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ルナティックの巨大本拠地、その正面玄関にあたる巨大な鉄門のすぐ外側。
そこは、紫色の霧が最も濃く立ち込め、空間そのものが異界の汚染に歪んでいるような場所だった。
明日という概念が霧散した灰色の空の下、かつては都市を象徴する巨大な広場だったその場所は、今は異形の石柱と荒れ果てたガレキの海に飲み込まれている。
「エリオット、俺の背中を見失うな」
ピザガイの声は、いつもの低音よりも一層低く、そして重苦しい響きを帯びていた。
彼が握りしめているショットガンは、今や銃身が熱で歪み、至る所に削れた傷跡が残っている。
それが、彼らが生き延びてきた地獄の長さを雄弁に物語っていた。
「分かってるよ。僕はずっと君の背中に張り付いているんだから。30分以内の配達なんて約束、ここでは守れそうにないけど……最後くらい、最高のトッピングを用意してあげなきゃね」
エリオットはアサルトライフルのマガジンをすべて抜き、ベルトにぶら下げた。
残弾はわずか。ここを突破すれば、ルナティックの心臓部へ届く。
だが、そこから生還できる確率は、彼らがピザ店で焼いていたどんな失敗作のピザよりも低かった。
死へのカウントダウンが、空気の震えとなって肌を撫でている。
ピザガイが不意に足を止め、廃車になった装甲車の影へとエリオットの身体を力任せに引きずり込んだ。
外からの死角。
鉄錆と紫色の瘴気が渦巻く暗闇。
エリオットが言葉を紡ぐ間もなかった。
ピザガイはエリオットの襟元を掴み上げ、まるで魂を抜き取るかのような激しさで唇を重ねた。
それはもう、甘い恋の行為などではなかった。
互いの存在を確認し、境界を溶かし、死の恐怖を愛の熱でねじ伏せようとする、絶望的なほどに必死な、獣の儀式だった。
「……っ、ん、ッ…」
ピザガイの舌が荒々しくエリオットの口内を蹂躙する。
エリオットはピザガイの首に両腕を回し、その重く強固な体躯を己に密着させた。
男の身体から発せられる熱さは、迫り来るルナティックの冷酷な気配よりもずっと鮮烈で、生きているという感覚を狂おしいほどに突きつけてくる。
ピザガイはエリオットの首筋に顔を埋め、獲物を喰らう獣のように鋭い牙を立てた。
皮膚が裂ける痛みに、エリオットは男の銀髪を握りしめ、背中を激しく反らせる。
肉に刻まれる鮮烈な痛みは、たとえ地獄の業火に焼かれようとも決して消えない「証明」のように思えた。
「うん、いいよ……もっと、残して。君の印を、僕の身体のどこにでも」
エリオットもまた、ピザガイの鎖骨を噛み締めた。
互いの血の味が口の中に広がる。
金属的で、塩辛く、そして死ぬほど温かい血の味。
二人の制服はすでに泥と血で元の色が分からないほどだったが、そこへさらに新しい赤が幾重にも塗り重ねられていく。
ピザガイの荒々しい手が、エリオットの腰を抱え上げ、防弾プレートの隙間へと滑り込む。
湿った衣服の向こう側、互いの最も敏感な部分が、激しい摩擦を繰り返すたびに熱を帯び、意識を白く塗りつぶしていく。
「エリオット……お前を、俺の肉に、魂に刻み込む。どれほど世界が崩れ去っても、どれほど俺たちがバラバラになっても……この痛みと、この匂いがあれば」
「うん……っ、そうだよ、ピザガイ。これで地獄に行っても、真っ先に君を見つけられる。君がどれだけ遠くにいても、僕が必ず、君の魂を迎えに行くから……!」
エリオットはピザガイの胸に顔を埋め、男の鼓動が己の鼓動と完全に重なり合うまで、何度も何度も身体をぶつけ合った。
狭い空間で熱情が頂点に達し、二人の魂が溶け合うような衝撃とともに、それは訪れた。
ルナティックの悲鳴のような風の音が、遠くで聞こえたような気がした。
突入の合図は、敵の足音ではなく、自分たちの絶頂の余韻だった。
荒い呼吸を整える間も惜しんで、二人は再び、ボロボロになった赤いバイザーを揃えて直した。
エリオットの鎖骨には鮮やかなキスマークと歯型が刻まれ、ピザガイの肩口にもエリオットが残した紅い傷跡が滲んでいる。
それは戦士の勲章でも、制服の記章でもない。
互いの魂が、地獄の果てまで決して離れないという、死の淵で交わした盟約だった。
「さて、ピザガイ。最高の仕事をしに行こうか」
エリオットがアサルトライフルを拾い上げ、いつもの、しかし死を恐れぬ者だけが持つ不敵な笑顔を浮かべた。
「ああ。地獄の連中に、俺たちの手作りの『お仕置き』を配達する時間だ」
二人は装甲車の陰から躍り出た。
血の味を残した唇を固く結び、重なり合う傷跡を誇るように晒しながら。
ルナティックの軍勢が待ち受ける本拠地の中央へと、彼らは地獄の門を蹴破るような勢いで走り出した。
Builder Brother’s Pizza の最後の配達が、今、ここに始まった。
死が二人を分かつまで。
いや、死が二人を一つにする、その瞬間まで。
#1x1x1x1
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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