪らないのだ。
蓮は翔太の想いを汲み取るように
「うん。誰よりメンバーを大切に、
見守ってきてくれたからこそのしょっぴ~の
意見だよね?ありがとうᵔᢦᵔ
……でも。今までみたいに
皆に守られてるだけじゃ居られない…。
オレにも守りたいものが、ここに出来たから。」
蓮……。
紫苑のぱっちりおめめの縁には
今にも溢れんばかりの大粒の涙。
紫苑の顔と蓮の顔を交互に見ながら
翔太は舌打ちをする。
〖(・д・)チッ……そこまで腹が決まってんなら
これ以上もう何にも言わねぇよ。〗
しょっぴ~のお墨付きも貰えて、
皆の祝福の声。一同の顔に幸せが満ちていく。
事務所から出る時、
【今日は2人で帰るから】
とマネージャーを断り、
タクシーに乗り込む。
「すみません。ここへお願いします。」
小さな紙を見せる。
ーかしこまりました。ー
タクシーは静かに走り出す。
紫苑の手を握ると、キュッと握り返してくれる。
2人見つめあって微笑みあう。
これがどれだけ幸せな事なのか…。
蓮はこの幸せを噛み締めていた。
キラキラ流れる街の灯りを横目に
今にも意識を手放しそうな
彼女の頭を自分の方へ倒し、
肩にもたれかからせる。
「疲れたでしょ?着くまで寝てていいよ。」
ううん、大丈夫…。呟く声に張りがなく、
ムリしてるなって分かる。
「ダメ。寝る。どこに向かってるか、
知られたくない…だから…ね?」
優しく諭す。
そしてまた手を繋ぎ直し、
反対の手で肩をトントンと優しく叩くと、
紫苑は緊張が解けたのか直ぐに眠りについた。
寝顔を見ながらカワイイと頬を緩め、
頭をそっと撫で、小さな声でオヤスミと呟いた。
車が到着しても、紫苑は起きる気配がない。
自分側の扉を開けてもらうようお願いし、
運転手に小さな声で
「すみません少し待っててください。」と告げ、
彼女を車に残し荷物を先に入れに行く。
冷たい風が車内に扉を開けた瞬間足元を通る。
……んっ?!まだ曖昧な視界の中
まばたきを何度か繰り返し…
窓の外に蓮の背中が離れていくのが見えた。
アレ……?着…い…た……?
れ…ん……どこ…行く…の?
ポヤポヤしていると駆け足で戻ってくる
蓮の姿が見える。
「あ、起きた?ᵔᢦᵔ着いたよ。行こう!」
運転手にお礼を言って車を降りる。
車が発進するのを確認すると、「よっ!」
と言って紫苑をお姫様抱っこで抱える。
声にならない声で驚く紫苑。
ジタバタする紫苑に
「暴れないで。好きな人が出来たら
1度やってみたかったの。
✌(・∀・)ノイェ-イ!✌
そのまま寝ててくれたら良かったのに…。
しかし、軽いね。ちゃんと食べれてる?」
『ちょ、ちょっと!蓮恥ずかしいから…』
顔を赤くして照れる紫苑を
尚更 愛おしむ様に
「いいから抱きしめられといて」
と言って蓮は歩き出す。
紫苑も半ば諦めるように両手で顔を隠すように
蓮の首元に手を回ししがみつく。
耳元で(それでよし♡お姫様♡)と呟く声に
また更に顔が赤くなるのが
分かる紫苑なのでした。
キングサイズのベッドに
ポスッと降ろされ座る。
『ここは?』場所も部屋も新しい環境からか
キョロキョロする。
その様子が可愛くてニヤニヤが
止まらない蓮。
「西園寺さんが用意してくれた二人のお家。
病院も近くにあって何かあれば
医者もすぐ駆けつけてくれる。安心して。
レコーディングに集中できるように
整えてくれた。
とりあえず今日は疲れたからもう休む?」
蓮の問いかけに、また顔を赤らめる。
「あれぇ?なんか変な
想像してる?( ̄▽ ̄)笑」
『いや、そ、そうじゃなくて……。』
あ、そうだ。と紫苑が立ち上がる。
『お風呂!お風呂入ってくる。
メイクも落としたいし』
歩き出そうとする紫苑の腕を掴む。
「ふふっ。分かった、用意してくるから
待ってて。」と部屋を出ていく。
ドアを閉めてニヤついてしまう。
(ヤバっ!可愛すぎる……。
オレ…理性保っていられるかな?!)
耳まで赤くなる蓮。
バスルームでお湯張りをし、
石鹸の香りのバブルバスオイルを垂らす。
キッチンに向かい浄水器から
お湯をポットへ入れ
コーヒーを作る。
1口飲むと肩の力が抜けるのが分かる。
無意識に緊張してたのが分かり
思わず笑ってしまった。
カチャ、と扉の開く音がした。
紫苑が部屋から出てくる。目線が合うと、
『蓮、トイレどこ?』
「そこの2つ目のドアだよ。
お風呂もう少し待ってて。」
『ん。ありがと。』
こんな日常会話ですら
愛おしく思えてしまう。
トイレから出てきた紫苑が、
私もなんか飲みたいと言うので、椅子に座らせ、
お揃いのマグカップにホットミルクを
作ってあげる。
なんか子供扱いしてない?と言うので
ブランデーを2、3滴垂らし
お風呂前だから少しねと、言うと
ニコッと笑顔になる。
ツヤツヤの唇がマグカップに付いて
コクンと喉を鳴らしふぅ、と
カワイイ声と
無防備な顔にたまらなくなる。
くくくっと笑う蓮。
『??』クリクリの目が更に大きく開かれ
上目遣いになった時には、
紫苑の顔の目前に蓮の顔があった。
チュッ!
「白いヒゲ、付いてた。
……ん…ホットミルク甘かったかな?(笑)」
『○×△☆♯♭●□▲★※!!』
(もう!心臓に悪い!!)
今日はいつも以上に顔が赤くなる率が高くて、
ドギマギさせらせてる。
触れ合うカッコイイ蓮はまるで絵本から
抜け出てきたような王子様のよう。
•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪
「あ、お風呂湧いたよ。入っておいで。
スーツケースお風呂場の所に置いてあるから
着替えそこから取ってね。」
もう~…手際良すぎ。なんか私ばっかり
もて遊ばれてる気がしてちょっと悔しい。
ミルクを飲み干し、
シンクへマグを片付けて
仕返しのつもりで蓮のジャケットの
襟を掴んでこっちからキスしてやった。
私だってやられっぱなしじゃないんだからね!
パタパタとバスルームへ入っていく。
もちろんバスルームの鍵を閉めて。
蓮は呆然としていた。
えっ?!今…何が起こった?
待って?!紫苑からキスされた?
なに?!……?!
めちゃくちゃ嬉しいんだけど!!歓
ふわっと香るキンモクセイの
紫苑の香りが
まだ蓮の周りに残っている。
しばらくそこから動けないでいると、
携帯にメールが届く。
〖無事ついたかな?
明日は午後にでも会いに行くよ
曲の打ち合わせしよう。〗西園寺からだ。
分かりました。と返信をし、
シンクに残ったマグカップを2つ洗って
ベットルームに戻る。荷解きを終える頃
紫苑がお風呂から戻ってくる。
「俺も入ってくるけど、
先に休んでていいからね。」と言い残される。
出ていく蓮の耳は赤くなっていた。
ちょっとは反撃出来たみたい(笑)やった✌️
色々疲れていたみたいで、
ベットに潜り込んだら
直ぐに意識を手放してしまった。
ー続くー
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