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レザンス魔法ギルドの残党とは、何ともしつこい繋がりがあったものだ。おれにとって、かつての師匠であるバヴァル自身がどうなっているかも気にしていなかったのに。短剣使いのヘルガという女は、弱い心に付け込まれた挙句操られている。
こうなると、やはりラクルにいてもいいことは無さそう。ミルシェやルティたちの様子も気になるが、それはフィーサに任せることにする。
◇◇
「だ、大丈夫? えっと、ミルシェ……?」
フィーサは、恐る恐るうずくまるミルシェに声をかけた。
「……はぁぁ。ふ、不覚でしたわ」
「あれっ? お腹を刺されて重傷じゃなかったの?」
「違いますわ。このお腹の痛みは、ルティの作った料理のせいですわ! 不覚すぎてアックさまに余計な心配を……」
「えぇ? じゃ、じゃあ、あの女にやられたんじゃなかったの?」
「いくらあたしが弱くなったといっても、あんな武器でやられるわけがないわ。防御魔法もきちんとかけていたわけだし……」
ミルシェの告白にフィーサは戸惑っている。
「じゃあシーニャとルティシアも~?」
「ルティはあんな重そうな鎧を着せられて、動けなくなっているだけだわ。虎娘もあたしと同様に鍋料理で動けなくなっているだけ」
敵の仕業ではなくまさかの答えに、フィーサは戸惑いを隠せない。
「じゃ、じゃあイスティさまの怒りを止めないと~!」
「――いいんじゃない?」
「でもでも、イスティさまのあの様子だと、この辺りを消滅させそうで怖いよ~」
「それなら、あなたはルティたちの所へ行って! あたしはアックさまの所に向かうわ」
様子を見る限り、ミルシェは大丈夫そうに見える。シーニャが痺れているのが気になるが、彼女たちを傷つけたこいつらを消すのが先だ。
「ククク……よそ見してていいのか、アック・イスティ」
黒衣の男に視線を戻すと、奴は持っていた杖を地面に突き刺している。すると、おれの足下から衝撃波が生じ始めた。その直後、地面がまるでうねるように波打ちだした。恐らく、地属性を含んだ武器を突き立てたことで周囲に地震を起こしたに違いない。
「クカカッ! どうだ、立っていられまい!! 足下を気にしていてはお前の未熟な魔法も役には立たないだろう」
「……確かにそうだろうな」
「我の他に、お前を封じることの出来る仲間を紹介しよう!」
「ほぉ? そいつはどこに隠れているんだ?」
「お前の背後の影でもあり、この女の肉体そのものと言える……」
この期に及んでまだそんな奴がいるのか。
「思念飛ばしの不意打ち野郎か」
「……思念飛ばし? クク、奴は操霊魔導士。人形である女に魔力を送り込み、自在に操れる優れた魔導士だ。お前のような未熟な者とはワケが違う……」
なるほど。
操ったヘルガを使って不意打ちを仕掛けられたということか。どうりで、ラクルにいた時に気配を感じられなかったわけだ。
「おれに復讐してどうするつもりだ?」
「お前ごとき未熟者を消した後、未だ未練を残すバヴァルの息の根を止めに行く。そうすれば、我らを脅かす魔法士なぞ存在しなくなるのだからな!」
「……つまりおれを排除した後にバヴァルを消して、世界でも手に入れようって狙いなわけか」
「クク、その通りだ。そろそろ消えてもらうぞ!」
何かと思えばくだらないことだった。こんな奴らに隙を見せたおれもくだらないが、半端な魔導士をのさばらせたバヴァルも哀れなものだ。どの程度の魔法と攻撃で消そうとしているのか、見ておくとするか。
いきがる黒衣の男とその他の気配の前に、おれは何も構えることなく立ち尽くす。
「どうした? 諦めが早いことだな! お前の魔法の実力はたかが知れているが、抵抗しないのは興ざめなのだがな」
「さっさとやったらどうだ? おれはここから動かないのだが?」
「動けないの間違いだろう! ならば、消えろ!」
「……む!」
「《デストルクシオン!!》」
黒衣の男の声と姿を見せない男たちの魔法が発動により、おれが立っている一帯が破壊されようとしている。
「ウ、ウワァァァァァ!? た、助けてくれえええええ!!」
「誰かぁぁぁぁ!! ここから上げてくださぁぁぁぁ!!」
この辺りには罪なき冒険者とヘルガの姿があり、地中に沈めた連中も残っている。さらには、離れた所にいるルティたちも身動きが取れないままだ。
さすがに巻き添えを喰らわせるつもりも無いので、おれは発動させてきた魔法を取り込んだ。魔法は封じ込めに成功した。奴らから見れば、一帯もろともおれを消滅させたと思うはずだ。怪しまれてもつまらないので、ルティたちと冒険者たちには幻影魔法をかけた。
奴らを喜ばせたら、後はあっさりと仕上げにかかるとしよう。