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パパイア 様より、鎌倉×日本





















「さあ日本、“家”に帰ろう」

何代前かもわからないほど昔のご先祖様。

あの人は僕を見て、そう言った。




いくつの頃だったかは忘れたが、そういうモノを視る力があった僕は、ご先祖様たちが眠るお墓へ両親に連れられる。

ご先祖様たちはみんな、輝かしい功績を残したんだって。

何か教われたらいいねって、お母さんもお父さんも善意の気持ちで連れて行ってくれた。

最初は軍服を着た背の高いご先祖様。

なんとなく怖くて、その人の前では動けなかった。

次は和服姿の落ち着いたご先祖様。

見透かされるような目が嫌で、早くその場を離れた。

その次は刀を持って鎧を着たご先祖様。

チラリと見ただけなのに舌打ちされて、すごく怖かった。

そのまた次は、同じく刀を持ったご先祖様。

会った?見た?中では1番まともそうに見えてから、挨拶をした。

「は、はじめまして!ボク、日本っていいます!あ、あなたは、ボクのごせんぞさまですか?」

僕とご先祖様の会話を邪魔しないようにと、両親は離れていく。

そんなことにも気が付かず、純粋な瞳で半透明のご先祖様を見つめていた。

ご先祖様は僕の周りを歩いて何かを確かめると、チッと舌打ちを一つ。

びくっと体を震わせれば、地獄の鬼のような低い声でこう言った。

「情けない…それでも私の子孫か?」

と。

秋も深まっていた午後。

枯葉混じりに乾いた風が吹き、僕の服を揺らす。

「は、はい…日本国のおやしきでくらしてます…」

寒さのせいか、恐怖のせいか、 カタカタと震える自分。

冷たい目で見つめられ、また悪魔のような声で、ご先祖様は言葉を紡ぐ。

「お前の三つ前の世代はまだマシだったが、それから100年も経てばこんなものか…なんと情け無い…」

三つ前の世代といえば、ちょうど軍服のご先祖様のことだ。

そんな戦時中で覚悟が決まっているようなやつと、現代の平和な僕を比べれば、それはまあ情けなくもなるだろう。

そんなに血気盛んになったところで、意味がないのだから。

だが、古い考えしか持っていなかったご先祖様は気に食わなかったらしい。

冷たい秋風が僕の周りに集まり始め、大量の枯葉に打たれる。

「私が鍛え直してやろう、感謝しなさい」

次の瞬間、僕の視界に墓地はなかった。

















目を開くと、そこはどこかのお屋敷。

自分の家よりは小さいが、それでも立派と言えるような…趣のある建物だった。

「ここ、どこ…?」

辺りを見回しても両親はいない。

ザッザッと葉を踏む音が聞こえて、後ろを振り向いた。

「ごせんぞさま…?」

「御名答、私の名は鎌倉幕府。お前の先祖と呼ばれるものだ」

和装と刀がよく似合っていたその人は、まず自己紹介や説明をし始める。

何が何だかわからなかったが、まとめるとこうだ。

・僕があまりに腑抜けているから、成人するまで鎌倉様が直接面倒を見ることにした

・この場所は鎌倉様などの亡者や、認められた者しか入れない特別な死後の空間である

・基本的に面倒を見るのは鎌倉様だが、時に他のご先祖様による教育も行うことになった

とのこと。

何勝手に決めてんだって、大人なら思うことだろう。

だがしかし、その当時は齢10にも満たない少年なのだ。

怖くはあるが、凄い人なんだって教えられてきたご先祖様に見込まれて気がして、むしろ少しワクワクしていた。

ここで強く反発すれば、まだ現世へ、両親の元へ帰ることができたのかもしれない。

一度認めてしまっては遅いのだ。

例え子供であろうが、騙されようが、条件を飲んだ時点で確定した事実になる。



まず、僕は鎌倉様に連れられて屋敷へと入った。

一族の死者たちが住まう屋敷らしいが、なにしろ自由奔放で身勝手な者ばかりだから、鎌倉様や江戸様くらいしか住っていないらしい。

なので、人数に反してそこまで広くは作っていないそうだ。

鎌倉様は何かの用意をすると言って、屋敷の案内は、代わりに江戸様が命じられていた。

「お前も災難だな、あの鎌倉殿に魅入られるなんて」

「?」

やっぱり見透かされるような目が苦手だとは思ったものの、話してみれば気にならなくなり、意外にも話は弾んだ。

「お前が来たのは急だが、部屋は余っておる。ここが今日からお前の部屋になるから、場所をよく覚えておくんだぞ」

『日本』と自身の名が彫られた木のプレートを取り付け、江戸様は部屋へ入れてくれた。

「服はそのうち、平安殿が用意してくれるだろう。棚や机は好きに使っていいそうだが、何か仕舞うなら整頓しておけよ」

「わかりました!」

「うむ、返事のできる良い子は好きだぞ」

そう言って頭を撫でられ、僕は親がいなくてもなんとかなるかもしれないという幻想を抱き始める。

他にも誰々の部屋はここだとか、台所の位置はとか、風呂はここにあるとか、江戸様は広い屋敷中の色々なところを案内してくれた。


