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耐え内
233
260
葵
106
――冷たい床。
目を開けると、外廊下に横たわっていた。
頬に触れるコンクリートは湿っており、鼻を突くのはあの生臭く甘ったるい匂い。
隣人の姿は、もうなかった。
ただ、洗濯機だけが――相変わらず、律儀に回り続けている。
ゴウン……ゴウン……。
その音に、心臓の鼓動が妙に重なって聞こえる。
気づけば、俺はふらつきながら洗濯機の前に立っていた。
逃げようと思っていたはずなのに、足は勝手に動き、視線はドラムの奥へ吸い寄せられる。
蓋に手をかける。
指先が震える。
開けてはいけない――頭の奥で声がする。
それでも、俺の手は恐る恐る蓋を持ち上げた。
ぶわっと濁った水蒸気が吹き出し、視界を覆う。
その中で、泡まみれの腕がゆっくりと回っていた。
白くふやけた皮膚、指の隙間からこぼれる泡。
まるで、まだ生きているようにドラムの中で踊っている。
「……っ!」
反射的に左手で口を塞ごうとした――
だが、その左手は存在しなかった。
肘の上から、何もない。
そこから、しずくが――ぽたり、ぽたりと洗濯機の中へ落ちていく。
しずくが落ちるたび、回転音はわずかに速くなった。
ゴウン……ゴウン……ゴウン……。
俺はそのまま、ゆっくりと前のめりに傾いていった。
水面が、俺を迎え入れるように揺れる。
そして――回転は止まらなかった。
コメント
1件
読み終わりました……ぞっとする余韻がすごいですね。最終話とありますが、むしろ「終わらない怖さ」をしっかり閉じた潔いラストだと感じました。洗濯機の回転音と鼓動が重なる描写、自分の腕がないことに気づく瞬間の静かな衝撃――どれも映像が浮かぶようでした。最後の「回転は止まらなかった」で、読んだ後もずっと頭の中であのゴウンという音が響き続けています。不気味で美しい、素敵な作品でした🕊️