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第64話「社内報で好きなところを聞かれる」
金曜日。
午後三時。
会議室。
机。
三人。
人事部の広報担当。
森野。
相沢。
テーブルには。
社内報インタビュー質問票。
森野。
朝から。
少し後悔していた。
「では、よろしくお願いします」
人事担当。
笑顔。
「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」
森野。
「仕事のインタビューなら緊張しません」
「今日は?」
「質問が仕事ではありません」
相沢。
「半分くらい仕事でしょ」
森野。
「五問目は完全に仕事じゃありません」
人事担当。
笑う。
「では最初から」
録音。
開始。
「お互いの第一印象を教えてください」
相沢。
「真面目な人」
森野。
「それだけ?」
「あと仕事が速い」
「それだけ?」
「話しかけにくい」
森野。
「悪くなってます」
人事担当。
「森野さんは?」
「相沢さんの第一印象は」
相沢。
待つ。
「普通の人」
相沢。
「ひどくない?」
「本当にそうだったんです」
「もう少し何か」
森野。
考える。
「普通で」
「うん」
「だから安心しました」
相沢。
「どういう意味?」
森野。
「私にとって」
少し。
考える。
「普通に接してくれる人って」
「意外と少なかったので」
人事担当。
メモ。
「なるほど」
森野。
「そこ、大げさに書かないでください」
「分かりました」
第二問。
「相手の仕事上、尊敬しているところは?」
森野。
今度は。
すぐ。
答えた。
「人のミスを責めないところです」
相沢。
少し。
驚く。
森野。
「トラブルが起きたとき」
「誰がやったかより」
「どう直すかを先に考えるので」
人事担当。
「よく見てますね」
森野。
「同じ部署ですから」
「相沢さんは?」
「森野さんは」
少し。
考える。
「最後まで投げない」
森野。
相沢を見る。
「面倒な案件でも」
「誰かが困ってると」
「結局最後までやる」
「あと」
「何です?」
「本人は冷静なつもりだけど」
「かなりお人好し」
森野。
「それ褒めてます?」
「かなり」
第三問。
「親しくなったきっかけは?」
二人。
止まる。
森野。
「これは」
相沢。
「どうする?」
本当のきっかけ。
エルフであることを。
相沢が知った。
あの日。
森野。
「秘密を」
「うん」
「相沢さんに知られたことです」
人事担当。
「秘密?」
「内容は秘密です」
「なるほど」
相沢。
「その秘密を知ってから」
森野。
「はい」
「話すことが増えました」
人事担当。
「そこから交際に?」
森野。
「かなり時間があります」
相沢。
「そんなにないよ」
「私にとってはあります」
第四問。
「職場恋愛で困ったことは?」
森野。
即答。
「田中さんです」
会議室。
沈黙。
人事担当。
笑う。
「個人名は載せられません」
「では」
森野。
「同僚からの過度な観察です」
相沢。
「同じ意味」
第五問。
人事担当。
質問票を見る。
「では」
森野。
姿勢。
変わる。
「相沢さんから見た」
「……」
「森野さんの魅力を教えてください」
森野。
相沢を見る。
「これ」
「うん」
「昨日から秘密にしてましたよね」
「そう」
「では」
人事担当。
「お願いします」
相沢。
森野を見る。
少し。
考える。
「一緒にいると」
森野。
待つ。
「毎日が普通になるところです」
森野。
「……」
人事担当。
「もう少し詳しく」
相沢。
「森野さんって」
「はい」
「いろいろ普通じゃないところもあるけど」
森野。
「ありますね」
「でも」
相沢。
「朝起きて」
「一緒に朝飯食べて」
「会社来て」
「仕事して」
「帰って」
「夕飯食べて」
「くだらないことで話して」
森野。
黙る。
「そういうのが」
相沢。
「すごくいいんです」
人事担当。
「なるほど」
相沢。
「特別な人だけど」
「特別なことをしなくても」
「一緒にいられるところが」
少し。
笑う。
「好きです」
森野。
完全に。
黙る。
人事担当。
「森野さん?」
「……」
「大丈夫ですか?」
「次の質問にしてください」
相沢。
「感想ないの?」
「ありません」
「顔赤いよ」
「会議室が暑いんです」
人事担当。
空調。
見る。
「二十二度です」
森野。
「次お願いします」
第六問。
「森野さんから見た相沢さんの魅力は?」
森野。
「聞いてません」
「質問票にあります」
森野。
確認。
本当に。
ある。
「昨日見落としました」
相沢。
「お願いします」
森野。
しばらく。
考える。
「……普通なところです」
相沢。
「また?」
「最後まで聞いてください」
「はい」
森野。
相沢を見る。
「私を」
少し。
間。
「普通の人として扱ってくれるところです」
相沢。
黙る。
「最初から」
「変に特別扱いしなかった」
「怖がらなかった」
「面白がりすぎなかった」
相沢。
「少し面白がったけど」
「少しは」
森野。
笑う。
「でも」
「森野リリカとして」
「ずっと接してくれた」
人事担当。