ようやく必要な箇所を回り終わったとき、江戸様とは別れて、鎌倉様のお部屋に連れて行かれた。

「お前には文武両道を体現してもらわなくてはならぬ。そうでなくては、この私の子孫とは言えんのでな」

冷たく言い放つ鎌倉様は僕を机の前に正座させ、巻物を広げる。

平仮名、片仮名、漢字や読み方、その由来であったり、使い方であったり、ずらーっと書いてあるものだ。

「これを全て覚えろ。まずはそこからだ」

「え…?」

鎌倉様を見つめた僕の顔には、この大量の文字を全て?と、書いていただろう。

「なんだ?私に、先祖に歯向かう気か?」

「ひっ…ご、ごめんなさいっ…すぐおぼえます…!」

キッと睨みつける目に恐れをなして、僕は巻物が広がった机に向かった。

でも、見ただけで覚えられたら苦労はない。

「文字は書いて覚えるといい。紙と万年筆を持ってきてやろう」

「あ、ありがとうございます… 」

江戸様から教わった通り、礼儀に気をつければ鎌倉様はお優しい人だ。

子供は素直な生き物で、一度本能で学習したものは忘れないものだった。

恐怖を感じ、ご先祖様に従わねばならないと学んだ今、本来なら少しずつ学ぶものを一気に覚えようするのも当然。

その日は手に合わない万年筆でインクを垂らしながら、タコができても、目が回っても、部屋に戻れと言われるまで、字を見て読んで書いて覚え続けた。

書き順を間違えて叩かれて、送り仮名を間違えて叩かれて、本気ではないのだろうが、それでも十分痛い拳を受けさせられる。

時が経つごとに紙と肉体に増えていったあざ。

頭がパンクしてしまいそうなほど、知恵熱が出るほど頑張って、覚えられたのは約半分。

明日も、明後日もそのまた次の日も頑張らされると思ったら、気が遠くなる。

だけど、今日はここまでと言われた後に飴玉を渡された。

「よく頑張ったな。勉学のあとは甘味に限る。包み紙は捨ててやるから、ここで食べていけば良い」

「いいんですか?」

「他でもない私が言うのだから、大人しく食え。それを食べて明日からも励むように」

「あ、ありがとうございますっ!!」

きらりと電灯の光に照らされて、飴玉は僕の手のひらに転がる。

ぱくっと一口で口に含めば、甘い甘い砂糖が沁みた。

少し変な味もしたが、糖に飢えた頭は、それを異常とは捉えない。

包み紙を鎌倉様に渡して、先ほどよりは軽くなった気がする体を引きずって部屋に戻り、少し硬くて埃っぽい布団に入る。

小さな灯り窓からは月の光が差し込んで、お母さんの暖かい手を思い出しながら、僕の1日目は終わった。









幾年か経って、もう僕は10歳だ。

その時にはもう両親の声なんて忘れ、その代わりに知識を吸収していた。

誰が見ても美しい文字を書き、暇があれば本を読み、弓道だって剣道だってそれなりの腕。

まだ室町様にも及ばないが、江戸様は10の子供にしてはできていると褒めてくださった。

鎌倉様は、よく褒めてくださる方ではない。

褒めてほしくて必死に修行や勉強をしても、また次の知識を詰め込まされるだけだ。

あの人が褒めてくれるのは、飴玉を食べた時。

最初は妙な味がしていたものの、舌が慣れたのか甘い飴はただ美味しく感じていて、その飴玉は修行や勉強の終わりにいつもくださるものだ。

あの飴玉は、鎌倉様にとって成長したなという言葉の代わりだと受け取っている。

だから飴玉を貰うたび、食べるたび、甘さと嬉しさで笑うんだ。

殴られた跡が響こうと、万年筆や竹刀や弓を握り続けた手が痛もうと、そんなことで笑っていないとおかしくなりそうだ。

鎌倉様は厳しい。

本当に厳しい。

ある時、滝行をさせられて寝込んだことがあった。

高熱を出して、生死を彷徨うレベルの重症。

それでも鎌倉様は「立て」と一言言って、僕を外へ連れ出し、弓を握らせた。

当然ながら当たるはずもなかったのだが、的中でなければ屋敷へ戻ることすら許されず。

意識が朦朧とする中で、鎌倉様の冷たい眼差しだけを覚えている。

江戸様はその後に看病してくださったが、結局江戸様も鎌倉様より後の代だから。

止めるなんてことは一切なく、むしろ指示されたなら僕を床から引き摺り出すこともあった。

唯一の味方かと思っていた平安様はただのサイコパスで、目の前で小さな子供が殴られているのを見ながら和歌を詠むイカれっぷり。

服を寄越してくださるのは嬉しいけれど、そんなイカれた野郎が作った服は…まあ、着たくない。

もう誰も信用できないから、甘味一つで馬鹿みたいにニコニコしてないと気が狂うのだ。


だが、そんな張り詰めた空気が支配する屋敷から出る方法はある。

僕が成人になること。

これが条件だ。

過去の僕が情けなかったからここにいるのであって、死ぬまでここにいるわけではない。

成人前に鎌倉様に認められれば、早く出られる可能性もある。

生き残ればいい。

ただ生き残って、誰にもいちゃもんをつけられないような完璧な人間になってやる。















そんな過去の思い出を振り返り、改めて明日は成人の日であることに喜ぶ。

成人前に出ることは叶わなかったが、明日までで地獄は終わる。

解放されるのだ!

