テラーノベル
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あれから二日。 私は部屋に戻ってきた。
行く当てもないのに外にいたところで、何かが変わるわけじゃなかった。
結局、私にはここしかない。
省吾はちゃぶ台に向かっていた。
私が勝手に飛び出したことなんて知らない顔で、パソコンとにらめっこしている。
少しだけ腹が立った。
少しくらい落ち込めばいいのに。
いや、私が勝手に落ち込んだだけなのだけれど。
省吾は資料を見ながらキーボードを叩いている。
取材内容をまとめているらしかった。
これまで集めた朝倉家事件の情報。
私のこと。
そして、この部屋のこと。
事故物件としての記事も一緒に書いているようだった。
振り返ってみれば、それらしい現象はほとんど起こしていない。
白石さんが訪ねてきた時。
喫茶店での奇妙な感覚。
それから、私が暇つぶしに時々鳴らしていたラップ音。
その程度だ。
省吾自身も、それを本気で心霊現象だと思っているわけではないらしい。
ただ、フリーライターとして記事にするなら多少はそういう話も必要なのだろう。
「それならもう少し派手にやったのに」
私は笑った。
「コップ浮かせたりとか」
もちろん聞こえない。
コップなんて浮かせられないし。
省吾は資料を見返しながら、ぶつぶつと独り言を続けていた。
最初は気にも留めていなかった。
でも。
聞いているうちに、少しだけ妙な気持ちになった。
まるで私に話しかけているみたいだった。
返事を待っているみたいだった。
そんなわけない。
そんなわけないのに。
気付けば私は省吾のすぐ側に座り込んでいた。
話したい。
そう思った。
省吾は私のことを調べている。
私の代わりに私を知ろうとしている。
だったら。
少しくらい本人が教えてあげてもいいんじゃないだろうか。
問題は方法だった。
声は届かない。
姿も見えない。
文字も書けない。
でも。
私はラップ音を鳴らせる。
本当に小さなものだけど。
「……これだ」
思わず呟いた。
YESなら一回。
NOなら二回。
それなら伝わるかもしれない。
いや。
伝わらないかもしれない。
それでも何もしないよりはずっといい。
省吾は相変わらず独り言を続けている。
「事件当日の足取りは不明か」
分からない。
私も知らない。
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#初心者だからつまんないかも....
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当然、返事はできない。
「朝倉家の関係者は全員話を聞いたわけじゃないしな」
これにも答えられない。
質問じゃない。
やっぱり無理かも。
そう思った時だった。
省吾がふと天井を見上げた。
「……この部屋、やっぱり変なんだよな」
私は反射的にラップ音を鳴らした。
ピシッ。
小さな音だった。
省吾の視線が止まる。
私は固まった。
聞こえた?
聞こえたの?
省吾は天井を見上げたまま動かない。
しばらくして首を傾げた。
気のせいだと思ったのだろう。
再び作業へ戻ろうとする。
私は少しだけ落胆した。
だが。
その数分後。
省吾が突然顔を上げた。
「……いや」
部屋を見回す。
ちゃぶ台。
本棚。
窓。
そして何もない空間。
まるで誰かを探すように。
私は息を呑んだ。
省吾の視線がこちらを通り過ぎる。
見えてはいない。
でも。
何かを感じている。
そんな気がした。
「まさかな」
省吾が小さく呟く。
妙な表情だった。
笑い飛ばしたいのに笑えない顔。
信じたくないのに無視できない顔。
そして。
省吾が口を開く。
「澪さんは、今ここにいる」
私は固まった。
心臓なんてないはずなのに。
胸の奥が大きく鳴る。
誰にも見えない。
誰にも聞こえない。
五年間ずっとそうだった。
それなのに。
今。
目の前の人が。
そこにいるんだろう、と言った。
返事をしてしまったら。
本当に気付かれてしまう。
でも。
気付いてほしかった。
ずっと。
ずっと。
私はラップ音を一回鳴らした。
ピシッ。
静寂が落ちる。
省吾の目が大きく見開かれた。
私も動けない。
数秒。
誰も何も言わなかった。
やがて省吾が乾いた声を出す。
「……うそだろ」
もう一度。
今度は少しはっきりと。
「澪さんは、今ここにいる」
私はすぐにラップ音を鳴らした。
ピシッ。
省吾が立ち上がる。
部屋を見回す。
もちろん何も見えない。
私も姿を見せられない。
ただそこにいるだけだ。
省吾は唇を噛んだ。
しばらく黙り込む。
それから再び口を開いた。
「澪さんは、生きている」
私は少しだけ笑った。
「死んでるよ」
だから困っている。
だからここにいる。
ピシッ。
ピシッ。
二回。
省吾が息を呑む。
顔色が変わる。
冗談では済まない顔だった。
省吾は何度も質問した。
私は答えられるものだけ答えた。
そして、あらためて聞かれた。
「朝倉澪さん?」
私は少しだけ迷った。
名乗るのは五年ぶりだった。
けれど。
ここで否定する理由はなかった。
ピシッ。
省吾が固まる。
私も固まる。
不思議だった。
誰かに返事を待たれるのも。
誰かに自分の名前を呼ばれるのも。
やがて省吾は額を押さえた。
「……本当に?」
私はもう一度鳴らした。
ピシッ。
省吾はしばらく動かなかった。
やがて何かを思いついたようにスマートフォンを手に取った。
嫌な予感がした。
とても。
ものすごく。
「もしもし、白石さん?」
私は身を乗り出す。
「実は呼んでほしい人がいるんですが」
呼んでほしい人。
誰?
なんで?
省吾は話を続ける。
私には内容までは聞き取れない。
だが。
ひとつだけ分かった。
心霊の関係者だ。
絶対に。
「ちょっと待って」
嫌な予感しかしない。
「誰を呼ぶ気!?」
私は慌ててラップ音を鳴らした。
ピシッ。
ピシッ。
違う。
違う。
違う。
そういう意味じゃない。
だが省吾は電話中だった。
まったく気付かない。
「はい。ぜひお願いします」
そう言って通話を切る。
私は呆然と省吾を見つめた。
省吾は少し安心したような顔をしている。
私は逆だった。
嫌な予感しかしない。
もしかして。
本当に除霊とかじゃないよね。
コメント
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あ、これめっちゃいい……! ラップ音で「YES一回、NO二回」のルール、シンプルだけどめっちゃ効いてる。五年ぶりに自分の名前を認めて返事する瞬間、読んでて胸がぎゅーっとなったわ。最後の「誰を呼ぶ気!?」からの焦り、すごく伝わった。除霊とか来たらやだな……続きめっちゃ気になる🔥