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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「―――あ」


隆太は自分の姿を見下ろした。



「”あなたの負けです”」


アリスが静かに言い放つ。


「だって……。こんなの反則だろ……」


隆太は眉間に皺を寄せた。


「目の前に死にそうな女の子がいたら、助けるだろ!普通……!」


必死でアリスに訴える。


「ええ、そうですね」


アリスは翳した手を下げつつ、そう言った。


と、急に動き出した女の子が、隆太の太腿に頭をぶつけた。


「う―――」


頭を思い切りぶつけて痛むのか、小さな両手を頭のてっぺんに乗っけて、こちらを見上げてくる。

大きな目に涙が溜まり、


「うええええん!!」


一気に泣き出した。


隆太の背後でボールが勢いよくガードレールに跳ね返って隆太の足元に転がった。



「――――みのり!!」


母親が駆け寄ってくる。


「ありがとうございました!ありがとうございました!!」


母親が必死で頭を下げる。


「いや……別に俺は……」


隆太は転がったボールを見下ろした。


「何も……してないです」



と二人の後ろから、若い男性が走ってきた。


「すみません。助かりました。ありがとうございました!」


隆太はその青年を見つめた。



ジーンズにチェックのシャツ。袖のないニットに野球帽。



自分もこんな、お父さんらしい父親になれていたら、何かが変わっていたのだろうか。



「ちゃんと本能に、従いましたね」


その言葉に、もう一度アリスを振り返る。


「それでいいんです。仙田さん」



言ったアリスの手には、小さな鈴が握られていた。


リーン………。



画像




―――そうだ。


6月19日。


あの日、隆太は病院にいた。

それまでも市立病院へは、杏奈の予防注射で何度も付き合わされたことがあった。


しかしいつもなら杏奈を抱いて離さない詩乃が、病院に着いたとたん、ウサギのぬいぐるみと共に杏奈を隆太に抱かせた。



名前を呼ばれたのは―――。


杏奈じゃなくて、詩乃だった。


カーテンの向こう側に消えていく小さな後ろ姿をポカンと見つめながら、隆太は口を開いた。


―――え。もしかして妊娠?


「はは。馬鹿か」


一瞬、頭をよぎった。


―――セックスなんてしてないのに。


自分の思考に思わず笑うと、杏奈も父親の笑顔が楽しかったのか、キャッキャと笑った。


「チュッ!」

そのほっぺにウサギのぬいぐるみを押し付ける。

杏奈はくすぐったそうに首を捻った。




後ろから足を引きずるような物音がした。



振り返ると、そこにはナイフを持った葵が立っていた。



葵が隆太にどんな感情を持ち、何を考え、ナイフを握って走ってきたか、隆太にはわからなかった。


ただ、自分が死ぬこと。


杏奈は守らなければいけないということだけは、わかった。



隆太が向かってくる葵に背を向け、杏奈を抱きしめた。


隆太はナイフが刺さり、血が滲み出す自分の腰を見下ろした。


―――そうか。


刺殺されたのって、


俺か。


母親に抱きしめられていた女の子が、今度は父親に肩車されている。


ーーーあの日、自分は葵に殺されたんだ。


「ーーーあんなの、バグでも何でもねえよ。俺は死ぬべくして、死んだんだ」


隆太はアリスを見つめた。


「俺は、蘇らなくていい」



アリスは微笑を浮かべながら首を横に振った。


「もう一度言います。あなたの、負けです。あなたには生き返ってもらいます」


「いいって。俺、生き返んなくていいよ」


「いえ、ダメです」


「だって、俺の代わりに誰か死ぬんだろ!?」


隆太はアリスに駆け寄り、その小さな肩を掴んだ。


「こんな俺の代わりに死んでいい人間なんて、誰もいねえんだよ!親父もお袋も、弟も、詩乃も杏奈も!誰も死んじゃいけねえんだよ!」



「―――杏奈ちゃんを」


アリスの手にはいつの間にかウサギのぬいぐるみが握られていた。


「一人にするつもりですか?」


「ひと……り……?」


わけもわからず隆太がぬいぐるみを受け取ると、アリスは目を細めた。



『――解錠――』


その瞬間、広場の中央にある噴水に、雷のような光の柱が落ちた。


「え……何!?」


周りの人間たちがざわつきながら、噴水から逃げるように離れる。


『――輪廻陸道――』


アリスが唱えると、突き抜けるような晴天が、急に黒雲に覆われた。


「アリス……!!」


隆太がアリスに手を伸ばす。


『――蘇生廻天――』


「ーーーー?!」


真黒な雲から白い結晶が落ちてきた。


「―――雪……?」


尾山が呟き、花崎が落ちてくるそれに手を差し出す。


気が付くとあたりは、一面白銀の雪山に変わっていた。



『―――すごい……!月明りに反射して、きらきら輝いてる……!』


振り返るとそこには、出会ったばかりの頃の詩乃がいた。



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