嬉しい、すごく嬉しい。

両親はまだ生きているはず。

家事、勉学、武術、作法、全てを身につけた僕を見たら、喜んでくれるだろうか。

小学校にすら行けなかったけど、僕は平凡な人間より、ずっとずっと優秀になったのだ!

だから…

「だから…もう、元の場所に帰ったら、お父さんとお母さんと、川の字でゆっくり寝たいな」

ここに来る前、やっていたように。

たくさん褒めて欲しいな、日本は賢いなって、頭を撫でて欲しい。

お母さんの料理も食べたい。

味は覚えていないから、きっと懐かしさなんて感じられないだろうけど。

抱っこは…駄目か、僕は大人になってしまった。 膝枕ならいいかな?

夜、僕は覚えのない両親に思いを馳せて、来た時より古くなった布団の中で瞼を閉じた。









「…ふあぁ…」

早朝に目が覚めてしまったようで、辺りはまだ薄暗い。

あまりに楽しみだからか、早く起きてしまった。

「この屋敷も今日で終わり…!」

服を着替え、布団を畳み、机の上に置いているものを片っ端から机に詰め込む。

勉強で使っていた本も栞を抜いて、本棚に並べた。

最後くらい綺麗にしてから出ようと思ったからだ。

痛みに震えていた僕が安全だと見做せたのは、この部屋だけだった。

部屋に備え付けてある箒と塵取りで簡単な掃き掃除もして、江戸様から内緒で貰ったキャラメルを口に放り込む。

甘いものはやっぱり美味しい。

「今日で終わり…」

何度も何度も呟いた。

僕自身が信じられていないから、確認するように、身に染み込ませるように呟く。

もう僕の人生の中で、こんなに嬉しいことはないだろう。

僕は耐え切ったんだ。

幾らか傷は残ったけど、それくらい些細なこと。

耐えて凌いで生き残ることができた。

嗚呼…今日は本当に幸せな日だ。







朝食を食べ終えた後、玄関の外へ来るように伝えられた。

言われた通り行ってみれば、鎌倉様や江戸様だけでなく、いつもは外に出払っているご先祖様たちも集まっている。

愉快そうに口端を上げる平安様が不気味だが、全部全部今日でおさらば。

「今日はお前が成人する日だな、まずは祝いの言葉でもかけてやろう」

「ありがとうございます、鎌倉様」

「長いようで短かったわ、楽しい時間だったぞ」

「もういなくなるとは寂しいのう。すっかりでかくなりおって」

「お二方もありがとうございます」

色々なご先祖様から声をかけられて、僕はいよいよ外へ出る。

この紅葉の木の下を潜れば、向こうへ帰ることができるのだ。

踏みしめるように歩いた。

一歩、また一歩と。

後一歩で帰れる。



「…え、あれ…?」

後一歩で、帰れるはず。

「な、なんで…あ、あ…?」

最後の一歩が踏み出せない。

どれだけ潜ろうと足を前に出しても、見えない壁のような物に阻まれている。

「どうして…?」

ザッザッと葉を踏む音が聞こえて、後ろを振り向いた。

「残念!お前はもう、向こう側の生き物ではなくなったみたいだぞ」

嬉々として言う鎌倉様の声。

あんなに楽しそうな声は初めて聞く。

「ここは死者の空間。生者はお前だけ。…それは、お前がここに来た頃までの話」

「…ど、どういうことですか…?僕はまだ、生きて…」

「いないんだよ、日本」

「江戸様…」

「お前は私の飴を食していたろう?私の血が入った、特別な飴を」

「鎌倉様の…血…」

「ここに住まう私の血を、約15年も摂取し続けたんだ、もう生き物とは言い難いだろう」

賢い頭で理解した僕は、その場で吐いた。

まだ形が残ったままの朝食と、わずかな胃液の臭いに咽せる。

「吐くことはないだろう、今まで美味しそうに食べ続けていたじゃないか」

馴れ馴れしく話しかけてくる鎌倉様は恐ろしく、楽しそうだ。平安様の不気味な笑みの意味も理解できた。

「お前はもう、向こうへ帰ることはできない。死ぬことも許さないし、仮に死んでもここの仲間入りだ。良かったな日本、久遠の時を私と過ごせるぞ」

もう一度吐きそうだ。

絶望で膝をつく僕に、鎌倉様は更に続ける。

「さあ日本、“家”に帰ろう」

永遠の時間を過ごすことになった僕にとって、今日ほど絶望的な日はないだろう。

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