ゾクっ
急に背筋に冷たい物を感じたコユキが本堂の中に目をやると、ご本尊の左側、スプラタ・マンユの七兄妹弟(きょうだい)の反対側に鎮座している、純白の鶴の尾羽と開封済みの柿の種(輪ゴムで密閉中)の上部に驚ろ驚ろ(おどろおどろ)しく禍々(まがまが)しい想念の様なものの渦が沸き立つのが見える。
魔力とか聖魔力ではなく、なんというか殺意にも似ているがもっと純粋な怒り、所謂(いわゆる)『怒気(どき)』ってやつだとコユキは思ったのだ。
額に一筋の汗を垂らしながら、まだ笑いこけているバカップルとバカ犬三匹に向かって言うのであった。
「ね、ねえ、笑うのはもう良いから、その後の話を聞かせてよ? 追いかけてそんでどうなったのん? 雉に化けた温羅(ウラ)君の運命や如何に? よ!」
クロシロチロの畜生共が事も無げに答える。
「そりゃ喰いましたよ」
「うむ、中々に美味であった」
「ローストフェザントはやっぱシンプルに塩だね、塩、甘塩一択だよね!」
喰ったのか……
コユキも私同様に複雑な表情を浮かべていた、まあ、そりゃそうだろう、化けていたとはいえ『鬼』それも王様を食べちゃうとか、中々にグロい話じゃないか。
何とも苦々しい表情を浮かべるコユキ横からトシ子が老人独特の無神経、所謂(いわゆる)酸いも甘いも噛み分けた、感覚麻痺を発揮して三匹に聞いたのである。
「ほほう、話には聞いていたが雉って奴はやっぱり美味いんじゃのぅ! ねえ、ダーリン今度食べてみたいよねぇ! んねえ、連れてってくれろぉぅ!」
「そうだな、我も久しぶりに食べてみたくなったぞ! 今度行ってみようか? 欧州ではパンタード(ホロホロ鳥)と同様に貴族の肉と言われていてな、そりゃぁ大層美味かった記憶がある、どうかな、コユキ? この辺りでも食べられるのであろうか? どこに行けば良い?」
コユキは我慢の限界を越えたのだろう、力強く叫ぶのであった。
「ムッキイィィ~! んなの知らないわよぉっ! でも、でも、食べに行く時はアタシや善悪も連れて行きなさいよっ! 抜け駆けとかしようもんなら…… 生きてる事を後悔させてやるわよ……」 ジュルルルゥ、ジュルルルゥ~
零れ(こぼれ)落ちる涎(ヨダレ)を隠そうともせず、喰う気満々、アンタそっちサイドなんだね…… 残念至極! な逞しい我が祖母コユキであった。
しかし、食欲に捕らわれている最中であっても、本来の属性天邪鬼(あまのじゃく)、ジャックザアマーを発揮する事が可能なコユキである、引っ繰り返した言葉を発したのであった。
「とはいえ、喰い殺されちゃった温羅(うら)君も可哀そうよねぇ~、だって纏(まつ)ろっていない、それだけが討伐の理由なんでしょ? ちょっと酷くないかなぁ?」
この言葉にクロ、元ケルベロスの黒狼(こくろう)、地獄の番犬が可愛く首を傾げて答えたのである。
「ん? コユキ様殺してはいないですよ、我々それぐらいの分別は持ち合わせているので」
コユキは益々混迷の度合いを深めて聞き返すしかなかった。
「え、どゆこと?」
今度は純白の魔狼、北欧では神と崇め奉られる存在、フェンリルのシロちゃんが答えてくれるのである。
「頭だけを残したのでございますよコユキ様、クフフフ、最早文字通り手も足も出なかった温羅めは首だけになってコロコロ蠢いていたのです、クフフフ」
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