静かに。
聞いている。
森野。
「だから」
「私は」
「この人といると」
「普通に」
「自分でいられます」
相沢。
何も。
言わない。
森野。
「以上です」
人事担当。
「素敵ですね」
森野。
「記事では短くしてください」
「どうして?」
「恥ずかしいので」
インタビュー。
終了。
会議室。
出る。
廊下。
相沢。
「森野さん」
「何です?」
「さっきの」
「忘れてください」
「無理」
「仕事のインタビューです」
「俺も好きだよ」
森野。
歩く速度。
上がる。
「会社です」
「廊下誰もいない」
「会社です!」
その日の夜。
自宅。
夕食。
二人。
向かい。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「今日」
「うん」
「普通って」
「うん」
「何回言いました?」
「結構」
「社内報の記事」
「タイトル」
「『普通の二人』になりそう」
相沢。
「いいじゃん」
「エルフなのに?」
「だからいいんじゃない?」
森野。
少し。
笑う。
「そうかもしれません」
数日後。
社内報。
公開。
タイトル。
『一緒に働く、一緒に暮らす――営業企画部の二人』
森野。
画面。
固まる。
「一緒に暮らすまで書いたんですか!」
田中。
すぐ読む。
「いい記事!」
「読まないでください!」
「社内報ですよ!」
社員。
読む。
別部署。
読む。
人事。
読む。
総務。
読む。
昼。
社員食堂。
知らない社員。
森野へ。
「記事読みました」
「ありがとうございます」
「素敵でした」
「……ありがとうございます」
別の社員。
相沢へ。
「相沢さん、いいこと言いますね」
「どうも」
森野。
恥ずかしい。
でも。
以前ほど。
嫌ではなかった。
午後。
部長。
「記事」
森野。
「はい」
「評判いいぞ」
「そうですか」
「仕事の記事より読まれてる」
森野。
「それは複雑です」
部長。
笑う。
そして。
「相沢」
「はい」
「森野」
「はい」
少し。
真面目な顔。
「来年度の人事」
二人。
表情。
変わる。
「まだ正式じゃない」
「はい」
「相沢に」
部長。
資料。
渡す。
「異動の話が出てる」
森野。
止まる。
相沢。
「どこですか?」
「大阪支社」
森野。
「……」
相沢。
資料。
見る。
「期間は?」
「最低二年」
部長。
「場合によっては」
「そのまま向こうで昇進」
森野。
何も。
言わない。
部長。
「まだ打診段階だ」
「断ることもできる」
「ただ」
相沢を見る。
「キャリアとしては」
「かなりいい話だ」
その夜。
家。
夕食。
二人。
ほとんど。
話さない。
森野。
箸。
置く。
「相沢さん」
「うん」
「大阪」
「うん」
「行きたいですか?」
相沢。
答えない。
森野。
「私のことは」
「うん」
「考えないで答えてください」
相沢。
「難しいな」
「難しくても」
「……」
「行きたい?」
長い。
沈黙。
相沢。
「仕事だけなら」
「うん」
「行きたい」
森野。
少し。
笑う。
「そうですか」
「でも」
「いいんです」
「森野さん」
「行ってください」
相沢。
「まだ決めてない」
「私は」
森野。
まっすぐ。
見る。
「相沢さんの仕事を」
「邪魔したくありません」
「邪魔じゃない」
「分かってます」
「でも」
森野。
「私がいるから断ったって」
「あとで思ってほしくない」
相沢。
黙る。
森野。
「二年くらい」
「……」
「大丈夫です」
相沢。
「本当に?」
森野。
「はい」
でも。
その夜。
ベッド。
電気。
消える。
二人。
横。
森野。
眠らない。
相沢。
「起きてる?」
「寝てます」
「返事してる」
「……」
「森野さん」
「はい」
「二年」
「はい」
「大丈夫?」
森野。
しばらく。
黙る。
そして。
「嫌です」
相沢。
見る。
暗い。
森野。
「本当は」
「うん」
「嫌です」
「……」
「毎日」
「一緒にいるようになったのに」
森野。
「また」
「離れるの」
「嫌です」
相沢。
手。
探す。
握る。
「じゃあ」
「はい」
「ちゃんと考えよう」
森野。
「でも仕事は」
「仕事も」
「俺たちも」
相沢。
「両方」
「考える」
森野。
「できますか?」
「やるしかない」
「……」
「だって」
相沢。
「二人のことだから」
森野。
手。
握り返す。
終盤に入った二人に。
初めて。
恋愛ではなく。
生活そのものを。
選ばなければならない日が。
近づいていた。
コメント
1件
わあ……このエピソード、すごく好きです。 社内報のインタビューっていう普段はちょっと堅苦しい場面なのに、お二人の「普通」に込められた想いがじんわり伝わってきて、何度も読み返しました。特に相沢さんの「特別なことをしなくても一緒にいられるところが好き」って言葉、その一言で全部が優しく包まれるような温かさがあって……もう胸がいっぱいです。 最後の異動の話、一気に現実がやってきてハラハラしました。「嫌です」って本音をこぼす森野さん、すごく切なくて、でもちゃんと向き合おうとする二人が本当に素敵だなって思います。この先が気になって仕方ないです。更新、楽しみに待ってますね🌷